日本中からの声援
麗華が一歩前に出た。
彼女の瞳には、何ものにも動じない強靭な意志が宿っている。
「任せてくださいまし!」
大鬼が振り下ろした巨大な金棒を、麗華は真正面から盾で受け止めた。
ギィィィン! という激しい金属音がダンジョン内に響き渡り、衝撃波が周囲の空気を震わせる。だが、麗華の足は一ミリも動かなかった。神様の加護と俺のステータス補正、そして彼女自身の鍛え抜かれた筋力と技術が合わされば、この程度の攻撃は止めてみせる。
「今ですわ!」
麗華の掛け声と共に、俺たちの体が動く。いつもの連携だ。
凛が音もなく大鬼の背後に回り込み、太い足を一刀両断する。
「ぎゃあああ!」
バランスを崩してよろめく大鬼。その隙を見逃さず、雪と美咲が左右から飛び込んだ。
「はあっ!」「せいっ!」
2人の刃と槍が同時に大鬼の急所を正確に貫く。致命的な深手を負った大鬼が、ドサリと崩れ落ちた。
「美咲様ー! カッコいい!」
後方で黒鉄さんが心からの叫びを上げている。相変わらずだが、その明るい声は場の緊張を和らげてくれている。
「おおお! やれるぞ!」「行けえええ!」
他の探索者たちも、俺たちの連携を見て沸き立つ。士気が一気に高まった。
ドローンカメラが何台も空を飛び、この光景を全国に配信している。
今、日本中の人たちが息を呑んで、そして拳を握りしめて俺たちを応援してくれているはずだ。その思いが、俺たちの背中を押す。
巨大鬼を倒した勢いのまま、探索者たちの一斉攻撃が始まった。
前線を押し返していく。黄泉の軍勢も、日本中の思いの火力には抗えないようだ。
後方では、琴葉とアマゾネスの真奈美さんが忙しなく動き回っていた。
「大丈夫ですか? こっちに来てください」「傷を治しますね」
彼女たちの回復魔法が、戦闘で負傷した探索者たちを次々と癒していく。
…ただ、回復されている探索者たちの鼻の下が妙に伸びているのが気になった。柔らかな手に触れられて、痛みよりも喜びを感じているような顔だ。
「頼むから、わざとケガするのだけはやめてくれよ…」俺は頭を抱えたくなったが、今は黙っていよう。
みどりと香織さんは、前線の探索者たちの隙間から正確な弓射で敵を仕留めていく。詩乃はずっと歌い続けていた。その歌声は、戦場の喧騒を超えて聞こえ、探索者全員のステータスを底上げするバフ効果をもたらしている。
夜羽は前線に出ている鬼たちに幻惑と混乱の魔法をばら撒き、同士討ちを誘発させて戦線を崩壊させていた。
『応援してるぞ!』『日本の未来を頼んだ!』『負けるなあああ!』
配信のコメント欄が凄まじい勢いで流れていく。日本が今一つになっている。この熱量が、俺たちの力になっているのは間違いない。
だが、戦いは過酷だった。
何時間戦っただろうか。
最初の勢いは徐々に衰え、探索者たちの疲労が見え始めていた。魔力も体力も枯渇しかけている。ケガをする人も増えていった。
まだ、アマゾネスと天照の光からは脱落者は出ていないが、このまま長引けば限界が来る。
俺は自身のレベルアップを確認するたびに、スキル『照らす』をかけ直し、全員のステータスアップを行っていた。これが戦線を維持する大きな要因になっているが、それでも物理的な疲労は消せない。
広い通路での戦闘になったことで、今度は前線を潛り抜けて後方に漏れてくる敵が増えていった。
「クソッ! 後ろに回られる!」
俺は焦りを感じて叫んだ。
「頼む、みんなもう少し踏ん張ってくれ!」
その時だった。
「待たせたな!」
力強い声が後方から響いた。
振り返ると、新しい探索者たちの集団がダンジョンに入ってくるところだった。
「うおーーー!!」
彼らは雄叫びを上げながら、疲労した探索者たちに代わって前線へと飛び込んでいく。
地方から遅れて駆けつけてくれた探索者たちが合流したのだ。
「みんな、ありがとう!」俺は思わず声を上げた。
「お前らは下がって休んでろ! ここからは俺たちがやる!」
やってきた探索者たちが、笑顔で俺たちを後方へ押してくれた。
俺はアマゾネスと天照の光のメンバーを下げ、後方で休憩に入った。
差し出された飲み物を受け取り、俺たちは一息つく。
「みんなの好意に甘えよう」萌香さんが汗を拭いながら言った。
「ああ。最後はあの大蛇が出てくるはずだ。ここで体力を温存しておいてくれ」俺は頷いてメンバーに告げた。
まだ戦いは終わっていない。大蛇との決戦に向けて、英気を養わなければならない。
ダンジョンの奥、俺たちが休んでいる間も、新たな仲間たちが命を懸けて戦い続ける音が響いていた。
俺は握りしめた拳に唇を当て、決意を新たにした。必ず、勝つ。




