A級ダンジョン攻略
先へ進みながら、俺はこのダンジョンの主である鵺について考えていた。
日本の伝承に伝わる妖怪だ。だとすれば、他の妖怪たちもこのダンジョンには潛んでいるのだろうか。カッパやヌリカベ、テングとか。
「光輝、何考えてるの?」
隣を歩いていた琴葉が、きょとんとして聞いてきた。
「いや、鵺がいるなら他の妖怪たちもいるのかなって。カッパとかヌリカベとか」
「あー、もう何でもいそうだよねー」琴葉が笑いながら言う。
後ろを歩いていた夜羽も、冷静な声で割り込んできた。
「神話の神がいたのだ。何がいても驚かんな。我の右手に封印されている魔王も、錯覚では無かったのだな」
「いや、それはそのまま封印していてくれ!」
俺が慌ててツッコミを入れると、みんなも「そうですよ!」「絶対ダメ!」と口を揃えて夜羽を止めた。この右手の封印だけは、絶対に解いてはいけない。そう信じている。
「じゃあ、オバケとかもいるかな?」
俺がふと呟くと、凛がビクッと肩を震わせた。
そして、無言でジリジリと俺のそばに寄ってきて、俺の袖を掴んだ。
「なんだ、剣の達人の凛がオバケが怖いのか?」
俺が笑うと、凛は引き攣った顔で小さく頷いた。
「オバケには…刀が通用しないからな…」
物理攻撃が通じない相手が怖いというのは、剣士としての心理なのだろうか。だが、その震える手が可愛らしくて、俺はつい笑ってしまった。
まあ、冗談はさておき、だ。
モンスターが出てくるたびに、俺たちは相手が何か仕掛けようとする前に、圧倒的な火力と連携で倒し続けてきた。正直、これがA級ダンジョンなのかという気がしなくなってきている。油断が一番の敵だ。気を引き締めていかないと、足元をすくわれる。
「みんな、そろそろだぞ」
俺が声をかけると、前方に巨大な扉が見えてきた。装飾が施され、異様な気配が漂う。ボスの部屋に間違いない。
「疲れてないか?」
俺は全員の顔を見回した。
「行ける!」
力強い返事が返ってきた。その瞳には迷いがない。
「よし、行くぞ!」
俺は扉に手をかけ、大きく開いた。
そこにいたのは、伝承そのままの姿をした鵺だった。
猿の顔、狸の胴、虎の手足、そして蛇の尾。不気味な鳴き声を上げながら、俺たちを迎え撃つ構えを見せる。
だが、俺たちは止まらない。
「朱音!先制攻撃だ!」
「任せなさい!」
朱音の最大の火魔法が放たれる。炎の渦が鵺を包み込み、その視界を奪い、体を焼く。
「麗華、前へ! 凛は後ろに回ってヘビの尻尾を相手してくれ!」
「はい!」
「了解」
麗華が盾を構えて突進し、鵺の注意を引き付ける。その隙に、凛が音もなく背後に回り込んだ。鵺の蛇の尻尾が麗華めがけて襲いかかろうとした瞬間、凛の刀が閃いた。
「はっ!」
ズバッ!
尻尾が斬り飛ばされる。鵺が「ギャァァ!」と悲鳴を上げた。
「美咲、麗華の後ろから攻撃! 雪はタイミングで前に出てくれ!」
「うん!」
「任せて」
麗華が盾で防御している隙間から、美咲の槍が突き刺さる。鵺が怯んだ瞬間、雪が左から薙刀で胴体を斬りつけた。
「みどり、詩乃!」
「おう!」
「はい!」
猿の顔が苦悶に歪む暇もなく、みどりと詩乃の矢が正確に顔面に突き刺さる。
前衛が反撃の隙を与えずに交互に攻撃していく。麗華が守り、その後ろから美咲と雪が斬り込み、凛が死角を刈り取り、後衛が的確に弱点を撃ち抜く。
俺の指示が終わるよりも早く、鵺は力尽きて崩れ落ちた。
黒い塊となったそれは、すぐにチリになって消えていった。
「よし、A級攻略だ!」
俺が叫ぶと、みんなが「おおー!」と歓声を上げた。
カメラのコメント欄も大荒れだ。
『鵺瞬殺wwww』『こんなにあっさり鵺を倒したパーティ見たことない』『ハーレムチート王つええええ』『これもうS級じゃね?』
「よし、急いで帰ったら夜までにダンジョン出れるかもな」
俺が言うと、みんなは頷き、足早に帰路についた。
今回の探索で、全員のレベルは25まで上がっている。成長速度が異常なのは自覚しているが、それだけ脅威に対処できているということだ。
ダンジョンを出て、夕暮れの光を浴びたところで配信を締めた。
「今回はこれで終了です! 次はS級ダンジョンに挑戦するか、少し考えます。またお知らせしますね」
そう言って配信を切った。
「考えます」なんて言ったが、行くしかないんだけどな。俺は苦笑しながらスマホのコメントを見る。
『お疲れー』『見応えあったぞ』『S級楽しみにしてる』『もうS級か! あんなに小さかったあの子たちが!』
なんか親戚のおじさんみたいなコメントがあるな。俺は思わず笑ってしまった。
確かに、最初は小さかったみんなも、今では立派な戦士だ。俺も成長したはずだ。でも、まだまだ解決できない問題があった。
俺はダンジョンの入り口から少し離れたベンチに座り、スマホの連絡先を開いた。
宮本萌香。S級パーティ「アマゾネス」のリーダー。
俺は意を決して、彼女に連絡を取った。
『萌香さん、お疲れ様です。天照の光のコウキです。少し、相談があるんですが……』
すぐに返信が来た。
『おう!なんだ?会って話すか?』
『いえ、電話でも……』
電話がかかってくる。
「もしもし」
『よう、ハーレム王! A級攻略おめでとう! 配信見たぞ、あっさりすぎて笑っちまったよ』
萌香さんの底抜けに明るい声が響く。
「あはは、ありがとうございます。あの、相談なんですけど…」




