S級探索者
初めてのダンジョンでの宿泊攻略は、サキュバスの襲撃というハプニングこそあったものの、無事に成功と言っていいだろう。
この経験を経て、装備を見直した。テントは4人用を2つに絞り、その分食料と水、そして予備のポーションを多く積めるようになった。荷物の最適化は、長期戦になるA級攻略において死活問題だ。
このまま週末はダンジョンでの泊まりを経験し、レベルと経験を積んでいく。そして3月になれば、俺たちは学校に休学届けを出し、探索者に専念する予定だ。
俺たちの活動は、配信を通じて広く知れ渡っていた。登録者がついに100万人を突破し、人気配信チャンネルになっていたのである。コメント欄は毎日「ハーレムチート王」という言葉で埋め尽くされているが、実益は大きい。
さらに追い風となる発表があった。探索者協会から、ダンジョン攻略に報奨金が出るようになったのだ。攻略するごとに、その難易度に応じた金銭が探索者に支払われる。これで俺たちは生活費を心配することなく、探索に没頭できるようになった。
無論、この制度には裏がある。政府や氷室家、九条家、宝条家といった名だたる名家が裏で糸を引いているのだ。彼らの目的は、ダンジョンの魔力溜まりを抑えることと、探索者のレベルアップを急がせること。これから何が起きるかはわからないが、彼らはいろんな厄災を想定して動いているらしい。避難所やシェルターの建設も、表には出ていないが裏で進んでいるそうだ。俺たちは知らぬ間に、その巨大な計画の駒の一つとして組み込まれていた。
今日は、週末の攻略に向けて協会へ手続きに来ていた。
受付を済ませ、ロビーに出ると、聞き覚えのある声がした。
「よう、ハーレムチート王!」
振り返ると、黒鉄さんがいた。あの人も今日は協会に来ていたらしい。
「黒鉄さん、やめてくださいよ、その呼び名……」
俺は苦笑する。黒鉄さんも楽しそうに笑っている。
そこに、さらに追い打ちをかける声が降ってきた。
「あんたがあの有名な、天照の光のハーレム王かい?」
振り向くと、そこには人垣を割って歩いてくる一人の女性がいた。
「私はS級パーティ『アマゾネス』のリーダーの宮本萌香だ。よろしくな」
名前から可愛らしい人物を想像していた俺は、目を見開いた。
彼女は、175センチの俺より一回り大きい女性だった。可愛らしい名前からは想像できないほどの筋肉が、Tシャツの袖からはみ出るほど盛り上がっている。まるで彫刻のような肉体だ。だが、顔立ちは意外なほど整っていて、整えた髪と筋肉のギャップがすごい。
「実物はかわいいじゃないか」
萌香さんは俺の顔をまじまじと見て、ニカっと笑った。
黒鉄さんも横で笑っている。「最近、ハーレムチート王に呼び名が変わったんですよ」
「よ、よろしくお願いします」
俺が恐縮して手を差し出すと、萌香さんはギュッと握り返してくれた。その手は厚くて温かく、岩のように硬かった。
「あんたたちならすぐにS級に来るだろう。困ったらいつでも相談に来な」
彼女は力強く言ってくれた。S級のリーダーからそう言われると、心強い限りだ。俺たちは女性ばかりのパーティだから、情報交換や連携の仕方など学べることも多いはずだ。
「私たちも女ばかりのパーティだからね。また今度メンバーを紹介するよ」
そう言い残して、萌香さんは颯爽と去っていった。その背中は、頼もしいの一言に尽きる。
萌香さんが去った後、俺は黒鉄さんに小声で相談を持ちかけた。どうしても聞いておきたいことがあったのだ。
「黒鉄さん、ちょっと相談いいですか?…女性のパーティメンバーに欲情した時は、どうしたらいいんですか?」
黒鉄さんは一瞬きょとんとした後、フッと笑った。
「そりゃ、あんなかわいい子ばかりだ。欲情くらいするよな」
「ですよね…」
俺は深く頷いた。
「うーん、慣れるしかないんじゃないか?」
黒鉄さんは腕を組みながら答えた。
「女は男が思っているより、裸を見せるのに抵抗が無いからな。お前1人が男だと、平気で目の前で着替えとかしだすだろ。そうなったら、もう見るしかないよ」
「そうなんですよ! ふと見えた時に、もう収まらなくなってしまうんです……」
俺は頭を抱えた。先日のサキュバスの件もそうだが、琴葉や夜羽、そして朱音の一件以来、俺の中で何かが壊れたままだ。
黒鉄さんは俺の肩をポンと叩いた。
「ふっ、若いな。頑張れとしか言えねえよ」
結局、明確な答えは出なかった。
俺はため息をつきながら協会を出た。
答えが出ないなら、自分で見つけるしかないのだろうか。
あるいは、見つからなくても、そのドキドキやモヤモヤを抱えたまま、前に進むしかないのかもしれない。
俺は空を見上げた。休学まであと少し。




