ダンジョンで初めての宿泊
いよいよA級ダンジョンでの初の宿泊攻略の日がやってきた。
土曜の早朝、俺たちはパックされたテントや寝袋、食料などを背負い、A級ダンジョンの入り口前に集合した。
「今日は行けるところまで行き、そこで宿泊。明日は来た道を引き返してくる。この工程で行くぞ!」
俺が声をかけると、みんな元気よく「おう!」と返してくれた。
「それと」雪が付け足す。「今回は試験的な意味合いもあるから、『これいらなかったな』とか『このアイテムがあればよかったな』とか、考えながら探索しよう。装備の最適化も大事だからね」
「そうだな、臨機応変に対応しよう」
みどりを先頭に、俺たちはダンジョンの奥へと足を踏み入れた。
A級の道中はB級とはやはり違う。モンスターの力も強く、地形も複雑だ。何度かの戦闘をこなしながら進むと、全員のレベルが21に到達した。
歩き始めて数時間後、壁が凹んでいる場所を見つけた。
「ここなら、入り口だけを気をつけていれば安全に休息できそうだ。だが、何かあった時は袋小路になるな…みんなどう思う?」
俺が問いかけると、雪が周囲を観察して口を開いた。
「入り口で見張りを立てておけば、ここの方が守りやすいね。不意打ちのリスクは減るし、ここにしよう」
俺たちの意見は一致し、窪んだ場所にテントを張ることになった。
シートを広げ、ペグを打ち込みながら、俺はふと気づいた。
「そうか…見張りを立てるから、全員分のテントはいらないな」
常に誰かが起きているなら、起きている人間はテントを必要としない。
「どういうこと?」琴葉が首を傾げる。
「例えば2人見張りを立てて、交代でテントを使うなら、4つもテントがあれば十分だ。それか、3人、3人、4人で交代するなら、4人用のテント2つで大丈夫になる」
俺が算段を披露すると、みんなで計算し始めた。
「2人見張りは心細いね」みどりが言う。
「そうね、敵の襲撃も考えれば、見張りは3人は欲しいところだわ」美咲も同意する。
「じゃあ、3・3・4で交代することにしよう。4人用テント2つあればいいな」
俺の提案に全員が頷いた。
「帰ったら4人用のテントを買いなおしますわね」麗華が少し残念そうに言う。
「勿体無かったね」琴葉が苦笑する。
「フリマサイトで売ればいいだろ。未使用に近いし」俺は笑って返した。
夕食を済ませ、ダンジョンの夜が訪れた。
最初の見張りは、俺と朱音、凛の3人だ。他の7人はテントで休息している。
ダンジョン内は静寂に包まれている。時折聞こえる水滴の音だけが、心地よいリズムを刻んでいた。
…その時だった。
「何この嫌な匂い?」
朱音が鼻をしかめた。
「…臭い」凛も顔をしかめて剣の柄に手をかける。
二人は不快そうだが、俺には逆の感覚があった。
「なんか…いい匂いがするな」
花の甘い香りのようで、脳の芯をくすぐるような…。
俺は知らず知らずのうちに、ふらふらと入り口に向かって歩き出していた。
「光輝?」朱音の声が遠く聞こえる。
体が熱い。匂いの元へ行かなければならないという衝動に駆られる。
俺は無意識にベルトに手をかけ、ズボンのバックルを外し始めた。
…何をしているんだ俺は? 理性が警告を鳴らすが、体が言うことを聞かない。
「光輝!!」
朱音の鋭い叫び声と共に、俺の視界が明るく弾けた。
彼女が入り口に向かって火魔法を放ったのだ。
炎が闇を灼き、何かに着弾する。
『ギャーーー!!』
耳障りな悲鳴が響き渡り、あの甘い匂いが一瞬で消え失せた。
同時に、俺の体から力が抜け、その場にへたり込んだ。
「何があったの?」
テントが開き、みんなが飛び出してきた。
俺は慌てて履きかけだったズボンを履き直し、バックルを締める。
正気に戻った俺は、荒い息を吐きながら状況を整理した。
「光輝、大丈夫か?」雪が駆け寄る。
「あ、ああ…助かった。朱音、ありがとう」俺は朱音に向かって深く頭を下げた。
「多分サキュバスね」朱音が冷静に言った。「嫌な匂いがして、光輝がズボンを脱ぎだしたの」
「サキュバス!?」俺は驚きの声を上げた。
麗華が言っていた通りだ。A級にはハニートラップを仕掛けるモンスターがいる。
「あの匂いがしたら吸わないようにしないとな。口と鼻を塞ぐか、何か対策を考える必要がある」
みんなが入り口の方を見に行くと、そこには黒焦げになった何かがあった。
女の体にバケモノの顔をした異形の残骸。それがチリになって消えていくところだった。
あれがサキュバスの正体か。幻覚を見せて冒険者を誘い込み、精気を吸い取る怪物。
「それで、光輝」朱音がじっと俺を見た。「どんな幻覚見てたのよ?」
俺は言い淀んだ。皆が俺を見ている。
「…裸の女の人が、入り口から手招きしてた」
正直に答えるしかなかった。
沈黙が流れる。
その時、俺は下半身に違和感を感じた。
サキュバスの幻覚のせいで、生理的な反応が起きてしまっている。俺のコウキが、ズボンの上からでもわかるほど大きくなっていた。
そして、それに全員が気づいている。
琴葉がクスッと笑った。
「男の人は出さないとツラいもんね」
そう言うと、彼女は俺の腕を取り、テントの方へ引っ張り始めた。
「な、何を!?」
「ほら、テントに入って…」
「な、に、を、す、る、き、だ!!」
朱音が俺と琴葉の間に割って入った。
「琴葉! あんた、ここで何する気!? みんな起きてるのよ!?」
「えっ、だって光輝、辛そうだし…」琴葉がしょんぼりする。
朱音は俺を睨みつけた。
「…オカズをあげるから、1人でしなさい!!」
「は!?」
朱音はそう言うと、自分のスカートを思い切りめくった。
白い太ももが露わになり、その中心にある黒い下着が俺の視界に飛び込んでくる。
「っ!!??」
俺は顔から火が出るほど真っ赤になった。
「み、見た!? もう十分でしょ!? 行きなさいよ!!」
朱音も顔を真っ赤にしながら怒鳴る。
俺は「す、すみません!」と叫び、逃げるようにテントへと飛び込んだ。
ジッパーを閉め、暗闇の中で荒い息を吐く。
心臓が破裂しそうだ。朱音の下着の残像が脳裏に焼き付いて離れない。
外では、女子たちが何やら言い合っている声が聞こえるが、俺はもう外に出られなかった。
…これだから、A級ダンジョンは怖い。
モンスターの物理攻撃よりも、精神的な攻撃の方がよほど堪える。
俺はテントの中で、自分の蠢く欲望と恥ずかしさに向き合うこととなった。
明日は、もっと気を引き締めていかないと。
サキュバスの幻覚と、仲間の魅惑の両方に打ち勝たなければ、真のハーレムチート王にはなれないらしい。




