攻略準備
翌日、俺は何も知らない顔で爽やかな朝を迎えていた。
「ふあぁ…よく寝た」
昨夜は女子会とやらに行ったみんなを待たずに寝てしまったが、今朝のグループチャットには「明日はキャンプ用品を見に行こう」という雪からのメッセージが入っていた。既読は全員ついている。どうやら泊まりがけのダンジョン攻略に向けて、装備を整える必要があるという結論に至ったらしい。
待ち合わせ場所の大型アウトドアショップに着くと、すでに数人が集まっていた。
「おはよう、光輝!」
「おはよう、みんな」
琴葉が元気に手を振ってくる。俺は彼女の顔を直視できないまま手を振り返した。隣には夜羽もいる。二人とも昨日のことを全く気にしていない様子だ。むしろ、なんだかやけに機嫌が良さそうに見える。
「おはようございます、光輝さん!」
麗華も到着し、優雅に一礼した。その後ろから凛が無言で小さく会釈する。顔が少し赤いのは気のせいだろうか。
やがて雪、朱音、みどり、詩乃、美咲も揃い、10人全員でショップの中へと足を踏み入れた。
店内は広大で、テントや寝袋、ランタン、調理器具などが所狹しと並んでいる。
「わあ、すごい! 本格的なキャンプ用品がいっぱい!」
みどりが目を輝かせて駆け出そうとするのを、俺は慌てて制止した。
「おい、走るな。色々見ながら回ろう」
「はーい」
まずはテント売り場に向かう。
「泊まり込みのダンジョン探索なら、テントは必須だよな」
俺が言うと、雪がカタログを手に取った。
「そうね。でも、10人分となると結構な数が必要になるわ」
「簡単なやつでいいんじゃない? ダンジョンの中で使うんだし、そんなに広くなくても」
朱音の意見に、麗華が首を振る。
「いいえ、休息の質は戦闘の質に直結しますわ。ちゃんとしたものを選ぶべきです」
「お嬢様は贅沢ですねぇ」美咲がからかう。
「そうだな、麗華の言うことも一理ある。A級ダンジョンは長期戦になるかもしれない。ちゃんと休める環境は重要だ」
俺が間に入ると、みんなでテントを選び始めた。
「2人用のを人数分買うのが無難かな」
「でも、女子だけのテントと光輝のテントで分けるなら、4人用と2人用の組み合わせでもいいかもね」
「いや、俺は1人用で十分…」
「ダメですわ! リーダーが粗末な寝床では示しがつきません!」
なぜか麗華に怒られ、結局2人用テントを人数分買うことになった。
次に寝袋コーナーに移動する。
「光輝くん、これなんかどう? すごくふかふかだよ!」
詩乃が寝袋を手に取ってアピールする。
「ああ、暖かそうだな」
俺が触ろうとすると、隣から琴葉が別の寝袋を差し出した。
「こっちの方が保温性能高いって書いてあるよ!」
「へえ、そうなのか」
今度は夜羽が黒い寝袋を無言で俺のカートに入れる。
「おい、夜羽?」
「闇属性の我としては、この色が落ち着く。光輝にも分けてやろう」
「いや、色はどうでもいいけど…」
なんか全員、やけに俺の寝袋選びに熱心じゃないか?
調理器具コーナーでは、朱音が小型のバーナーを手に取った。
「これがあればダンジョンでも温かいご飯が食べられるわね」
「お前、料理できたっけ?」
「あっためるくらいできるわよ!」
朱音が膨れる。彼女はどちらかというと食べる専門だったはずだが、どうやらやる気はあるらしい。
食料コーナーでは、みどりと美咲が保存食をカートに放り込んでいた。
「これ、美味しそう!」
「こっちは高カロリーだから、戦闘後の補給にいいよ」
「二人とも、ちゃんと栄養バランス考えて選べよ」
俺が注意すると、みどりが敬礼のポーズを取る。
「ラジャー! リーダー!」
その後も、ランタン、救急キット、携帯浄水器など、必要なものを着々と揃えていく。カートは見る見るうちに山盛りになった。
「結構な量になったねぇ…」
詩乃が苦笑する。確かに、これだけあれば本格的なキャンプができそうだ。
「あとは…」
雪がリストを見ながら言った。
「予備の衣類と防寒着も必要ね。ダンジョンの深層は冷えることがあるから」
衣料品コーナーに移動すると、女子たちのテンションが一気に上がった。
「わあ、このフリース、可愛い!」
「この靴下、暖かそう!」
「ちょっと、ただの買い物にならないでよ」朱音が呆れる中、麗華が高級そうな防寒着を手に取る。
「光輝さん、これはいかがですか? 軽くて動きやすいですわ」
「いや、そこまで高くなくていいぞ」
凛も無言で俺に手袋を差し出してくる。どうやら「これを着けろ」ということらしい。
「ありがとう、凛」
彼女の頭を軽く撫でると、凛は耳まで真っ赤になって俯いた。
その様子を、他の女子たちがじっと見ていることに俺は気づかなかった。
「…やっぱり、慣れてもらう必要がありそうね」と朱音が小声で呟く。
「同感だ」と夜羽。
「次の女子会で発表ね」と琴葉。
「何か言ったか?」
「な、なんでもない!」
俺が振り返ると、全員が一斉に笑顔を作った。なんだか企んでいるような顔に見えるのは、考えすぎだろうか。
結局、買い物は3時間にも及び、カートは合計5台になった。
「これだけあれば、A級ダンジョンの長期探索も安心だな」
「うん! みんなで頑張ろうね!」
琴葉が満面の笑みで言う。俺は彼女の目を見られないまま、「ああ」と短く返した。
帰り道、荷物を抱えた10人は、明日からの本格的なダンジョン攻略に胸を膨らませていた。
俺はというと、隣を歩く琴葉と夜羽の気配にドキドキしながらも、リーダーとして気合を入れ直していた。
次こそは、動揺せずに指揮を執ってみせる。絶対にだ。
その夜、女子たちのグループチャットには、それぞれの「宿題」の草案が次々と投稿され始めたのだった。




