女子会
「で、どうするの? 放っておくわけにはいかないでしょ」
朱音が全員に問いかけると、ファミレスの一角に陣取った女子9人の空気が一瞬で変わった。ドリンクバーのコーヒーやジュースを前に、真剣な表情が並ぶ。ここに「天照の光」緊急女子会、通称「第一回光輝対策会議」が正式に開幕した。
「まず、根本的な話をさせてもらうけど」
朱音はコーラのストローを指で弄びながら、ジト目で琴葉と夜羽を睨んだ。
「これは、抜け駆けをして裸を見せた二人が悪い」
琴葉は一瞬たじろいだが、すぐに開き直った表情を見せた。
「だって、同じ部屋になったらするでしょ?」
「しないわよ!」
朱音が即座にツッコミを入れる。琴葉はモジモジと指を絡めながら、俯いて言った。
「だって…私は光輝に、一番感謝してるから。命を救ってもらったし、新しい居場所もくれた。あの夜は、どうしても気持ちを伝えたくて…」
「気持ちを伝えるのに、なんで裸になる必要があるのよ」
朱音の尤もな指摘に、琴葉は顔を真っ赤にして押し黙った。
しかし、夜羽は違った。
「我は正当な対価として肉体を提供したまでだ。光輝がいなければ、我は今頃ダンジョンの肥やしになっていた。あの程度の奉仕で釣り合うとは思えぬがな」
彼女は涼しい顔でアイスティーを啜っている。人形のような美貌とのギャップが凄まじい。
「あの程度って…あんたも大概よ」
朱音が頭を抱える中、雪が静かに口を開いた。
「けど、裸を見たくらいで指揮が疎かになるのは困ったわね。これから泊まりの攻略も増えてくるのに」
薙刀使いの冷静な指摘に、全員が黙り込む。
「今日の光輝は、明らかに琴葉と夜羽を避けてた。前線で指示を出すリーダーがあれじゃ、致命的なミスに繋がる可能性もあるわ」
「朱音の言う通りだねぇ」
美咲が腕を組みながら同意する。
麗華が眉をひそめて、紅茶のカップを置いた。
「A級ダンジョンにはサキュバス系のモンスターもいると聞きましたわ。精神攻撃やハニートラップを仕掛けてくる相手です。もし光輝さんが裸を見ただけで動揺するようでは、実戦で命取りになりかねませんわ」
「サキュバス…」
凛が小さく呟き、顔を赤くする。
「そう、まさに今の光輝さんの弱点は女の裸。これは由々しき問題ですわ」
重苦しい空気が漂う中、朱音がコーラを一気に飲み干し、ドンッとグラスを置いた。
「わかった。私が一肌脱ぐわ」
「…どういう意味?」
みどりが首を傾げると、朱音は真剣な表情で宣言した。
「私が、光輝に女の子の裸に慣れさせてくるのよ」
「なっ!?」
琴葉と夜羽が同時に立ち上がった。
「それはダメ! 抜け駆けじゃない!」
「我も賛成できぬな。なぜ朱音だけがその役目を担うのだ」
琴葉と夜羽の抗議に、朱音は呆れたようにため息をつく。
「あんたたちはすでに抜け駆けしてるでしょ。それに、私なら光輝を変に意識させずに裸を見せられる自信があるの」
「自信って…」
琴葉が言いかけると、今度はみどりが手を挙げた。
「じゃあ私も立候補する! 私の方が光輝くんと付き合い長いし!」
「待って待って!」
詩乃までが身を乗り出す。
「私だって、光輝くんにバフかける時はいつも近くにいるんだから! 慣れてもらう役目は私が適任だよ!」
「ちょっと、あんたたち!」
朱音が慌てる中、美咲がケラケラと笑いながら自分の胸を見下ろした。
「いやぁ、ハーレムだねぇ。ボクの貧相な身体じゃ光輝は興奮しないかな? でもまあ、見せるだけなら立候補してもいいよ?」
「美咲まで!」
琴葉が頭を抱える。
雪は少し考え込んだ後、冷静に口を開いた。
「裸を見せるかどうかは別として、慣れてもらうこと自体には賛成よ。女の子ばかりのパーティで、いちいち意識されては困るもの」
「そうですわね」
麗華が頷く。
「でも、役目を決めるのは後でもよろしいのではなくて? それより、どうやって光輝さんに慣れてもらうかの方が重要ですわ」
彼女はそう言うと、ふふっと微笑んだ。
「それにしても、光輝さんにこんな弱点があったなんて…なんだか可愛らしいですわ」
「麗華、あんたは甘やかしすぎ」
凛はというと、顔を真っ赤にしてずっとテーブルの下を見つめていた。彼女の脳内では、自分が光輝に裸を見せている妄想がグルグルと渦巻いている。妄想の中の光輝は「凛、綺麗だ」などと言ってくれており、凛は頭から湯気が出そうなほど真っ赤になっていた。
「凛? どうしたの?」
みどりが顔を覗き込むと、凛は「な、なんでもない!」と叫んでさらに俯いた。
「話を戻しますわ」
麗華が手を叩いて注目を集める。
「今日はもう遅いですし、『光輝さんに女の子の裸に慣れてもらうにはどうすればいいか』、それぞれ宿題にしましょう」
「宿題?」
「そうですわ。各自、方法を考えてくるのです。それを次回の女子会で発表し、最も有効な案を採用する。どうです?」
麗華の提案に、全員が顔を見合わせた。
「…まあ、それなら公平かもね」朱音が渋々納得する。
「我も異存はない。だが、ここで決めたことは光輝には内密にだぞ」夜羽が念を押す。
「もちろんよ。これは私たち女子だけの秘密」
みどりがウインクすると、全員が「贅成」と頷いた。
「それじゃあ、第一回光輝対策会議はこれで閉会しますわ」
麗華がそう宣言し、女子たちはファミレスを後にした。
それぞれがそれぞれの思惑を胸に、夜道を歩いていく。
朱音「どうやって自然に裸を見せようかしら…」
琴葉「今度こそ、ちゃんと気持ちを伝えたい…」
夜羽「次はもっと直接的な奉仕が必要か…」
みどり「光輝くん、私のこともちゃんと見てくれるかな…」
詩乃「バフついでに…なんてダメかな?」
美咲「ボクもたまには女の子扱いされたいんだけどなぁ」
雪「私はどう接するのが正解なのかしら…」
麗華「ふふ、光輝さんが私の裸を見たらどんな顔をするかしら…」
凛「……(無言で真っ赤)」
こうして、天照の光の女子メンバーは、それぞれの宿題を胸に帰路についたのだった。
明日はテントやキャンプ用品を見に行く予定だ。光輝は何も知らない顔で、きっと明るく朝を迎えるだろう。




