A級ダンジョン突入
A級ダンジョンに挑戦するにあたり、俺はまず先輩の知恵を借りることにした。以前お世話になったAランク探索者の黒鉄剛さんだ。探索者協会のラウンジでコーヒーを飲んでいると、背後から馴染みのある野太い声がかけられた。
「よう、ハーレムチート王!」
俺は思わずコーヒーをぶっと吹き出した。
「げほっ、げほっ…なんで知ってるんですか!?」
俺が涙目で尋ねると、黒鉄さんは大口を開けてワハハと笑った。
「俺は『天照の光』のファンだからな! お前らの配信、欠かさず見てるぞ。あの経験値分配のやり取りは笑ったぜ」
ネットの掲示板やコメント欄だけかと思ってたら、プロの探索者にまでバレていたとは。俺は顔をしかめたが、黒鉄さんはニヤリと口角を上げ、声を潛めて言った。
「なあ、今度は美咲さまを連れてきてくれよ」
「は? 美咲?」
「あの槍捌きがかっこいいんだよー! 華麗に突き、弾き、回転して斬る! あれは芸術だね」
ミーハーな黒鉄さんに、俺は苦笑するしかない。「また会うこともあるでしょうし、その時はよろしくお願いしますよ」
少し雑談してから、俺は本題を切り出した。「黒鉄さん、A級ダンジョンについて教えてもらいたいんですけど」
黒鉄さんは表情を引き締めた。
「お前らなら大丈夫だと思うぞ。B級であれだけ無双できてたらステータスも問題ない。何より、お前らの連携はバランスの取れた理想のパーティだ。俺が太鼓判を押してやる」
先輩からの太鼓判は心強い。だが、黒鉄さんは人差し指を立てた。
「ただ一つだけ注意しておくことがある。A級からはモンスターも知能が高くなってくる。単なる狩られるだけの獣じゃないってことだ。罠を仕掛けてきたり、連携して囲んできたり、逃げたふりして仲間を分断しようとする狡猾な奴も出てくる。それだけは気をつけておけよ」
「知能が高いモンスター…」
B級までは本能に従った行動が多かったが、A級はこちらの意図を読んでくる相手というわけか。
「ありがとうございました。気をつけます」
俺は深く頭を下げ、家に帰った。
帰宅後、すぐにグループ通話を開き、みんなに報告した。
「黒鉄さん曰く、ステータスや連携は問題ないらしい。ただ、A級のモンスターは知能が高いから、狡猾な動きをしてくるかもしれないってさ」
通話の向こうで、みんなが真剣に耳を傾いている。
「知能が高い…つまり、不意打ちや分断を狙ってくるってことね」雪が顎に手を当てる。
「罠とか仕掛けられるのは面倒くさいですねわ」麗華も眉をひそめる。
そんな中、朱音が呆れたように言った。
「ねえ光輝、あんたゲームでレベルカンストしないとラスボスに挑戦しないタイプでしょ」
図星を突かれて、俺はムッとした。「そ、そんなことないぞ! 必要な準備をしてるだけで…」
言い訳しながらも、俺は自分の心の内を吐露した。
「お前たちのことは信じてる。でも、何かあったらと思うと心配なんだよ。俺は…皆を失いたくない」
俺の言葉に、通話が少しだけ静かになった。
数秒後、麗華が力強く言った。
「大丈夫ですわ。私が守りますわ! どんな狡猾な手が来ようと、この盾で防ぎ切ってみせます!」
「麗華…」
続いて、雪が穏やかだが、諭すように言った。
「そこが光輝のいい所なんだけど、時間制限がある中で強くならないといけないんだ。少しくらいのリスクは取らないとダメだよ。安全ばかり求めてたら、進めないから」
雪の言葉は的を射ていた。天照大御神様からの神託、ダンジョンの魔力貯まりが早まっていること。悠長にレベルカンストを待っている時間はないのだ。
「…ああ、わかってる。わかってるよ」
俺は深く息を吸い、腹の底から力を込めて言った。
「よし! 明日は1発で攻略してやろうぜ!」
通話の向こうから、それぞれの「おう!」「任せて!」「行くぞ!」という力強い返事が重なり合った。
翌日、冷えた空気の中、天照の光はA級ダンジョンの前に立っていた。
朝の冷気が肌を刺す。ダンジョンの入り口である漆黒の渦は、B級のものよりもより深く、より禍々しい気配を放っていた。見つめているだけで、本能が「入るな」と警鐘を鳴らす。
しかし、俺の隣には仲間たちがいる。
麗華は盾を構え、雪は薙刀を手にし、朱音は杖を握りしめ、凛は刀の柄に手をかけている。琴葉、みどり、詩乃、夜羽、美咲も、それぞれの武器を持ち、覚悟を決めた表情で黒い渦を見つめていた。
「行くぞ、みんな」
俺は剣を抜き放ち、前を指差した。
「おう!」
十人の声が重なり、俺たちは一歩を踏み出した。A級ダンジョン、その深淵へと。




