経験値無限湧き戦法
伊勢神宮での誓いを胸に、俺たちは東京に戻り、猛烈な勢いでレベル上げに励んでいた。
天照大御神様からの神託通り、ダンジョンの魔力を減らすためには、モンスターを倒し続けるしかない。そして来年また神様の元へ訪れるためにも、俺たちはもっと強くならなきゃならない。
そんなある日、俺はふと思いついた。
「なあ、ゲームとかでさ、仲間を呼ぶモンスターを放置して、呼ばれた雑魚だけを狩ってレベル上げする方法あるだろ? あれ、あのカマキリで出来ないかな?」
俺が言ったのは、B級ダンジョンに出現するカマキリ型モンスターのことだ。あいつらは戦闘になると小型のカマキリを無限に召喚してくる厄介な奴らだ。
「なるほど…ボスからは逃げて、湧いた子カマキリだけを狩り続けるってことか」雪が顎に手を当てて考える。
「でもそれだと、ボスの攻撃を受け流し続ける担当が必要ね」
「ああ。だから麗華にお願いしたいんだが……」
俺が麗華を見ると、彼女はふふんと胸を張った。
「お任せくださいませ! 私がボスを抑えている間に、皆さんは子カマキリを倒してください」
この作戦が成功すれば、全員に均等に経験値が入る俺のパーティ固有の恩恵を最大限に活かせる。全員が同時にレベルアップできる究極の効率戦法だ。
「よし、試してみよう!」
俺たちの「カマキリ無限沸き狩り」が始まった。
ダンジョン最深部に出現するカマキリのボスを見つけ出し、麗華が前に出た。
「いざ尋常に!」
麗華がボスの注意を引きつける。ボスは巨大な鎌を振り下ろしてくるが、麗華はそれを盾で受け流す。今の彼女ならB級のボスくらい楽勝だ。
ボスは自分の攻撃が通じないと悟ると、案の定子カマキリを召喚し始めた。
すると、魔法陣からワラワラと小型のカマキリたちが現れる。
「来たぞ! みんな行くぞ!」
俺の号令とともに、みんなが一斉に攻撃を開始した。
朱音の火炎弾がカマキリの群れを焼き払い、美咲の槍がカマキリを貫き、夜羽の闇魔法が混乱させる。凛は日本刀を振り回して突っ込んで行く、琴葉もメイスでサポートする。
俺も剣を振るってバッタバッタとカマキリを斬っていく。まるで刈り入れだ。
「麗華、キツくなったら言えよ!」
俺が声をかけると、麗華は涼しい顔で答えた。
「ふふっ、こんなの攻撃の内に入りませんわ!」
レベルが上がってステータスが上がった俺たちは、余裕を持ってカマキリに対処できている。以前なら苦戦しただろうB級モンスターも、今の俺たちにとっては雑魚でしかない。
子カマキリを倒しても倒しても、ボスは新たな仲間を呼び続ける。それをまた倒す。この無限ループこそが、経験値稼ぎの黄金律だ。
時間いっぱい倒した後、さすがに帰る時間が近づいてきた。
「そろそろボスを倒すか」
俺がそう言うと、雪が「わかった」と短く答えた。
次の瞬間、雪の薙刀から雷が一閃した。
ヒュンッという風切り音すら聞こえなかった。ただ白い軌跡が通り過ぎたかと思うと、ボスカマキリの首が胴体から滑り落ちていた。
一撃だ。
しかも、俺が「倒すか」と言った直後の、あまりにも容赦のない即断即決。
「…おい、もうちょっと躊躇ってもよかったんじゃないか?」
俺は思わずボスの亡骸に同情してしまった。最後まで仲間を呼び続け、それが徒労に終わった可哀想なカマキリ。
「効率が良いからいいじゃない」雪は当然のように言う。
まあ、確かにそうなんだけど……。
その日の探索で、俺たちは全員レベル18に到達した。
すごい効率だ。この「無限沸き狩り」は使える。
「よし、明日もやるか!」
俺たちの士気は高まった。
次の日も同じ時間だけ狩りを行った。しかし、レベルは1しか上がらなかった。
「やっぱりレベルが上がったら、上のダンジョンに行かないと効率は良くないか」
B級ダンジョンの経験値では、もう俺たちの成長に追いつかなくなってきたのだ。
「そろそろA級に挑戦することにしよう」
俺の提案に、みんなの表情が引き締まった。
A級ダンジョン。そこはB級とは比べ物にならない難易度だ。死人が出ることも珍しくない。だが、今の俺たちならいけるはずだ。
「天照大御神様との約束を果たすためにも、行くしかない!」
今日の「カマキリ無限沸き狩り」は大成功だった。全員のレベルも順調に上がり、いよいよA級ダンジョンへ挑戦できるまでになった。だが、ふとカメラの横の画面に目を落とすと、コメント欄に棘のある書き込みが目に入った。
『上手い経験値稼ぎだな、蹂躙笑笑』
『盾の子に経験値入らないから可哀想だろ』
俺はハッとして、背筋が凍りついた。
そうだ。俺たちはパーティ固有の恩恵で経験値を共有できるから、この戦法が成り立つ。だが、外から見ればどうだ? ボスを抑える麗華には倒した数に応じた経験値が入っていないように見える。それはかつて俺がいた、拓也のパーティと同じだ。後衛や盾役を囮にして、前衛だけが美味しいところを独占する。俺はあいつらと同じことをしていたのか?
「光輝、どうしたの? 顔色が悪いよ」
心配そうに声をかけてきた琴葉に、俺は苦笑いで返すしかなかった。
「いや…コメント見てて、自分が酷い奴に見えてきてさ」
スマホを覗き込んだみどりが、「あー、これか」と気づく。
「麗華ちゃんが経験値もらえてないと思ってる人たちだね」
説明した方がいいのか? 俺たちの秘密を明かすリスクと、誤解を解く重要性。俺が悩んでいると、コメント欄がさらに流れていく。
『お前ら見てないのか? このパーティはなんらかの理由で経験値共有してるから大丈夫だぞ』
『前の配信でも、光輝一人で倒した時のみんなのレベル上がってただろ』
『そもそも麗華がそんな理不尽に耐えるわけないだろw』
なんだ。バレていたのか。
俺は少しだけ肩の力が抜けた。俺たちの戦いぶりをずっと見てくれている視聴者は、俺たちの異質さに気づいていたのだ。
俺は意を決して、配信カメラに向き直った。
「皆さん、ご心配おかけしました。方法は明かせませんが、俺たちは誰が倒しても同じ経験値が入るようになってます。麗華が我慢してるわけじゃないので安心してください」
俺が真剣に説明すると、コメント欄に『やっぱりな!』『古参の俺は知ってるぞ』といった安心した反応が流れる。しかし、次の瞬間、予想外の方向へ事態が転がった。
『つまり、ハーレム全員に等しく恩恵を与えてるってことか』
『完璧なチートだな』
『ハーレムチート王誕生!』
「は!?」
俺は素っ頓狂な声を上げた。
ハーレムチート王? なんだそれ!
「いや待て! 違う! ただのパーティスキルだろ!」
俺がカメラに向かって必死に否定すると、コメント欄は面白がって『ハーレムチート王!』『ハーレムチート王!』と連呼し始めた。画面がその文字で埋め尽くされていく。
「光輝、届いてるよ?」
朱音がニヤニヤしながら俺の顔を覗き込む。
「ハーレムチート王様、私にもチートを分けてくださいませ」
麗華までがわざとらしく両手を合わせて拝む始末だ。
「もういい! 次はA級に挑戦しますからね! 期待しててください!」
俺は逃げるように配信を切った。
ダンジョンには、爆笑するメンバーたちの声が響き渡る。
「ハーレムチート王かぁ…悪くない響きじゃない?」詩乃が楽しそうに言う。
「全然悪いよ!」
俺は顔を真っ赤にして反論したが、もう遅い。この異名は、俺の探索者人生に焼き付いて離れない気配がしていた。
明日はいよいよA級ダンジョン攻略戦だ。




