大胆な琴葉
朝起きてすぐ、昨夜の記憶がフラッシュバックした。
熱いお湯、狭い浴室、白い肌、そして揺れる黒髪。俺はベッドの上で頭を抱えた。あれは夢じゃなかった。
昨夜のことだ。
みんなで夜ご飯を食べ、明日は早朝から天照大御神様に挨拶に行くため、俺たちは早めに部屋へ戻った。俺と琴葉のツインルーム。
「俺、先にシャワー使うね」
そう言って浴室に入った。何度か同じ部屋で寝たことはあるし、琴葉なら特に気にすることもないだろう。そう高を括っていたのが間違いだった。男の俺が覗かれるなんて思ってもいなかったから、浴室のドアにカギなどしていなかったのだ。
熱いお湯を頭からかぶり、一日の疲れを流していると、背後でドアが開く音がした。
「えっ?」
振り返る間もなく、そこにいたのは全裸の琴葉だった。
「光輝、背中流してあげる」
彼女は悪戯っぽく笑いながら、ずかずかと浴室に入ってきた。湯気越しに見えるその姿は、あまりにも無防備で、あまりにも綺麗で。
俺の視線は琴葉の顔から自然と下へと落ちていった。白い肩。ほんのり桜色に染まった鎖骨。その下にある柔らかそうな膨らみと、突起。さらに下へ。引き締まった腹。くびれた腰。そして足の付け根に見え隠れする、黒い茂み。
言葉が出なかった。喉がカラカラに渇き、声帯が機能しない。完全にフリーズしている俺に、琴葉は何事もないかのように近寄ってきた。「あはは、何ぼーっとしてるの?」なんて言いながら。
彼女は手にボディシャンプーを取り、スポンジで泡立てると、俺の背中に当てた。滑らかな手つきで、円を描くように背中を洗い出したのだ。
「い、いやいや! おかしいだろ!」
俺はようやく絞り出すように声を出した。しかし琴葉はキョトンとした顔で、「何が? 」と返してくる。その天然な態度が逆に破壊力抜群だった。
不意に、背中に柔らかい感触が押し付けられた。琴葉が背中から抱きついてきたのだ。濡れた肌と肌が密着し、彼女の体温が直接伝わってくる。
「光輝……好き」
耳元で囁かれたその言葉は、俺の理性を容易く融かした。
俺は振り返り、琴葉を抱きしめ返した。俺も琴葉のことが好きだ。仲間としてじゃなく、一人の女性としてずっと意識していた。この温もりを守りたいとずっと思っていた。
「けど…待ってくれ」
ギリギリのところで理性が首をもたげた。このまま流れに身を任せれば、間違いなく一線を超えてしまう。だが、今はダメだ。
「このままだと我慢できなくなる。…もしここで琴葉が妊娠でもしたら、パーティから抜けることになる。戦力はかなり下がる」
一番現実的な理由を並べたつもりだったが、本音は違う。大切な琴葉を、ただの勢いで抱きたくなかった。彼女には相応しい場所で、相応しい形で迎えてやりたい。
「最終決戦が終われば…必ず返事をするから。だからそれまで待っててくれ」
俺は真剣に訴えた。琴葉は少し驚いたような顔をした後、優しく微笑んだ。
「うん…わかった。待ってるからね」
彼女はそう言って体を離してくれる……かと思いきや、また手にボディシャンプーを取った。
そして俺の一番敏感な部分を、その手で包み込んだのだ。
「えっ?」
「男の子は出さないと苦しいんでしょ?」
彼女は恥ずかしそうに頬を染めながらも、真剣な表情で俺を見上げた。
「初めてだから…教えてね」
ニコッと笑う琴葉に、俺はもう抵抗できなかった。温かい手のひらの中で、俺は彼女に全てを委ねた。彼女の手が動くたびに、理性と本能が激しく葛藤し、最終的には言葉にならない声を上げて果てた。
…そんな昨夜の記憶を振り払うように頭を振り、俺はホテルのロビーへ向かった。
そこにはすでにみんなが集まっていた。
「光輝くん、おはよー!」
みどりが元気よく手を振る。雪と麗華は相変わらずお嬢様モードで話している。朱音と夜羽は何やら言い争い中だ。凛と美咲は穏やかに微笑んでいる。詩乃はスマホで自撮り中。
そして琴葉だ。
彼女はみどりたちに囲まれてキャーキャー言っていた。「あんなこと」があった人間とは思えないほどの清純さだ。屈託のない笑顔で、「ねえねえ、おかげ横丁何食べる?」なんて無邪気に話している。昨夜のあのお茶目で大胆な彼女と同一人物だとは到底思えない。
だが、ふと目が合った瞬間、彼女は少し悪戯っぽく微笑んだ気がした。…絶対わかってやってるよな。
「さあ、行きましょう! 天照大御神様がお待ちですわ!」
麗華の号令で、俺たちはリムジンに乗り込んだ。
窓の外を流れる冬の景色を見ながら、俺は心の中で静かに決意を固めた。
天照大御神様に感謝を伝えるだけじゃない。この最強の仲間たちを絶対に守り抜くこと。そして琴葉との約束を果たすこと、その誓いを天照大御神様に立てる。
そのためにも、俺はもっと強くならなきゃならない。
リムジンは滑るように走り出し、伊勢神宮へと向かっていく。車内にはみんなの楽しそうな声が響いている。




