少女たちの気持ち
光輝が最近、女の子の扱いに慣れてきている気がする。
朱音の頭をポンと撫でて、みどりに「頼りにしてる」なんて真顔で言って。照れてる二人を見ても、「俺、何か悪いこと言ったか?」なんて首をかしげてるし。無自覚なのが余計にタチが悪いんだから。
はぁー。
思い出すのは、まだ二人だけでダンジョンに潛っていた頃のこと。光輝と私だけだった、あの小さなパーティー。モンスターに怯えながらも、必死で回復魔法をかけて、光輝が「ありがとう、琴葉」って笑ってくれただけで、胸がぽかぽか温かくなった。
あの頃が、ちょっとだけ懐かしい。
もちろん、仲間が増えるのは嬉しいんだ。雪ちゃんも凛ちゃんも麗華さんも朱音ちゃんも詩乃ちゃんも夜羽ちゃんもみどりちゃんも美咲ちゃんも、みんな良い子で頼りになる戦友だ。でもね……。
光輝に惚れなくてもいいじゃない。
みんなが光輝を見る目が、だんだん変わってきていることに気づいている。朱音ちゃんがデレた時の顔。みどりちゃんが褒められて真っ赤になる瞬間。美咲ちゃんが「光輝くんは信頼できる」って真剣に言うときのまなざし。
私、知ってるんだから。恋してる女の子の顔って、すぐわかるんだから。
でも仕方ない、とも思う。
光輝はカッコいいし、優しいし、それに天照大御神様に選ばれるような人だ。あんなに真っ直ぐで、誰よりも仲間を大切にして、自分のことはいつも後回しで。そんな人を好きにならない方が、きっと難しい。
だけどね。
私は最初の眷属なんだから。同じクラスなのも、最初にパーティーを組んだのも、私なんだから。
もっと頑張らないと。もっと強くなって、もっと光輝の役に立って、もっと……ちゃんと伝えられるように。
そう思いながら、私は今日も光輝の隣を歩く。
この場所だけは、誰にも譲りたくないから。
「琴葉? どうした、疲れたか?」
振り返った光輝が、心配そうに私の顔を覗き込む。
「ううん、大丈夫!」
私は笑顔で答える。
大丈夫。まだまだ、これからだから。
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今日はたくさん魔法が撃てた。気持ちよかったなー。
ライターの火くらいしか出せなかった私が、出てきたカマキリを次から次へと焼き払って。火の粉が舞って、モンスターが炭になっていく。あの感触、今でも手のひらに残ってる。
全部、光輝のおかげだ。
光輝が私を魔法少女にしてくれた。あのライターの火が、この巨大な炎になったのは、彼の「照らす」が私の潛在能力を引き出してくれたから。私の背中を押してくれたから。
光輝のために私は頑張る。絶対に彼の期待を裏切らない。
でもね、不思議なの。
光輝の前に行くと、何故かツンツンしちゃうんだけど、光輝はそれも笑ってくれる。「朱音らしいな」って。その笑顔が、また私の胸を熱くさせる。
ボス戦終わって、伸びをしていると光輝が来た。
「朱音」
って呼ばれて振り返る暇もなく、頭に手がぁーー。
撫で撫でだ。
光輝が私の頭を撫でてくれている。あの大きな手が、私の髪を優しく梳くように撫でる。
あっ……。
何も考えられない。
光輝の顔も見えない。音も聞こえない。ただ、頭の上の温もりだけが、私の世界のすべてになる。
光輝、好き。
だめ、思考が止まる。顔が熱い。たぶん、真っ赤になってる。でも、光輝の手からは逃げられないし、逃げたくない。
私は、火を纏う魔法少女。
でも、光輝の前では、ただの女の子に戻っちゃうんだな。
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麗華が張り切っている。
いつものお嬢さまな佇まいの中に、どこか燃えるような決意を感じさせる。彼女が言い出したのは、武器を見に行くついでに、みんなの防具も新調しようという話だった。
「防具は重要だし、願ってもないことだが…本当にいいのか? 麗華の家に負担をかけることになるし」
俺が遠慮がちに聞くと、麗華は凛とした顔でこちらを向いた。
「何をおっしゃいますの。皆さんの生存に関わる事ですわ。最優先で揃えるべきに決まっております」
彼女の瞳は揺るぎない。九条財閥の令嬢としての責任感なのか、それとも仲間を守りたいという純粋な想いなのか。おそらく両方だろう。
「光輝さん。使えるものは全て使わないと戦いには勝てませんわよ」
その言葉には、戦場を生き抜く者としての重みがあった。俺は彼女の真剣な眼差しから目を逸らさず、深く頷いた。
「…ああ、ありがとう。頼む」
素直に感謝を伝える。これ以上遠慮するのは、彼女の誠意を無にするだけだ。俺たちは生き残らなければならない。そのためには、恥ずかしがってばかりはいられない。
そうして俺たちは、防具のオーダーメイドを受け付けている老舗の工房を訪れた。女性陣は奥の採寸室へと案内され、俺は待合スペースでお茶を飲みながら彼女たちを待つことになった。
ドアの向こうからは、楽しげな声が漏れてくる。
「まあ、綺麗な布地!」「これなら動きやすそうだね」「ちょっとツボるかも~」
平和な光景だ。ダンジョンで死線をくぐり抜けているとは思えないほどの無邪気さ。それが少し羨ましくもある。
ふと、歓声が大きくなった。
「おおー!」
何か発見でもしたのか? と思った瞬間、聞き覚えのある声が響き渡った。
「ひ、ひゃくせんちーー!!」
…は?
百せんち? 百センチ? 何が?
俺は思わず天井を見上げた。いや、天井を見ても答えはないのだが、あまりの衝撃に視線が泳いでしまったのだ。
百センチという数字が頭の中で反芻される。採寸しているのは女性陣だ。つまり、体のどこかのサイズが百センチということだろうか?
まさか…
俺の脳裏に、麗華の姿が浮かぶ。そして、彼女の豊かな膨らみが。
そうか…あれが1メートルのおっぱいか。
思考が停止した。
1メートル。それは俺の腰ほどの高さだ。それが胸にあるというのか? 人間の体ってすごいな…いや、違う。それは感心している場合じゃない。
俺はブンブンと頭を振った。いかんいかん。仲間の体をそんなふうに考えてしまうなんて。彼女たちは戦友だ。立派なレベルホルダーだ。決して…決して性的な対象として見ているわけではない。
…見てないよな?
天井の木目を数えながら、自分の心を落ち着かせる。だが、「百センチ」という言葉が呪いのように耳に残り続けた。物理法則的にありえるのか? 重くないのか? 戦闘の邪魔にならないのか?
…いや、麗華はあれで動きが鈍いところなんて一度もなかったし、むしろその質量こそが、彼女の安定感を生んでいるのかもしれない。
などと、無理やり納得しようとしてみるが、やはり実感は湧かない。1メートルだぞ? 俺の身長だって175しかないんだぞ?
「光輝くーん、終わったよー」
ドアが開き、みどりが顔を出した。その顔は赤く染まっているが、本人は満足気だ。
「お疲れ様。…みんな、サイズは大丈夫だったか?」
俺は極力平静を装って聞いた。
「うん! 麗華ちゃんが全部見てくれたから安心して!」
みどりの無邪気な返事。見てくれたって…麗華が? 全部?
「あら、光輝さん。すっかりサイズは把握いたしましたわ。これで完璧な防具が作れます」
麗華が誇らしげに胸を張る。
そうか。完璧な防具だ。百センチの胸を守るための、強固な鎧。
俺は視線を逸らしながら、「ああ、頼りにしてるよ」とだけ答えた。
今日という日は、俺にとって色々な意味で衝撃的な日になったかもしれない。戦いよりも、こっちの方が精神に来るものがある。
「さあ、武器屋に行きましょう!」
麗華の声に促され、俺たちは店を出た。彼女たちの背中を見ながら、俺は改めて誓った。
絶対に守る。どんな敵が来ようと。1メートルの…いや、仲間たちの命を守り抜くと。
そう決意しながらも、頭の片隅で「1メートル」という単語が鳴り止むことはなかった。




