B級ダンジョン ボス戦
何度かの戦闘を経て、俺たちはついにそれを見つけた。
ダンジョンの最深部。他のエリアよりも明らかに装飾が施された巨大な扉が、俺たちの前にそびえ立っていた。鉄のような黒い金属でできていて、表面には不気味なカマキリのレリーフが刻まれている。間違いない、これがボス部屋だ。
「ついに来たわね」
朱音が緊張した面持ちで呟く。
今の時点で、俺たちのレベルは全員7から10。俺と琴葉がギリギリ10に届いたところで、残りのメンバーも7以上は確保している。B級ダンジョンのボスに挑むには、ステータス的には問題ないはずだ。
「どうする? 入る?」
みどりが俺の顔を覗き込む。
俺は全員を見渡した。雪、美咲、凛、麗華、朱音、夜羽、詩乃、琴葉、みどり。それぞれがすでに覚悟を決めた顔をしている。
「ここのボスの情報はあるか?」
俺が聞くと、みどりが頷いた。
「うん、大きなカマキリだね。ジャイアントマンティスっていうボス。それで、子供みたいな小さなカマキリを無限に召喚するみたい」
「なるほど……本体は麗華、雪、美咲の3人で抑える。小さいのは朱音と夜羽の魔法と、残りのメンバーで地道に倒していこう」
俺はみんなの顔を見ながら作戦を説明した。
「麗華がボスの正面を引きつけて、雪と美咲はその両翼から攻撃を叩き込む。朱音はボスの右側を焼き払って雑魚を減らせ。夜羽は左側を混乱させて、雑魚同士で戦わせるんだ」
みんなが黙って頷く。
「混乱している方を優先的に潰す。凛、俺、琴葉で左側の掃除をする。みどりと詩乃は凛の後ろでサポートを頼む」
「了解!」「わかった!」
「よし…行くぞ!」
俺が扉を押し開くと、中は巨大な空洞になっていた。天井には無数の穴が開いていて、そこから差し込む不気味な光がボスを照らしている。
その中央に、そいつはいた。
全長3メートルはあろうかという巨大なカマキリ。鎌のような前脚はそれだけで人間を真っ二つにできそうな鋭さを持ち、複眼が俺たちをギロリと睨んでいる。
「こっちですわよ!」
麗華が真っ先に飛び出していった。大盾を構えてボスの眼前に踊り出ると、巨大な鎌が振り下ろされる。
ガギイイイン!
耳をつんざくような金属音が洞窟に響いた。麗華の両脚がズシッと床にめり込むが、彼女は一歩も引かない。
「今です!」
その背後から、雪と美咲の幼馴染コンビが左右に散って走り込んでいく。
「氷室流・霜月!」
「神薙一突!」
雪の薙刀がボスの左前脚の関節を切り裂き、美咲の槍が右腹を深々と貫く。このコンビ、息がピッタリだ。
その時、床に無数の魔法陣が浮かび上がった。召喚陣だ。
「来るぞ!」
俺の声と同時に、魔法陣から1メートル級のカマキリがワラワラと現れた。10……20……いや、もっといる。キチキチという不気味な鳴き声が洞窟全体に反響する。
「朱音! ボスの右側を焼き払え!」
「待ってました! ファイアストーム!」
朱音が両手を広げると、灼熱の渦が召喚されたばかりの小型カマキリを飲み込んでいく。一瞬で数体が炭になる。彼女の火力は本当に頼もしい。
「夜羽! 左側を混乱させてくれ!」
「我に任せるがいい! 月影幻夢!」
夜羽の紫黒の霧が左側に発生した小型カマキリの群れを包み込む。次の瞬間、カマキリたちは同族に向かって鎌を振るい始めた。幻術で見えない敵と戦っているんだ。
「混乱している方を潰すぞ! 俺の後ろに琴葉、気をつけろよ!」
「うん!」
俺は剣を手に、混乱しているカマキリの群れに突っ込んだ。幻術にかかっていない個体もいるが、そいつらは動きが読める。仲間同士で争ってるせいで隊列が乱れているんだ。
「せいっ!」
俺の剣がカマキリの頭を飛ばす。琴葉も後方からメイスを叩きつけて援護してくれる。彼女は回復魔法だけじゃない戦闘力も、ここにきて随分と上がってきた。
「凛!」
「任せてください! 草薙一閃!」
凛の不可視の斬撃が、俺が取りこぼしたカマキリをまとめて両断する。みどりも短剣で動きを止め、詩乃のバフが俺たちの動きを加速させる。
「うおおおっ!」
戦闘が佳境に入る。朱音が右側を焼き、夜羽が左側を混乱させ、俺たちが混乱組を片付ける。その間に麗華、雪、美咲がボスに集中攻撃を仕掛ける。この連携、この流れ。練習したわけでもないのに、自然と息が合う。これが俺たち「天照の光」の強さだ。
「今です!」
雪の薙刀がついにボスの右鎌を根元から切断した。金色の体液が吹き出し、ボスが断末魔の叫びを上げる。
「終わりだ!」
美咲が高く跳躍し、ボスの頭めがけて槍を突き下ろす。
「神薙一突・破!!!」
ズガンッ!!
槍はボスの複眼のど真ん中を貫き、脳天まで達した。巨大なカマキリがゆっくりと崩れ落ちていく。召喚されていた小型カマキリたちも、本体が倒されると同時に光の粒子となって消えていった。
「…終わったか」
ボスが完全に消滅したのを確認し、俺は大きく息をついた。
「みんな! 怪我はないか?」
俺が叫ぶと、みんなは「大丈夫よ」「平気だよ」と口々に言った。琴葉がすぐに回復魔法をかけて、それぞれの傷や疲労を癒やしていく。
その時、俺たち全員を光が包み込んだ。
「おおっ! レベル12になったぞ!」
自分のステータスを見て、俺は思わず声を上げた。気づけば他のメンバーもレベルアップしている。
「ボクも、もう10まで上がったよ。こんなに早くレベルが上がるなんて…光輝くんの照らすのおかげだね」
美咲が嬉しそうに槍をクルクル回しながら言う。
「私も12だよ!」
「私も11!」
「我も12だ!」
全員が10から12に上がっていて、みんなホクホクだ。B級ダンジョンのボスにしては経験値が多い気がするが、朱音が焼き続けていたからか?
「さあ、帰るか」
俺がそう言うと、みんなは元気よく返事をした。
配信のコメント欄が凄まじいことになっている。
『見応えのある戦闘だった!』
『女の子が強くてカッコいいの好き』
『ハーレム王の指示出しも良かったぜ』
『これがB級か…鳥肌たったわ』
『美咲さまのトドメやばたん』
『雪ちゃんの関節外しもエグいわ』
好意的なコメントが滝のように流れていく。ただし…やっぱり出てきたぞ、ハーレム王。
「俺、ハーレム王じゃないんだけどな…」
俺がボヤくと、後ろからクスクス笑い声が聞こえた。
「あら、でも事実じゃない?」詩乃がイタズラっぽく言う。
「同意する。これだけの女子を侍らせて、王でなければ何だというのだ」夜羽まで。
「王というよりは…鈍感王かな」みどりがニヤニヤ。
おいおい、どんどん新しい称号が増えていく。
出口に到着すると、俺はカメラに向かって締めの挨拶をした。
「本日の『天照の光』の探索はこれで終了です。B級ダンジョン、無事攻略できました。応援ありがとうございました!」
一礼して、配信を終了する。
ドローン型カメラの赤いランプが消えると、みんなの緊張の糸が一気に切れたようだ。
「ああ…やっぱりB級ともなれば疲れるわね」
朱音が両腕を上げて伸びをした。その顔には疲労の色が濃い。
「朱音」
俺は朱音のそばに歩み寄り、ポンと頭に手を置いた。
「えっ? な、なによ急に!」
「ボス戦、一番活躍したのは朱音だ。右側の掃除、完璧だった。助かったよ。お疲れ様」
俺がそう言いながら頭を撫でると、朱音の顔が真っ赤になり、そのまま固まってしまった。
「え…あ…その…」
ツンデレどころか、ツンもデレも消えて完全にフリーズだ。
「みどり」
今度はみどりの方に向かう。
「は、はいっ! なに?」
「今日はみどりが大活躍だったな。罠も全部見破って、偵察もお前がいないとできなかった。明日、弓を見に行こうな」
ポンと頭を撫でてやると、みどりの顔にも火がついた。耳まで真っ赤にして、口をパクパクさせている。
「あっ…光輝の…手…やばい…記憶に焼き付けないと」
何を言ってるんだお前は。
「光輝くん、あたしは? あたしも今日は結構頑張ったんだけど!」
詩乃がぴょんぴょん跳ねながらアピールしてくる。
「詩乃も助かったよ、ありがとうな」
「えへへ〜」
詩乃は素直に嬉しそうだ。この辺はさすがアイドル、反応が違う。
「よし、みんな本当にお疲れ様。帰ろう」
俺たちは夕暮れの街へ戻っていった。
明日は武器屋に行く約束だ。それまでに、また少しでも強くなれるように。今日の反省を踏まえて、戦術の見直しもしよう。
家に帰る道すがら、スマホを見ると、配信の視聴者数がまた伸びていた。それに比例するように、『天照の光』への期待もどんどん高まっている。
期待されるのは悪い気はしない。むしろ嬉しい。
でも、俺の力なんて「照らす」だけだ。強くなれるのは、みんなの才能と努力があってこそだ。
「明日も頑張ろう」




