B級ダンジョンの攻略
拓也のことは、もう忘れることにした。
あいつらがどうなろうと知ったことじゃない。俺たちがやるべきことは、もっと強くなることだ。強くなって有名になれば、迂闊に手を出してくる奴もいなくなるはずだ。それに、日本を守るという本来の目的を果たすためにも、立ち止まっている暇はない。
俺たちはB級ダンジョンに到着した。
前回よりも空気が重く、ダンジョンの入り口から漂う魔の気配が肌に突き刺さるようだ。だが、俺たちの士気は高い。9人から10人になり、パーティーとしての厚みも増した。
「よし、カメラをセットして配信を始めるぞ」
俺がドローン型カメラを起動させると、赤いランプが点滅し、配信開始の合図となる。
『天照の光、B級ダンジョン攻略を開始します!』
俺がカメラに向かって挨拶をすると、コメント欄が瞬く間に流れ始めた。
『きたー!』
『今日はB級か!』
『新メンバーって誰?』
「今日は新しい仲間を紹介するよ。宝条美咲!」
俺が隣にいる美咲を手で指すと、彼女はサッと前へ出て、カメラに向かって爽やかにウィンクした。
「宝条美咲だ。みんな、よろしく頼むよ!」
その立ち姿、声のトーン、そして笑顔。まさに女子校の王子様だ。
コメント欄が爆発した。
『うおおお! イケメン女子!』
『美咲さまだー!』
『かっこいい! 私の美咲さま!』
『やっぱりハーレム増えてるじゃん!』
「美咲さまだって…」
俺は苦笑いするしかなかった。彼女が登場した途端、女性視聴者からの黄色いコメントが殺到している。「美咲さま」という呼び方は一瞬で定着したようだ。人気者だなあ。
「よし、行くぞ!」
俺は気を取り直し、詩乃と連携してスキルを発動した。
「照らす!」
温かな光が10人を包み込む。全員のステータスが跳ね上がり、戦闘準備は完了した。
「美咲はレベルが上がるまでは中衛で援護を頼む。雪と連携して前線を支えてくれ」
「了解!」美咲が槍を構えて頷く。
「みどり、先導を頼む!」
「りょーかい! みんな、ついてきて!」
みどりの危険察知スキルが頼もしい。彼女が安全ルートを先行し、俺たちはその後ろに続く形でダンジョン内部へと進んでいった。
暗い回廊をしばらく進むと、みどりが突然足を止め、叫んだ。
「天井から蜘蛛! 床に芋虫! 複数体!!」
彼女がバックステップで俺たちの後ろに下がると同時に、天井の闇から巨大な蜘蛛が糸を垂らして降りてき、床の影からは芋虫のようなモンスターが蠢き出てきた。B級モンスター、ジャイアントスパイダーとキャタピラーの混合部隊だ。数は5体ずつくらいか。
「虫には火だろ! 朱音、ぶっ放せ!」
「待ってました!」
朱音が嬉々として前に出る。木花咲耶姫の加護を受けた彼女の火魔法は、もはや単なる火炎ではない。
「ファイアストーム!!」
朱音が両手を突き出すと、灼熱の炎が竜巻となって敵の集団に向かって放出された。ダンジョンの廊下が一瞬にして灼熱地獄と化し、虫たちの甲高い悲鳴が響き渡る。
「よし! 麗華、煙が晴れたら前に出てくれ! 凛と雪は麗華の後ろで待機!」
俺の指示が出る前に、煙の中から黒い影が飛び出してきた。炎をものともせず突進してくる芋虫がいる!
「させませんわ!」
麗華が大盾を構え、突進を真正面から受け止めた。ゴッという鈍い音が響き、麗華の足が床にめり込む。しかし、彼女は微動だにしない。
「今です!」
麗華の声に呼応するように、右から凛、左から雪が飛び出した。
「草薙一閃!」
「氷室流・燕返し!」
凛の不可視の斬撃が芋虫の外殻を切り裂き、雪の薙刀がなぎ払って胴体を両断する。一撃必殺だ。
「天井! 蜘蛛に気をつけろ!」
俺が叫ぶと、糸を垂らして降りてこようとしていた蜘蛛たちの動きが止まった。
「月影幻夢」
夜羽が優雅に手を振ると、紫黒の霧が天井を覆う。霧に巻かれた蜘蛛たちは突如として同族に襲いかかり始めた。幻術で見えない敵と戦わされているのだ。
落下してきた蜘蛛を待っていたのは、雪と美咲だ。
「せいっ!」
雪が薙刀で蜘蛛の脚を斬り飛ばし、体勢を崩したところへ、
「貫けっ!」
美咲の槍が心臓部を正確に貫く。経津主神の加護を受けた「神薙一突」は、頑丈な外殻をも紙のように貫通した。
B級ダンジョンの初戦闘は、圧倒的な勝利に終わった。
「ふぅ……」
戦闘が終わると、俺はステータスを確認した。
宝条美咲はレベル4まで一気に上がり、他のみんなもレベルが1上がっていた。俺と琴葉はレベル8だ。
「よし、B級でも行けそうだな」
俺は手応えを感じて頷いた。C級の時よりも敵は強いが、10人の連携なら問題なく対処できる。
ダンジョンの奥へと進みながら、俺はふと雪に問いかけた。
「なあ雪、薙刀と槍ってどう違うんだ? 見てると似てる部分もあるけど」
雪は薙刀を構えたまま、丁寧に答えてくれた。
「薙刀は斬る、払うことを攻撃の主体としています。懐に入られた場合は不利になりますが、間合いを保てば複数の敵を相手にできます」
美咲も槍を弄びながら口を挟んだ。
「槍は突くことが攻撃の主体だね。間合いは薙刀より長いけど、横からの攻撃には弱いかな。一撃の破壊力なら槍の方が上だね」
なるほど。斬るか突くかで得意な間合いも変わるのか。
「じゃあ美咲はそのまま中衛でいてくれ。雪の横から突きで援護する形がいい」
「うん、その方がボクもやりやすいよ」
美咲はそう言ってニコリと笑う。その笑顔と佇まいは、やっぱり王子様そのものだ。
コメント欄も『美咲さまー』『かっこいいー』で溢れている。
「人気者だな」
俺が苦笑すると、美咲は少し照れくさそうに頭をかいた。
「ふふっ、美咲ちゃんは私たちの王子様だね」
詩乃が美咲の腕に自分の腕を絡める。
「詩乃…近いよ」
美咲が顔を赤くする。
ああいう反応を見ると、レズビアン疑惑は本当っぽいな。でもそれがまた視聴者受けしているようだ。
「よし、次の敵も一気に行くぞ!」
俺たちはさらに奥へと進んでいった。B級ダンジョンの攻略も順調だ。
琴葉が俺の隣に来て、小さく呟いた。
「光輝、私ももっと強くなるね。また守ってもらうばかりじゃなくて」
「ああ、頼りにしてるよ」
俺は琴葉の頭をポンポンと撫でた。彼女は嬉しそうに目を細める。
10人の絆は、あの事件を経てより強くなった。これから何があっても乗り越えていける。そう確信しながら、俺たちはB級ダンジョンの深部へと足を踏み入れていった。




