パーティの絆
目の前で繰り広げられているのは、一方的な暴力の嵐だった。
「よくも…よくもこんなことぉおおっ!」
覚醒した琴葉のメイスが、昌幸の肋骨を砕くような音を立てる。レベル7になった琴葉に、俺の「照らす」がかかり、さらに詩乃のバフまで乗っているのだ。その威力はもはや対人戦のレベルじゃない。
「ぎゃああああ!」
和志が逃げようとしたところへ、雪の薙刀の柄が容赦なく腹に突き刺さる。麗華の鉄拳が剛志の顔面を捉え、美咲の槍の石突が拓也の背中を突き飛ばした。朱音は魔法こそ使っていないが、平手打ちだけで和志の頬を腫れ上がらせている。
下着姿の少女9人によるリンチ。絵面だけなら天国かもしれないが、響く音は地獄そのものだ。骨が砕ける音、男たちの悲鳴、そして少女たちの怒号。
「待て! やめろ!」
俺は焦った。彼女たちの攻撃には明確な殺意が混じっている。特に琴葉と雪、凛の3人は目が据わっている。拓也たちは確かに許しがたい犯罪者だが、もし彼女たちの手で彼らを殺してしまったら――彼女たち自身が人殺しになってしまう。
「死んじゃうから! その辺でやめてあげて!」
俺は必死に叫びながら、琴葉と雪の間に割って入った。琴葉が振り上げたメイスを、俺は素手で止めた。ギリリと掌が痛むが、構わない。
「光輝?」
琴葉の怒りに燃えていた瞳が、俺を見て少しだけ揺れた。
「頼む、もういい。これ以上やったら、お前たちが壊れちゃう」
俺は拓也たちを見下ろした。4人はボロ雑巾のように床に転がり、ピクリとも動いていない。生きてはいるだろうが、全治何ヶ月レベルの重傷だ。
「…わかった」琴葉がメイスを下ろすと、他の女の子たちも殴るのをやめた。倉庫には男たちの呻き声だけが残った。
俺はすぐに上着を脱ぎ、下着姿の琴葉にかけた。他の女の子たちにも服を着てもらう。肌を隠すように身を縮こまる彼女たちを見て、俺は胸が締め付けられた。俺がもっと早く気づいていれば、こんな屈辱を味あわせることはなかったのに。
「…ごめん」
俺が謝ると、琴葉は首を横に振った。
すぐに探索者協会に電話し、事情を説明した。10分もしないうちに数人の職員が到着し、救急隊員と共に拓也たちを運び出していく。
「神代様、ご苦労様でした。彼らはレベルを持つ犯罪者ですので、一般社会に戻すことはありません。どこかの鉱山か建設現場で、一生強制労働させることになりますのでご安心ください」
職員の事務的な言葉に、俺はただ頷くことしかできなかった。自業自得とはいえ、16歳で人生終了というのはあまりにも残酷な気がしたが、彼らが琴葉にしたことを思えば同情の余地はなかった。
職員たちが去り、倉庫には俺たちだけが残された。
その瞬間、琴葉が俺に抱きついてきた。
「光輝っ!」
「うわっ!」
衝撃と共に、柔らかい感触が俺の体を包み込む。琴葉の涙で濡れた頬が俺の胸に押し付けられ、彼女の腕が俺の背中に回される。
「助けに来てくれて…ありがとうっ!」
腕に力が入る。え? ちょっと待って? ギシッという音が俺の骨から聞こえた気がする。
「ぐっ…琴葉…苦しいよ…」
大国主命の加護と回復スキルでパーティーの要である琴葉。俺の「照らす」で底上げされた彼女の筋力は、麗華に次ぐレベルになっているのだ。彼女自身はそれに気づいていないようだが、このハグは締め技そのものだ。
「あっ! ご、ごめんなさい!」
俺がうめくと、琴葉はパッと離れた。顔を真っ赤にして心配そうに俺を見上げている。
「大丈夫…ありがとう」
俺は苦笑いしながら背中をさすった。助かったのは俺の方かもしれない。
「みんなも…琴葉を助けるためにありがとう。危険な目に合わせてごめん」
俺が頭を下げると、
「当たり前だよ! 琴葉ちゃんは私たちの仲間なんだから!」みどりが即答する。
「ええ、あんな輩には二度と近づかせませんわ」麗華も頷く。
「ふんっ!」
朱音がプイと顔を背けた。
「光輝。私の下着姿の感想くらい言いなさいよ」
ツンデレか! この状況でツンデレか!
「えっ…あー…その…」
見てないって言うのは通用しないだろうな。薄暗い倉庫とはいえ、目の前で脱がれていたのだから。
「き…キレイだったよ」
俺は顔を赤くしながら正直に言った。
「ふんっ…今日の夜に思い出してもいいわよ」
朱音は顔を背けたままボソッと言った。デレた! 絶対デレた! 可愛い!
「えっ…思い出されるのは困るな」
美咲が困ったように眉を下げる。
「私も見られちゃったし…光輝くんの前で恥ずかしいことしちゃったなぁ…」
王子様みたいな顔して何言ってるんだこの人は!
「お、思い出しません! そもそも目を瞑ってたから見てませんから!」
俺は必死に否定した。
「なんだー、もう一回見せようか?」みどりがニヤニヤしてくる。
「見せてあげようか?」雪も小悪魔っぽく笑う。
「いらないです! 仲間をそんな目で見ません!」
俺は全力で拒否した。顔がボッとなるのが自分でもわかる。
「はいはい、冗談よ」琴葉がクスクス笑う。「今日はもう探索は休みにしよう。みんな疲れちゃったし」
「そうですね」俺は頷いた。「琴葉、家まで送るよ」
「うん! ありがとう!」
俺たちは倉庫を出て、夜道を歩いた。琴葉は俺の隣で、時折不安そうに周囲を見回しながらも、しっかりと歩いている。
「光輝」
「ん?」
「私ね、あの時怖かったけど…光輝が助けに来てくれるって信じてたよ」
「当たり前だろ。琴葉は俺たちの大切な仲間なんだから」
「うん!」
琴葉はまた俺の手を握った。今度は力加減に気をつけてくれているようで、優しく温かかった。
俺は琴葉を家まで送り届け、自分の家に帰った。
ベッドに横になりながら、今日の出来事を反芻する。拓也たちの身勝手な行動。琴葉の危機。そして仲間たちの怒りと絆。
あいつらはもう二度と戻ってこない。それがこの世界のルールだ。力を持つ者が悪用すれば、それ相応の罰を受ける。
俺は自分の手を見た。今日、拓也たちを殺させないために止まったあの手。彼女たちを人殺しから守れたことだけが救いだ。
でも、これからもっと強い敵が出てくるかもしれない。ダンジョンのモンスターだけじゃなく、人間である俺たち同士でもぶつかり合うことがあるかもしれない。
その時、俺はみんなを守れるだろうか?
「…やるしかないか」
俺は目を閉じた。明日からの戦いに備えて、少しでも体力を回復しなければ。
琴葉の笑顔を守るために。
みんなの日常を守るために。
俺は強くならなきゃいけない。
そう誓いながら、俺は深い眠りに落ちていった。




