拓也の歪んだ感情
「くそっ、くそっ、くそっ!」
俺は自室のベッドに飛び込むと、枕を何度も殴りつけた。謹慎処分を受けてからというもの、毎日がこの調子だ。親には「恥知らずな息子だ」と罵られ、学校からも連日電話がかかってくる。俺の輝かしいはずだった高校生活は、水泡に帰した。
すべては、あの神代光輝のせいだ。
俺はスマホを取り出し、ダンジョン配信のアプリを開く。画面に映し出されたのは、やはりあいつの顔だった。「天照の光」というパーティ名で、今日ものうのうとダンジョンを攻略している。
『よし、みんな準備はいいか?』
畳みかけるような明るい声。俺の神経を逆撫でする爽やかな笑顔。そして、その周りに群がる女たち。
琴葉、雪、みどり、麗華、詩乃。さらに今日は朱音、夜羽、凛という新顔まで加わっている。全員が美少女だ。しかも、あいつのスキルだか何だか知らないが、レベル1の新入りがC級ミノタウロスを一撃で倒したり、カッコいい魔法を使ったりしている。コメント欄は「すげー」「最強」「ハーレム王」の嵐だ。
「ふざけんなよ…」
俺はスマホを握りしめ、画面の中の光輝を睨みつけた。
俺だって、探索者適性がある。俺だって、ダンジョンに入れば強くなれるはずだった。金持ちになって、女たちにチヤホヤされて、俺のハーレムを作る。それが俺の夢だったんだ。あいつさえ現れなければ、あそこで女たちに囲まれてニヤニヤしているのは、この俺だったんだ!
「あの女たちは…俺のモンだろ…」
俺の思考はどす黒い欲望で満たされていく。俺の女になるはずだったんだ。俺が声をかけりゃ、どんな女でも落ちる。金と力さえあればな。それをあいつが横取りしやがった。光輝にはもったいない。あんな貧乏人の家に生まれ育った劣等生に、あの美少女たちが釣り合うわけがない。
「俺の女たちを返してもらわねえとな…グヘヘ」
俺は鼻の下をこすり、卑劣な笑みを浮かべた。正面から戦っても勝てないのは、あの時の戦闘で痛感した。レベル差はあるが、何よりあいつの「照らす」だかのスキルが厄介だ。女たちのステータスを底上げしている。まともにやり合えば、俺が負けるかもしれねえ。
だが、俺には勝算がある。あいつらは数が多すぎる。9人もいれば、連携に隙ができるはずだ。それに、どんなに強くても、人質さえ取れば話は別だ。
「1人ずつ攫うか…」
俺は配信画面のなかの女たちを順番に見ていく。雪も麗華も強そうだ。あの新入りの朱音や夜羽は魔法を使うし、凛の剣術は厄介極まりない。みどりは危険察知で俺の接近に気づくかもしれない。詩乃はバッファーだが、あの歌で動きを封じられるのは面倒だ。
そこで、俺は1人、ひときわ目立つわけでもなく、前に出ている女に目を留めた。
結城琴葉。
回復担当で、メイスを持っているが、前衛としての戦闘力は雪や凛に比べれば低いはずだ。それに、光輝の隣でへらへら笑っているあの女、一番隙がありそうだ。光輝への依存度も高く、あいつがいなくなればパニックになるに決まっている。
「よし、まずは結城琴葉を人質に取る」
俺はスマホの電源を切り、ベッドから起き上がった。謹慎中で外出はできないが、俺には外に仲間がいる。同じく謹慎処分を受けて、家で暇を持て余している奴らだ。
俺はスマホの連絡先を開き、昌幸に電話をかけた。
「…もしもし?」
数コールの後、昌幸の気だるげな声が出た。
「俺だ、拓也だ」
「ああ、拓也か。どうした? 俺は今、親の説教が終わって一息ついてたとこだよ。クソッ、やっぱあの神代のせいで俺らだけが損をしてる」
昌幸も俺と同じようなどす黒い感情を抱いているようだ。
「それなんだよ。俺、考えたんだ。このまま泣き寝入りしてたら、俺らの高校生活は終わる。あいつらに一泡吹かせて、俺たちの面目を立てる方法をな」
「一泡吹かせてだと? どうやってだよ。俺ら、あいつらに勝てねえだろ」
「バカ、正面からやるわけねえだろ。あいつらの弱点は女だ。神代光輝って奴は、女が大事なんだよ。女を人質に取れば、あいつは絶対に動けなくなる」
電話の向こうで、昌幸が息を呑む気配がした。
「人質…お前、本気か?」
「大真面目だ。あいつらから女を奪って、俺たちの言うことを聞かせる。そうすりゃ、あいつらの配信も終わりだ。俺たちがダンジョン攻略して、俺たちが有名になって、俺たちがハーレムを作るんだよ」
「…面白れえ。俺、それ乗るわ。和志と剛志にも話通すか?」
「ああ、頼む。今すぐ3人で俺ん家の近くの公園に来てくれ。親には勉強するとか言って出てこい」
「了解。30分後にそっち行く」
電話を切ると、俺は内心でガッツポーズをした。
4人もいれば、女1人くらい余裕で押さえ込める。
俺は帽子を目深に被り、マスクで顔を隠して部屋を出た。親には「コンビニに行ってくる」とだけ言い残して。
夜の街を歩きながら、俺は卑劣な計画を頭の中で練り上げていく。明日の放課後、奴らはまたダンジョンに行くか、あるいは学校で集まるはずだ。和志に尾行させ、琴葉が1人になった瞬間を狙う。路地裏に引きずり込み、昌幸が取り押さえる。そして俺と剛志で薬で眠らせる。簡単なことだ。
琴葉を人質に取れば、光輝は絶対に俺たちの言うことを聞く。俺たちの謹慎を解かせ、俺たちをパーティに入れさせ、あの女たちを俺たちに差し出させる。
「覚悟しろよ、神代光輝。俺の女たちを返してもらいに行ってやるからな」
俺はニヤリと笑い、暗い夜の公園へと足を踏み入れた。
街灯の下に、3人の影が既に待っていた。昌幸、和志、剛志だ。全員が俺と同じく不機嫌な顔をしている。
「拓也、詳しく話してくれ」
昌幸が腕組みをして言った。俺は4人で円になり、声を潛めて計画を話し始めた。
「ターゲットは結城琴葉。あいつの彼女みてえな存在だ。あいつを攫えば、神代は絶対に動く。明日の放課後、和志があいつらを尾行する。琴葉が1人になったところを襲うんだ」
「攫った後はどうする? 俺たちの家か?」和志が聞いてくる。
「ああ、学校の近くにある倉庫を使う。そこで神代を待ち伏せする。女を返してほしければ、俺たちの条件を飲めって言うんだ」
「条件ってのは?」
「俺たちの謹慎を解かせること、俺たちをパーティに入れること、そして…あいつの女たちを俺たちに差し出すことだ」
俺の言葉に、3人の目が欲望でギラついた。
「女たちを…俺たちに?」昌幸がゴクリと唾を飲む。
「ああ。あいつらは俺たちの女になるはずだったんだ。それを取り戻すだけだ。お前らも、あの美少女たちとやりたいだろ?」
「当たり前だろ…」和志が下卑た笑みを浮かべる。「あいつら、俺らを見下してたからな。思い知らせてやるよ」
「よし、計画は決まった。明日の放課後、実行だ」
俺たちは互いの拳を合わせ、卑劣な誓いを交わした。俺の心は、復讐と欲望で暗く燃え上がっていた。もうすぐ、俺の女たちが戻ってくる。俺が勝者になり、光輝が敗者になる時が来るのだ。




