魔法少女と厨二病
学校での探索者活動が本格化する中、俺たち「天照の光」は新たな仲間探しに奔走していた。
「よし、じゃあ手分けしてリストアップしよう」
空き教室に集まった俺、琴葉、みどり、詩乃の4人は探索者適性があって、まだパーティを組んでいない女子を探した。
「あ、この子は?」詩乃が指さす。
「もうチーム組んでるな」
「じゃあこの子は…」
「ああ、あのパーティのサブだ」
リストを一つずつ潰していくが、適性があってもパーティ未所属の女子は驚くほど少なかった。探索者はダンジョン配信ブームの影響で、適性さえあればすぐにチームを組むのが当たり前になっている。しかも、前衛と違って後衛職はさらに数が限られていた。
「うーん、全然いないね」みどりがため息をつく。
「待って、この子たちは?」
琴葉が画面をスクロールさせ、二人の名前を指さした。
C組 星宮朱音。適性属性:火魔法。
D組 月城夜羽。適性属性:闇魔法。
「使えないと言われて追放された、か…」
俺は思わず歯噛みした。またかよ。探索者業界の悪しき風潮だ。みんな即戦力のアタッカーだけでパーティを組みたがる。後衛の魔法職は、育てながら上を目指すのが基本中の基本なのに、それを理解しないリーダーがあまりにも多い。
「二人とも魔法職か。ちょうどいいじゃない」琴葉が小さくガッツポーズする。
「よし、放課後、話を聞いてみよう」
俺はすぐさま二人に連絡を取り、空き教室への呼び出しをかけた。
放課後、教室のドアが開き、二人の女子が入ってきた。
一人は、肩までの赤髪が特徴的な、キリッとした顔立ちの少女。腕を組んだ立ち姿には気の強さが滲み出ているが、その瞳にはどこか諦めの色が混ざっている。星宮朱音だ。
もう一人は、腰まで伸びた黒髪のロングヘア。透き通るような白い肌に、スッと整った目鼻立ち。まるで人形のような美しさだが、その手首には黒い包帯が巻かれ、どこかミステリアスな雰囲気を漂わせている。月城夜羽だ。
「話って何? アンタたち、今話題の『天照の光』でしょ?」
朱音が警戒気味に尋ねる。その鋭い視線は、これまで何度も失望させられてきた者の目だ。
「単刀直入に言う。俺たちのパーティに入ってほしい」
俺が切り出すと、朱音は意外そうに眉を上げ、夜羽はフッと口元に笑みを浮かべた。
「ただし、その前に全部話す。俺たちの本当の目的を」
俺は全てを話した。天照大御神様から使命を受けたこと。ダンジョンが魔力を溜めて、日本を滅ぼす八岐大蛇の封印を解こうとしていること。そして3年後に迫る最終決戦——これは命懸けの戦いになるということ。
琴葉が続けた。
「だから、よく考えて返事をしてほしいの。軽い気持ちで入れるパーティじゃないから」
みどりも真剣な表情で頷き、詩乃は自分の経験を短く話した。前のパーティで酷い目に遭い、それでも戦う覚悟を決めたこと。
教室に沈黙が流れる。先に口を開いたのは朱音だった。
「私の魔法、知ってる? ライターの火くらいの威力しかないのよ。そんなんじゃ、とどめを刺せないからって追い出されたんだから」
自嘲気味に言う朱音の声は震えていた。
「そんな私が、命懸けの戦いについて行けるとは思えないんだけど?」
「大丈夫だ」
俺は即答した。
「天照大御神様は、今までのメンバー全員に神の加護を付与されている。それに、俺の持つ『照らす』スキルは仲間の潛在能力を引き出す力だ。ライターの火ですらない、本気はまだ眠っているだけだろう」
朱音は俯き、拳を固く握りしめた。
「…私ね、小さい頃からずっと魔法少女に憧れてたの」
ポツリと、彼女が語り始める。
「探索者適性があって、魔法が使えるって知って、本当に嬉しかった。やっと魔法少女になれるんだって。でもやってみたら、威力がなくて誰も助けられない。使えないって、パーティから外されて…」
朱音は顔を上げた。その目には涙が溜まっている。
「それでもまだ、諦めたくなかった。私、まだ魔法少女になりたいんだよ! …日本のためなら、命だって懸けられる。だから、仲間にして!」
「ああ、もちろんだ」
俺がうなずくと、朱音は涙をハンカチで拭いた。その横で、今まで黙っていた夜羽が深く息を吐いた。
「ふっ…」
彼女はゆっくりと立ち上がり、窓の外を見つめながら口を開いた。
「なるほど、貴様らはついに我の力に気づいたか。なかなか見どころがあるじゃないか」
黒髪をかき上げ、月城夜羽はまるで舞台役者のような口調で続ける。
「この右腕に宿りし封印の闇——我が真の力を解放せしめようというのだな? 日本を覆う邪悪の影を打ち払うため、我は禁忌の扉を開く覚悟を決めたぞ」
「つまり、命を懸けて一緒に戦ってくれるってことだな?」俺が念を押す。
「そ、そう言っているじゃないか!」
夜羽は涙目になりながら叫んだ。どうやら彼女は彼女で、厨二病的な言い回しの仮面の下に、素直になりきれない本音を隠しているようだ。
「それでだ、仲間になるには…俺とキスをする必要があるんだ」
俺がそう言うと、教室の空気が一瞬で凍りついた。朱音と夜羽の顔がボッと音を立てそうなほど真っ赤に染まる。
「き、キスぅ!?」
朱音が素っ頓狂な声を上げた。さっきまでのキリッとした態度はどこへやら、耳まで赤くして狼狽している。
「な、何でそんなことしなきゃいけないのよ! パーティに入るのにキスとか、どこの邪教よ!」
「邪教じゃないって! 天照大御神様から眷属にするにはそういう契約が必要だって聞いたんだよ。俺だって好きで言ってるわけじゃ…いや、まあ、嫌じゃないけどさ」
俺が頭を掻きながら説明すると、朱音はフンと鼻を鳴らし、そっぽを向いた。
「べ、別に…あんたがどうしてもしたいって言うなら、し、してあげてもいいけど…」
視線を床に落とし、モジモジと自分の指をいじる朱音。その姿は先ほどまでのツンツンした彼女とは別人のようだ。
「ああ、朱音と仲間になりたい。キスしたい」
俺がストレートに言うと、朱音の肩がビクッと跳ねた。
「し、しょうがないわね! さっさとしなさいよ!」
彼女はギュッと目を閉じて、少し顔を突き出した。待ち構えるその唇は震えている。
俺はそっと彼女に近づき、柔らかい唇に自分のそれを重ねた。
瞬間、朱音の体が眩い光に包まれる。
「んんっ! 神代くんがぁ…入ってくるぅ!」
まただ。またこの現象だ。朱音は俺の胸に手を押し付けながら、体をくねらせて甘い声を漏らす。光の粒子が二人を包み込み、部屋の中が一瞬だけ昼間のように明るくなった。
「もう! 毎回毎回、何ですかこの現象は!」
琴葉が顔を真っ赤にして叫ぶ。みどりは「あちゃー」と苦笑いし、詩乃は「綺麗…」とポーッと見惚れている。
光が収まると、朱音はへなへなと膝から崩れ落ちた。
「はぁ…はぁ…何よこれ…変な感じ…」
彼女は唇を手で押さえ、涙目で俺を睨んだが、その顔には隠しきれない羞恥と高揚感が浮かんでいた。
「次は私だな」
俺が朱音に手を貸しながら立ち上がらせていると、背後から夜羽の声がした。
振り返ると、夜羽は腕を組み、不敵な笑みを浮かべて立っていた。しかし、その額にはうっすらと冷や汗が滲んでいる。
「ふっ…我の力の解放のトリガーが、こんなところにあったとはな。まあいい、契約を結ぶというならば、受けて立とうではないか」
厨二病全開で強がってはいるが、足が微妙に震えているのが丸わかりだ。俺は苦笑しながら彼女に近づいていった。
「わかった。じゃあ夜羽とも契約する」
「ひっ!?」
俺が一歩踏み出すと、夜羽が小さな悲鳴を上げて下がった。
「ちょ、ちょっと待て! 近づきすぎだ! 我は…我は初めてなのだぞ! 心の準備というものが!」
パニックになった夜羽が手を前に突き出して拒絶しようとするが、俺は問答無用でその手を掴み、自分の方へ引き寄せた。
「えっ? きゃっ!」
バランスを崩した夜羽の顎を左手でクイッと持ち上げる。驚いて見開かれた彼女の瞳に自分の顔が映り込む。
「よかったな、初めてが俺で」
「ふざけ…んんっ!」
言い終わる前に唇を塞いだ。再び部屋に溢れる白い光。
「ああっ! 解放されていくぅ! 光輝ぃ!」
夜羽もまた例のごとく甘い声を上げ、俺にしがみつきながら身悶えた。黒髪が扇のように広がり、光の中で妖艶に舞う。
長いキスの後、夜羽は朱音同様に力が抜けたように俺にもたれかかってきた。
「はぁ…はぁ…これが…契約…」
夜羽は頬を染め、トロンとした目で俺を見上げた。さっきまでの高慢な態度は跡形もない。
「さあ、二人ともステータスを見てみろよ」
俺はふらつく二人を支えながらステータス画面を開かせた。
【名前】星宮朱音
【レベル】1
【スキル】火魔法
【加護】木花咲耶姫
【名前】月城夜羽
【レベル】1
【スキル】闇魔法
【加護】月読命
「うわぁ…凄い!」みどりが食い入るように画面を見つめる。
「加護がついてる! 木花咲耶姫と月読命だよ!」琴葉も目を丸くした。
「木花咲耶姫…桜と美の女神…」朱音は自分の名前の横にある見慣れない文字を震える指でなぞった。「私に…神様の加護が?」
「月読命…夜と月を司る神…ふふっ、我にこそ相応しき加護だな」夜羽もまた、信じられないものを見るような目で画面を見つめていた。
「これで二人も正式に『天照の光』のメンバーだ。ようこそ!」
俺が手を差し伸べると、朱音は泣きそうな顔で、夜羽は誇らしげな顔で、俺の手を握り返してきた。
「よろしくね…光輝」
「ふっ…我の力、存分に見せてやろう」
こうして俺たちは新たな仲間を迎え、また一歩大きく前へ進むことができたのだ。




