天照大御神様を呼ぶ?
話し合いのため空き教室に移動した。
「まず、俺たちの本当の目的を話すよ」
俺は詩乃に全てを打ち明けた。日本を襲う厄災に対抗するために強くならなければならないこと。天照大御神様から使命を受けたこと。そして眷属にするには接吻をしなければならないこと。
詩乃は神妙な顔で聞いていた。話が壮大すぎて、俄かには信じられないかもしれない。
「すごい話ですね…でも、皆さんの強さを見てたら、嘘じゃないってわかります」
詩乃は立ち上がり、俺の前に進み出た。
「微力だけど、私にも手伝わせてください!」
彼女の覚悟を確認し、俺は頷いた。
「じゃあ…いくよ」
詩乃が目を閉じる。俺はそっと唇を重ねた。瞬間、詩乃の体が眩い光に包まれる。
「ああんっ…光輝くん、もっと奥まで来て…」
またエッチな声だ。どうして眷属の儀式はこういう反応を引き起こすんだろうか。
「もう! なんでいつもそうなるのよ!」
琴葉が真っ赤な顔で突っ込む。みどりは「あちゃー」と額に手を当て、またライバルが増えたとつぶやいている。
光が収まると、詩乃はハッとして我に返った。
「え? 今の私、なんて…きゃあっ!」
彼女は自分の口を押さえて真っ赤になったが、すぐにステータス画面が表示された。
【名前】天音詩乃
【レベル】1
【スキル】神楽舞
【加護】天宇受売命
「おおっ! 詩乃にも加護が貰えたぞ!」
俺が喜びの声を上げる。天宇受売命は、天照大御神様が隠れた天の岩屋の前で楽しげに踊り、神々の興味を引いた芸能の女神だ。舞姫である詩乃にぴったりの加護だった。
「光輝くん、嬉しそう…私のことなのに、自分のことみたいに喜んでくれてる」
詩乃は目を潤ませ、うっとりとした表情で俺を見つめている。その瞳には明らかにハートマークが浮かんでいた。
「パーティの戦闘力が上がるからね!」
琴葉が強い語調で割り込んだ。彼女の嫉妬心は今や隠しようもない。
詩乃はそんな琴葉をチラリと見たが、特に気にする様子もなく、俺に近づいて小声で囁いた。
「光輝くんが見たいなら…昨日の水着、着て踊ってあげるよ」
「ぶっ!?」
俺は思わずむせた。顔が一気に熱くなる。
「見たくないっ! いや見たいけど、いや見たくない! 仲間をそんな風に見たりしない!」
俺の慌てぶりに、詩乃はクスッと笑った。どうやら彼女は好きになったらストレートに好意を伝えるタイプらしい。
琴葉の顔はひくひくしている。みどりはそんな様子を苦笑いで見守っている。新たな恋のバトルの火蓋が切って落とされたようだ。
放課後、俺たちは探索者協会を訪れた。拓也たちがどうなったのか気になったからだ。
受付で尋ねると、昨日のA級探索者パーティのリーダーが現れた。がっしりとした体格の壮年の男性で、名前は黒鉄剛というらしい。
「おお、君たちか。昨日はよくやったな」
「あの、拓也たちはどうなりますか?」
俺が尋ねると、黒鉄は少し考え込んだ。
「今回はレベル1の探索者を危険に晒した件と、猥褻行為の強要で、数日間の勾留の後に厳重注意というところだろうな。前科がつくから、次に何かやらかしたら終わりだ」
「そんな軽い処分で済むんですか?」みどりが不満そうに言う。
「法律と規則上はな。だが奴らを見ていろ、どうせ近いうちに自滅する」
黒鉄は俺たちをじっと見つめた。
「君たちはあいつらと違う。ちゃんとダンジョンのルールを守って、一歩ずつ進んでいる。その調子で頑張れよ」
俺はホッと胸を撫で下ろした。厳罰を期待していたわけではない。ただ、二度と詩乃のような被害者が出なければいいと思ったのだ。
「光輝はお人好しだね」琴葉が苦笑する。
「そうかもな」
俺たちは探索者協会を後にし、雪と麗華と合流した。
公園のベンチに6人が座り、これからのことを話し合う。雪が神妙な顔で口を開いた。
「光輝、私たち学校なんて行っていていいんでしょうか?」
「どういうことだ?」
「厄災はいつ来るかわからないのに、一刻も早く戦えるように準備したほうがいいんじゃないかって」
雪の言葉には強い覚悟が込められていた。
「私はお父様に話しました。もしかしたら休学するかもしれないって」
俺は悩んだ。使命の重さを考えるなら、雪の言う通りなのかもしれない。だが、みんなを巻き込んで学校まで休学させていいものか。
「私も構わないよ」詩乃があっさりと言った。「学校より光輝くんと一緒にいる方が楽しいし」
「俺はお前らの人生まで背負えない…」
「でも、日本が滅んだら学校も何もないですわよ」麗華が現実的な指摘をする。
そんな中、琴葉がポンと手を打った。
「ねえ、天照大御神様に聞いてみたら?」
「天照大御神様に?」
「そう。最初、私と光輝が寝てる時に夢に出てきてくれたじゃない? 問いかけて寝たら、また来てくれないかな」
なるほど、神託を仰ぐという手があるか。すると麗華が嬉しそうに提案した。
「だったら、わたくしの家でお泊まり会をしましょう!」
「お泊まり会?」
「みんな一緒の方が、天照大御神様も呼びやすいでしょう? それにパーティの結束を深める良い機会ですわ」
「そんなもんなのかな…」
俺は首を傾げつつも、女の子たちは明らかに乗り気だった。こうして急遽、お泊まり会が決まったのである。
麗華から教えられた住所に向かった俺たちは、その光景に言葉を失った。
「ここ…本当に家か?」
門構えからして普通の家ではない。石垣に囲まれた敷地はどこまでも続き、まるで城のような建物が見える。門をくぐれば広大な庭園が広がり、池には錦鯉が優雅に泳いでいた。
「やっと来ましたわね! 待ってましたのよ!」
玄関から麗華が現れた。彼女は今日も完璧な縦ロールだ。
琴葉は「うわぁ…」と敷居の高さに気圧され、みどりは庭園の美しさに目を奪われ、詩乃は「アイドルになってもこんなお家には住めないよ…」と現実的な感想を漏らしていた。
「さあ、遠慮なさらずに。今日はご馳走を用意させましたの」
豪華絢爛なダイニングに通され、テーブルに所狹しと並べられた料理の数々。老舗料亭も顔負けの懐石料理がずらりと並んでいる。
「九条家って何してる家なんだ?」俺が素朴な疑問を口にすると、雪が代わりに答えてくれた。
「九条財閥は氷室グループと並ぶ日本有数のコングロマリットですよ。政財界にも強い影響力を持つ、まさに華族の末裔ですわ」
「雪さんの氷室家も負けてませんのに」麗華が微笑む。
どうやら雪と麗華は学園のマドンナ的な存在だったようだ。そんな2人が同じパーティにいるというのも、考えてみれば凄いことなのかもしれない。
夕食を終え、大浴場で汗を流した後、俺たちは麗華の部屋に集まった。といっても、麗華の部屋は普通の家のリビングより広い。6人で寝転がっても余裕のスペースがあった。
「さて、どうやって天照大御神様にお会いしましょうか」
雪が正座して言った。みんなで話し合った結果、琴葉の提案通り、眠りについてみることにした。




