歌って踊れるバッファーの少女
その頃、拓也は自宅でモニターを睨みつけていた。画面には光輝の配信が映っている。金髪縦ロールのお嬢様に、小柄で可愛いスカウト。それに加えて琴葉と雪だ。
「なんだよこの縦ロールおっぱいは! それに水瀬みどりじゃねえか! 和志たちと組んでたあいつかよ!」
拓也はキーボードをバンと叩いた。自分のチャンネル登録者数はまだ100人そこそこだというのに、光輝はもう1万人を突破している。
「くそっ! やっぱり女の子か! 可愛い女がいれば数字が取れるんだ!」
拓也はすぐに昌幸、和志、剛志に電話をかけた。
「おいっ! 女の子をパーティに入れるぞ! 可愛けりゃなんでもいい!」
翌日、学校で募集をかけると一人の少女が応募してきた。ピンク髪をツインテールにしたアイドルみたいな雰囲気の女の子だ。名前は天音詩乃。
「私、歌いながら踊ると仲間のステータスがちょっとだけアップするスキルを持ってるんです!」
実際に披露してもらったが、レベル1の彼女が踊ってもアップ量は誤差の範囲だった。だが拓也たちにとってそれはどうでもよかった。
「よし! これで俺たちのチャンネルも1万人行けるぞ!」
4人は手を叩いて喜んだ。
しかし、彼らのやったことは狂っていた。いきなりレベル1の詩乃をB級ダンジョンに連れて行ったのだ。しかもカメラで撮りながら踊らせる。
「もっと可愛く踊れよ! ステータスアップ? あんなの誤差だろ!」
拓也はカメラを回しながら、詩乃にも聞こえるように愚痴った。
「動画映え以外には使えないかよ」
コメント欄はまともな視聴者の怒りで溢れていた。
『レベル1の後衛をこんな所に連れてきたらダメだろ!』
『虐待かよ! 通報しろ!』
拓也はチッと舌打ちした。
「なんで思い通りにならないんだよ!」
しばらく詩乃を動画に出しても登録者数は増えなかった。拓也の苛立ちは頂点に達し、ついに彼は意地の悪い提案をした。
「これに着替えろ」
彼が詩乃に突きつけたのは、面積の極端に少ないビキニの水着だった。
「い、いやです! こんなの恥ずかしい…」
詩乃が首を横に振ると、拓也は冷酷に言い放った。
「じゃあここに置いて行くぞ。B級ダンジョンの奥だぞ? モンスターに食われても知らねえからな」
脅された詩乃は震えながら水着に着替えさせられた。B級ダンジョンの冷たい空気の中、カメラの前で泣きながらポーズを取らされる少女。コメント欄には歓喜と非難が入り乱れていた。
『おおー! 生着替えだ!』
『これはアウトだろ…』
『通報した』
その配信を見ていた「天照の光」は、即座に行動を起こした。
「何やってるんだあいつら!」
光輝は怒りに震えた。
「助けに行くぞ!」
4人は頷き、急いでB級ダンジョンへと向かった。
ダンジョンに入った瞬間、光輝は全員に「照らす」をかけた。
「急ぐぞ!」
強化された足で、彼らはD級ダンジョンとは比較にならない濃い魔気の中を疾走した。
しばらくして、奥の方からカメラのライトと笑い声が聞こえてきた。拓也たちだ。
光輝たちは勢いよく飛び出した。
「何やってるんだ!」
光輝の怒声に、拓也たちは驚いて振り返った。
「あ? なんだ光輝かよ」
拓也は邪魔者が入って不機嫌そうだ。
琴葉は迷わず詩乃のもとへ走り寄り、持っていたタオルで彼女を包み込んだ。
「大丈夫? ひどい…」
詩乃は安堵と恥ずかしさで泣き崩れた。
光輝は拓也たちと睨み合った。
「そんな女、脱がなきゃ数字取れねえだろうが!」拓也が開き直って叫ぶ。
「自分だって数字取れないだろ!」光輝が即座に言い返す。「実力もないくせに女に頼るなんて最低だ!」
拓也は鼻で笑い、琴葉、雪、みどり、麗華に向かって言い放った。
「なあお前ら、光輝なんか捨てて俺のパーティに来いよ。俺が有名にしてやるよ」
その言葉に、4人の目が冷たく光った。
「天照大御神様が選んだのが光輝さんで良かったですわ」
麗華が優雅に、しかし断固として言った。
「貴方のような品性下劣な方と御一緒するなど、言語道断ですわ」
「麗華の言う通りだね」雪も冷ややかに告げる。
「光輝くん以外のパーティなんて考えられないもん」みどりも首を横に振る。
「絶対嫌!」琴葉も力強く拒絶した。
2つのパーティが一触即発の空気の中で睨み合っていると、背後から声が響いた。
「そこまでだ!」
ドンッという重い足音と共、屈強な男たちが現れた。A級探索者パーティだ。
「通報を受けて来たぞ。お前らか? レベル1の少女をB級ダンジョンで辱めてたのは」
A級探索者のリーダーは拓也たちを忌々しげに見渡し、あっという間に4人を縛り上げた。
「ぐあっ! 離せ!」
「離せだと? 貴様らのようなクズは探索者の面汚しだ。管理局でたっぷり説明してもらうぞ」
そして彼らは光輝たちの方を向き、柔らかい表情になった。
「君たちが助けに来てくれたのか。今回は助かったよ。あの子が無事で何よりだ」
「ありがとうございます」
「だが君たちもここに来れるレベルじゃないだろ? 無理はダメだぞ。今日は我々が出口まで送ってやる」
A級探索者たちに守られながら、光輝たちはダンジョンを後にした。
帰り道、琴葉とみどりはタオルに包まった詩乃に寄り添っていた。
「大丈夫? 家まで送るわよ」
「うん…ありがとう…」
詩乃は涙を拭い、少し安心したように頷いた。
翌日、学校で詩乃が挨拶に来た。
「あの…昨日は本当にありがとうございました」
彼女は深く頭を下げた。
「私、探索者を辞めようと思ってたんです。でも…みんなが助けてくれて」
詩乃は顔を上げ、真剣な眼差しで光輝を見た。
「あの! 私も仲間に入れてもらえませんか? 私のスキル、もっと強くなれるなら役に立つはずです!」
光輝は困ったように琴葉とみどりを見た。だが彼女の瞳には真剣な覚悟が宿っていた。
「詩乃ちゃんの気持ち、すごくわかるよ」琴葉が優しく言った。
「あそこまでじゃなくても私たちも辛い思いしたもんね」みどりも同意する。
光輝は考える。彼女のバフスキルは確かに微々たるものだが、「照らす」と組み合わせれば相乗効果があるかもしれない。それに何より、彼女の気持ちを無下にはできなかった。
「わかった。ただし俺とキスをしなければいけないんだけど‥イヤ、したいんじゃなくてね、イヤしたいけど、じゃなくて…」
「えっ」詩乃は顔を真っ赤にしたが、昨日の拓也たちの仕打ちに比べれば…
「やります!光輝くんなら大丈夫です!」
その言葉を聞いて琴葉がドキッとした顔をした、またライバルが‥という顔をしている




