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7-3 準備

先日の行政訴訟提起の記者会見から二~三週間が経ったある日。

法務省訟務局から厚みのある封筒が地域再生促進課に届いた。封を切ると、淡々とした文面の上に「東京地方裁判所 国家賠償請求訴訟・確認訴訟」と印字されている。旧秋山町を含む七地域の原告団が正式に国を訴えた。その訴状の写しだった。


後日、神谷課長からの指示を受け、法務省訟務局とまずは事前打合せをすることになった。若手を連れて法務省まで出向く。訟務局の行政訴訟課だ。

訟務局の会議室は広くも狭くもない。机の上に整然と紙資料が並ぶ。向かいの席には行政訴訟課の担当者二名が座っていた。名刺交換の後、淡々とした口調で説明が始まる。

「まずは簡単に今後の流れについて説明しますね。最終的な決着がつくまでには概ね二年から三年ほどかかります。対外的な窓口は我々が担いますので、国交省の皆さんには必要な書類作成や証拠関係などの情報提供をお願いすることになります」

手元の資料をめくりながら、隣の若手が必死にメモを取る。隼人は、官僚らしい事務的な口調の裏にある「手順の重さ」を感じ取っていた。訴訟というのは、法の形式に則って進むがゆえに、感情や倫理とは別のリズムで動く。彼らのような仲介窓口がいることで、こちらも感情的にならずに済む。

行政訴訟課の担当は続けて今後のスケジュールを丁寧に説明した。

「今後一か月程度で第一回口頭弁論が開かれます。ここでは相手方の「訴状」と、当方側の「答弁書」を突き合わせ、主張を整理します。その後、数か月から一年程度をかけて弁論・書面の応酬が続きます。そこからさらに半年をかけて証拠調べ、証人尋問などが行われ、最終的に提起から二~三年程度で一審の判決、という流れです」

その説明を聞きながら、隼人は心の中で冷静に整理していた。つまり、しばらくは表立った動きはない。話が一段落したところで、隼人が口を開いた。

「証人についてですが、記録を調べてみたところ、当時の担当部門の責任者、すなわち『地域再生準備室』の室長については既に定年退職をしていました。ですが、その下にいた室長補佐については現在も社会基盤計画局で審議官として勤務しているので、その者でも大丈夫でしょうか」

「大丈夫です。むしろ現職の方が協力いただきやすいですし、連絡調整も円滑なのでその方が助かります」

その返答に、隼人は内心で安堵した。

——予定通りだ。

当時実務を担っていた室長は全ての事情を知っているため、辻褄合わせのための調整も必要になるし、余計なことを話してしまう恐れもある。しかし、事情を知らずに表の仕事だけをしていた室長補佐であれば、そうした心配は一切必要ない。つまり、余計なことを語る心配がない「理想的な証人」だ。

事前に神谷課長ともこの方向で調整済みで、久我さん——当時の室長補佐で現在は社会基盤計画局の審議官——とも非公式の打合せはしている。

証言を有利に乗り切ってくれれば久我さんも審議官で定年を迎えず、局長や外局の花道ポストで定年を迎えられるだろう。元々実務力のある方ではあるが、それ以上に必要な運があと一歩及ばなかった。この場合の運とは引き上げてくれる有力者である。長谷川先生の後ろ盾があればこのくらいのことは可能だ。


***


それからしばらくしたある夜。

残業を終え、デスク周りを片付けていた時、スマートフォンが震えた。画面には「父」の名前。

「久しぶりに実家に顔を出さないか。週末、母さんと三人でゆっくりしよう」

声は穏やかで、どこか懐かしい響きがあった。

しばらく間を置いて「わかった。珍しい、何かあった?」と答える。

父は答えず、日時だけを告げ電話を切る。

僕はパソコンの電源を落とし、オフィスを後にした。

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