6-3(遥) 繋がり
新川の馴染みの居酒屋。チェーン店ではない、一店舗だけのお店。カウンターには二人客が一組、あとは奥のテーブルがぽつぽつと埋まっているのみ。遥は四人掛けの壁際の四人席で、一人座っていた。待つ時間は長く感じたが、ようやく暖簾が揺れ、引き戸がガラガラと音を立て開く。
現れたのは佐伯修平。黒いジャケットに中は白いポロシャツ。
「久しぶり」遥が声を掛ける。
修平が向かいに腰を下ろしながら「久しぶり」と返す。相変わらず落ち着いた声だった。
旧秋山町民会——法人でも行政の組織でもない、移住者同士の情報共有や支え合いの場である。かつて二千人いた町民のうち、新川に移ったのは八割。だが二十年が過ぎ、自然減が続き、会員の半数以上は高齢者となっている。当時の子ども世代も進学や就職で新川を離れ、会の集まりも年々小さくなっている。
会長・副会長・会計など幹部は十人弱。修平はそのなかの若手代表という役職に就く。
「元気そうでよかった」修平は秋山時代の同級生だ。遥が南海トラフ地震で夫が行方不明になったこと、体調を崩して実家に戻ったことも知っている。余計な慰めは言わない人間だ。
「心配かけてごめん。少しずつ戻ってきたよ」
「最近どうしてる?」
遥は短く現況を伝える。
——居住制限区域の指定が解けたら秋山に戻りたいと思っていること。
——偶然隼人と再会したこと。
——洋菓子屋を手伝いながら、秋山町でとある調査をしていること。
「隼人か。中学卒業以来、会ってないな。成人式の連絡くらいで……結局来なかったけど」
修平は苦笑したあと、表情を引き締めた。
「で、採掘場の明かりの件。続きを聞かせて」
遥は、順序を整理しながら語った。見たこと、聞いたこと、推測。
——夜間、採掘場に明かり。ダンプカーが出入り。
——父から聞いた秋山鉱山の採掘量減少の話、その話はできるのに国家機密で話せない事柄が存在、そして政治家の圧力で秋山町が移住促進区域に入ったという話。
——仮説としては、秋山鉱山には新たな埋蔵物があり、その極秘採掘のために地域再生促進法を利用して秋山町を空にしたのではないか。そしてその採掘の作業員が秋山分屯地の旧小学校棟に拠点を置いている可能性。
修平は黙って聞いていた。
「なるほど。危ない線を踏んでる気配はあるな」修平は箸を置き、声を落とす。「で、証拠は?写真、音声、文書、何でもいい。裏付けがあれば記事にできる可能性はある」
彼はもう一つの肩書でも話している。「中央日報・新川支局長」。県内向けの地方紙で、支局長と言っても支局は実質彼一人だ。
「……ない。深夜に採掘場から出てきた車両の写真はあるけど、ほとんど真っ黒だし、これが採掘場だとわかる情報もない。それに撮影方法が適切じゃないから。今は目撃と状況のつながりだけ」
「だよな」修平は即答した。「今の状態では記事にできない。書けるとしても、『当時の指定は適切だったのか』って問題提起までだ」
「例えば、旧町民会で話題にして、あくまで『噂』として広まれば、誰か情報を提供してくれる人がいるかもしれない。マスコミがそれを拾って、調べてくれたら、さらに情報が出て来るかもしれない」
「発信の場としてはアリだ。ただ、話が変な方向に動くと、火の粉をかぶるのはこっちだ」
「うん。わかっている」
修平は少し考え込み、やがて頷いた。
「よしっ。次の幹部会でそれとなく振るし、俺のほうでも情報線を当てる。採掘場の近辺、元勤務者、役場筋、全部一回なぞる」
「ありがとう。何か動きがあれば、私からも連絡する」
「鮮明な写真が一枚でもあると強い。出入口の時刻、車両の特徴。他にも作業員の通勤風景とかもな。小さなことでも集めれば状況証拠になる。ただ、無理はするな」
頷く。
勘定を済ませ、店を出る。夜風が少し涼しくなってきた。別れ際、修平が短く言った。
「同じ町に住んでることだし、これからはさ、気軽にご飯でも行けるといいな。駿も誘って」
修平の気遣いが沁みる。「うん。じゃあ、またね」
遥は家路につく。「仲間を集めて公表」するにしても、どれだけ集まってくれるだろうか。




