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螺旋の行方 ―居住地域制限法―  作者: 越智康生
第6章:故郷に光を
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6-1(遥) 20年振りの返事

分屯地の営門が見えてきた。

助手席の窓越しに、白いワンボックスバンのフロントガラスに反射する陽光がきらめく。空気の中にかすかな湿気が混じり、エンジンの熱気と入り交じって肌にまとわりつく。

ここに来るのは、もう「特別なこと」ではなくなっていた。

最初のうちは緊張もあったが、今ではほとんど習慣のようなものになっている。顔を見知った隊員も増えてきた。

表向きの「シュークリームの移動販売の手伝い」が軌道に乗る一方で、秋山町が移住促進区域に指定された理由についての調査は壁にぶち当たっている。何度足を運んでも、思うような手がかりは得られない。

それでも通い続けているのは、あの一通のメールのせいだ。先日、スマートフォンに届いた短いメッセージ。差出人は隼人。その文字列を初めて目にした瞬間、息が止まった。

——「もう、あの件は終わりにしよう。」

ただそれだけだった。説明も、理由もない。返信欄を開いては閉じ、開いては閉じた。何を書いても違う気がして、結局、何も返せなかった。メッセージ画面が頭の中で凍りついたまま、日を追うごとに胸の奥で重しのように沈んでいった。その短い文の裏に、どんな事情があったのか。彼の立場から見れば、何かを守らなければならない理由があったのかもしれない。それでも——せめて一言、「なぜ」と問いたかった。


台車を押して分屯地の中を歩く。アスファルトの上でタイヤが軋む音が、ひとり歩く足音に重なった。建物の陰から、制服姿の隊員たちの話し声がかすかに聞こえる。

——そのときだった。

「よっ!」

背後から、懐かしい声が飛んできた。反射的に振り返る。そこに立っていたのは隼人だった。一瞬、何が起こっているのか理解できなかった。彼は胸の高さに上げていた閉じた拳を一気に広げた。

「……?……」

唐突に「調査を終わりにしよう」という一言だけのメッセージを送って来たと思ったら、今度は目の前に現れた。

「……久しぶり」声を出すと、胸の奥がきゅっと締めつけられた。彼は短く頷いた。仕事の続きで、ここに来ていたらしい。

ほんの数秒のやり取り。だが、その数秒で、再び中学時代の記憶が一気に引き戻された。


お昼過ぎ。いつも通り販売が終わり、一人で人気のない校舎の裏手へ回る。

先刻、不意に呼びかけられて振り返った時の隼人の仕草。

彼は片手を胸の高さに上げ、グーの形に閉じていた指を一気に広げてパーの形にした。それは中学時代、交換日記を百葉箱に入れたことを示すポーズだった。

百葉箱の前に立ち、再び思い出の扉を開く。そこには、前回開けた時には入っていなかった古びたノートが一冊差し込まれていた。あの時のノート——ではないが、開くと懐かしい筆跡が目に飛び込んできた。

——「返事遅くなったけど、続きを書いた」

続けて、もう一行。

——「あの時は一方的に終わらせてごめん。みんなと違う進路を選ぶことで、後ろめたさがあった。でもこうして再会できて、昔と変わらずに受け入れてくれて安心した。」

ページの端には、短いメモが続いていた。

——「調査の件、父と上司が関与。採掘継続。証拠なし」

たったこれだけの走り書き。だが、その行間には、彼がどんな状況に置かれているのかがはっきりと浮かんだ。監視されている。メールも電話も自由には使えない。それでも、伝えようとしてくれた。

ノートを胸に抱いたまま、空を見上げた。雲が流れ、陽の光が一瞬、白く眩しく差し込む。その光を見つめながら、思った。

こちらには手掛かりがないが、少なくとも故郷を奪った人たちはわかった。

——どうやって故郷を取り戻すか。

それが、これからの私たちの目標だ。


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