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螺旋の行方 ―居住地域制限法―  作者: 越智康生
第4章:採掘場の秘密
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4-4(隼人) 裏の業務と通常業務

旧採掘場が「国交省の管轄」であると聞いた瞬間、胸の奥に何かが引っかかった。

防衛省の施設だと神谷課長は言っていたはずだ。だが、黒川君の言葉が事実であれば、状況はまるで違う。何かがおかしい。

その週、僕は省内で調査を始めた。表向きは「業務上の情報整理」だが、実際は個人的な探りだ。

庁舎の資料室に入り、パソコン上で旧秋山町の土地台帳や管理台帳を次々と閲覧する。データベース上には「国有地」とだけ記載があり、その一部が「民間事業会社との賃貸借契約」に基づいて貸与されていると分かった。

だが、その会社名を見た瞬間、眉をひそめた。

「東亜開発工業株式会社」。

耳慣れない名前だった。検索しても、ウェブサイトすら存在しない。

入札記録もなし。通常、国有地を貸与する際は公告が出るはずだが、それも見当たらない。

半ば違法に近い、裏の契約ではないか——。

そう思わざるを得なかった。

念のため、その会社の登記簿謄本をオンライン上で閲覧する。そこには本店所在地と役員一覧が記載されている。地図サイトでその住所の様子を見てみる。都内の古びた雑居ビル。代表者は聞いたこともない人物。

登記上の事業目的は十項目を超えていた。「不動産管理」「環境コンサルティング」「再資源化事業」「鉱物資源の採掘、精製、加工および販売」など、多岐にわたる文言が並んでいた。

まるで、金の匂いがする仕事なら何でも請け負うと言わんばかりだった。


——「鉱物資源の採掘」。


その一文を見たとき、背筋に冷たいものが走った。

表向きは放棄された鉱山。だが、もし今も稼働しているのだとすれば。誰の指示で?何のために?想像が現実に近づくほど、霧のように真実が遠のいていく気がした。


それでも、手を止めるわけにはいかない。

隼人は大学時代の同期で、今は大手メーカーの管理部門に勤める友人に連絡を取った。

「皇国データバンクと工商リサーチ、両方当たってもらえないか?」

企業信用調査会社に何か情報がないか念のために調べてもらうことにした。

「了解。ただ、そういう会社って大抵、実体がないぞ」

数日後、返ってきた報告は予想通りだった。会社の売上高も従業員数も「不明」。調査票には簡潔に一文——「実態不明」と記されていた。

隼人は深く息を吐いた。

机上の資料を手に取っても、触れるほどに輪郭がぼやけていくようだ。まるで霧の中を進むように、核心には届かない。それでも、何かが確実に動いている。それだけは肌で感じていた。


***


個人的な調査の傍ら、通常業務も滞らせるわけにはいかない。

季節は進み、外の空気は湿気と熱気に包まれていた。

この日は野党議員への説明対応が入っており、僕は国会議事堂のすぐ東側、衆議院第一議員会館へ向かっていた。

若手職員の育成も兼ね、入省二年目の職員を急遽一人同行させる。

「今から真田先生のところに行くから、勉強も兼ねてついてきてくれ」

「……日本改革党の?」

「そう。君も先生の話は聞いたことあるだろ」

「それって……『まずは自分に話を通してから』的なあれですか?」

「違う違う」と笑って答える。

僕らの間では「真田の質問」といえば有名だった。国会中継でも取り上げられるほど、切れ味が鋭く、官僚の詭弁を許さない。

野党の第一党というわけではないが、若者を中心に国民からの支持率は高い。党のフロントマンとして広報本部長を勤める真田先生の影響が大きい。五十代半ば、飾り気のないスーツを着こなし、現場肌の政治家として知られている。


陽射しは既に強く、議員会館までの徒歩十五分がじっとりとした汗を誘った。それでも、僕の足取りは軽かった。政治家への説明は正直気が進まないが、真田先生だけは別だった。議員に直接説明するのではなく政策秘書に対して説明することも多い。また、パフォーマンスのためだけに国会質問を用意している議員も多い。だが、彼には「本当にこの国を良くしたい」という信念が感じられた。


受付で身分証を提示し、入館証を受け取る。廊下の奥に続くカーペットの上を歩くたび、議員会館独特の、密やかな緊張感が足元から伝わってくる。


「秋津さん、お久しぶりです」

応接室に入ると、真田本人が立ち上がり、穏やかな笑みを見せた。横にはいつもの公設第一秘書が控えている。何か打合せをしていたようだ。

「今日はお忙しいところありがとうございます。例の秋山町の再都市化計画についてご説明をお願いします」

「はい。現時点での進捗と、今後のスケジュール、それから課題についてご説明に伺いました」

隼人は資料を机に並べ、緊張を隠しながら説明を始めた。

全体で二〜三年の調査期間、さらに二〜三年の工事期間を経て、早くても五年後に居住再開が見込まれる、という概要を述べ終えた。

真田は手元の資料に目を通しながら、静かに口を開いた。

「スケジュール感としては理解できます。ただ、南海トラフ地震の復興が停滞している今、他の居住制限区域も再都市化を急がねばならない。少しでも短縮できる余地はありませんか?」

「おっしゃるとおりです。ただ、安全性の確保を優先する以上、現行の工程がぎりぎりの現実的ラインかと……」

「いや、秋津さん。私は単に『急げ』と言いたいわけではありません。たとえば、町をいくつかの区画に分け、整備が整った区画から段階的に開放する。そうすれば、全体を待たずに一部の住民が戻れる」

隼人は思わず姿勢を正した。実は同様の案を課内でも一度議論したことがある。だが、安全基準の統一や責任分担の曖昧さから棚上げされていた。

「検討に値するご意見です。省内でも改めて議論させていただきます」

「ええ。今後の国会の場でも、この件は取り上げるつもりです。秋津さんのご報告をもとに動きますから、期待していますよ」

真田の声は穏やかだったが、眼光は鋭い。その視線に射抜かれた瞬間、背筋が伸びる。表面上は柔らかく、それでいて圧倒的な重圧を伴っていた。明を終え、議員会館を出る頃には、外の空気がやけに重たく感じた。だが、真田先生の期待に応えられるように前を向いて新たな一歩を踏み出した。

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