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螺旋の行方 ―居住地域制限法―  作者: 越智康生
第3章 故郷の再都市化に向けて
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12/17

3-7 約束

出張四日目の朝。

夜明けとともに、分屯地の上空は白い光に包まれていた。

僕は一足先に外来駐車場に来て、物をトランクに積み込む。そして、昨日までの調査で車体に付いた砂埃の汚れを拭き落とす。僕は運転席に乗り込み、神谷課長を待った。

校庭では既に朝の訓練が始まっている。

やがて課長が姿を現した。スーツの上着を肩に掛け、キャリーケースを片手で引いている。

「行こうか」

いつもの落ち着いた声だった。だが、その表情には、どこか「終わり」に向かうような静けさがあった。僕はエンジンをかけ、営門に向かう。警衛に二人分の腕章とネックストラップを返却し、分屯地を後にする。

バックミラー越しに見えた警衛が校門を閉めていた。

昨日まで走り回っていた道路も、今ではどこか懐かしく見える。ほんの三日程度だったが、ここを去るのが既に名残惜しい気持ちになっている。

車内では、特に会話はなかった。カーナビにルートは入力していないが、交通情報が自動で流れる。時折、課長がスマートフォンを確認しては何か入力している。

やがて、車は新川駅前に到着する。車が主な交通の足だが、駅のロータリーには通勤時間を控えた人の姿がぽつぽつと現れ始めていた。

駅前でレンタカーを返却し、課長と二人で改札へ向かう。スーツケースのキャスターが、床のタイルを擦る乾いた音を立てていた。

改札口の前には売店と待合スペースがある。待合スペースで電車の時間まで一息つこうとしたとき、背後から名前を呼ばれた。


「隼人!」


振り向くと遥が立っていた。

早朝の光に照らされ、彼女の髪が柔らかく光っていた。約束していた帰りの電車に合わせ、わざわざ見送りに来てくれたのだろう。

そのことに思わず口元が緩んだ。

「ちょっと外してもいいですか」

僕が課長に小声で言うと、課長は無言で頷いた。そして腕時計を確認し、キャリーケースを近くの椅子のそばに置いて売店に入って行った。

僕と遥は待合のベンチから少し離れたところへ移動した。

遥が先に口を開いた。

「仕事はうまくいった?」

その声は優しいながら、少し心配そうでもあった。

「順調に進んだよ。これからまた東京に戻って正式な調査の準備をする。また時々来ることになると思う」

「うちらの小中学校はどうだった?」

「懐かしいけど、思い出に別の色が塗られたような感じだ。ただ……分屯地があったおかげで廃墟にならずに済んだのは、良かったのかもしれない」

「私も中に入りたかったな」

「俺はまあ『特権階級』だから」

「はいはい」

軽口を交わすと、彼女は小さく笑った。その笑顔は、昔と変わらない。

遥は少し目を伏せ、低い声で言った。

「……あの採掘場の明かり、気になってるんだ。時間があるときに、自分でも確かめてみようと思ってる」

採掘場の跡地に見えた微かな明かりが頭に蘇る。

「本当かどうかは分からないけど、自衛隊の研究施設だって話も聞いた。あまりおおごとにならないように気をつけて」

そう言いながら、自分でもその説明に確信がないことを感じていた。彼女は短く頷いた。その瞳には、まっすぐな光が宿っていた。

あの日——中学生の頃、交換日記を差し出してきた時と同じ目だった。

その瞬間、構内アナウンスが乗る予定の電車が間もなく到着する旨を知らせる。別れの時間が近づいている。

「そろそろ行くよ」

「うん」

彼女は小さく息を吸い込み、言葉を探すように口を開いた。

「また来てね。秋山のこと、よろしくね」

「……ああ、必ず」


課長と共に改札を入る。そのままホームが目の前にあるが、電車が入って来る。

電車に乗り込む前に、改札の方を振り返る。遥はまだその場に立っていた。僕は片手を上げて別れを告げた。

行きの電車とは異なり、電車の側面と平行したシートには二人が並んで座れる空きはなかったため、僕と課長は別々に離れて座った。

僕はポケットからスマートフォンを取り出し、母へメールを打った。秋山町の様子、遥や彼女の両親との再会のことを簡単に報告する。

文字を打ちながら、ふと考えた。

あの明かりを見たのは偶然か、それとも——何かが始まる兆しなのか。

向かいの席の窓に映る自分の顔を見つめた。

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