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第7話 挫折と成長




 「……っし。案外やればできるもんだな」


 研究室からの帰り道、俺は自分の右手のひらをじっと見つめていた。


 じりじりと焼けるような痛みが残っているが、それは不思議と不快じゃない。むしろ、自分が一歩「先」へ進んだ証拠のように思えて、口元が緩むのを抑えられなかった。


 今日の訓練は、正直死ぬかと思った。


 樟田にアニマを送ってもらい、アニマの認知をした。しかしその後アニマで色々遊んでいたら右手を怪我してしまった。


 (……少し、あいつのことを見直しちまったかもな)


 脳の隅で、何かがパチリと爆ぜるような違和感があった。


 でもそれはすぐに訓練の疲れだという納得に塗りつぶされる。


 廊下の曲がり角、自分の耳が昨日よりもずっと遠くにいる誰かの心臓の音を拾っていることさえ、今は誇らしかった。



────301号室────



 「ただいま……。悪い、ちょっと遅くなった」


 部屋のドアを開けると、そこにはいつも通りの光景ではなかった。


 部屋に置いてあったダンベルで筋トレをしている雷門、無機質な視線でテレビを見ている橘。そして―――


 「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 一心不乱にベットの上で大暴れしている赤羽。


 「なぁ……何事?」


 「どうやら、ボコボコされたみたいだぞ」


 そんなことで?意外と子供らしいところがあるんだと思っていたら他にも事情があったみたいだ。


 「ここ最近までは赤羽が一番だったのに、ずっとどべだった神崎がいきなりトップに躍り出たから……相当悔しいだろうな」


 神崎、その名前が出てきた瞬間、赤羽がギロリトこちらを睨んでいた。


 「こりゃ相当だな……」


 俺なんかの言葉じゃ無理だろうが、それでも無視することはできなかったので近くの椅子に座って赤羽に話しかける。少し涙目になっていて悔しさがひしひしと伝わる。


 「神崎、強かったか?」


 「……」


 無視されたが、続ける。これは赤羽にとって必要な挫折だ。それを俺たちが支えていけばいい。心折れたまんまの赤羽なんて見たくないし。


 「いいじゃん、負けたって」


 「……は」


 何言ってんだこいつ、とでも言いたいんだろうな。


 「別に今負けたって死なない……違うか?」


 「負けていいなんて簡単に言わないで!こっちがどれだけ頑張ってるか―――」


 「わかるよ」


 はっきりと言葉にして伝える。


 「お前はすげぇ頑張ってる……でも負けた。神崎も相当頑張ってお前に勝ったんだろうな」


 「……何が言いたいわけ?」


 「汚い手段かもしれないけど、今度は皆で戦おう」


 「はぁ~?」


 呆れたようにこちらを見てくる。


 「訓練は一対一なの!できるわけない!」


 「あ~皆で戦うってのはそうじゃねぇ……お互いに支え合うってこと」


 「俺たちが協力して赤羽のサポートをする、だからお前は勝ってこい」


 「……意味わかんないんだけど、そんなのあんた達のメリットがない」


 「そう思ってくれるなら、俺たちが困ったとき助けてくれ」


 「……それが、支え合うってこと?」


 「そうだ、協力してくれ」


 「…………」


 しばらく考えた後、吹っ切れたようだ。


 「なんか怒ってたことが馬鹿馬鹿しくなった……さっさとご飯作って、お腹すいた」

 

 「はいはい、とりあえず飯作るわ」


 そうしてキッチンに向かっていくと、橘が近づいてきた。てくてくという効果音が聞こえる気がする。



 「……今日、何?」


 どうやら俺は橘の胃袋を掴んだらしい、この調子なら俺はいい婿になれるな!……相手さえいれば。

いや婿以前にここから出ないとか……。


 「そうだな……蕎麦とか?」


 「ちょっと待ちなさい!あんた蕎麦とか作れたの?!」


 晩飯の話をしていたら、赤羽が入ってきた。


 「あ、あぁ……一応作れるぞ」


 「なら蕎麦にしましょ!決定!」


 目を輝かせながら蕎麦を勧めてくる。す、すごい熱量だな……。さっきの怒りはどこへやら。


 そうして赤羽のリクエストもあり、蕎麦を作り始める。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 晩飯を終え、就寝時間となる。3人とも横になったが俺だけはベットで座禅組んでいる。


 今日教えてもらったアニマ。研究室では深く入れなかった。しかし今ならできると思い目を閉じ、身体を流れているアニマを知覚する。


 研究室では『アニマ弾』を新しく習得した。アニマ弾のイメージを思い出す。


 身体を流れているアニマを手のひらから少し出す。それからひとつひとつが収束するイメージで出来上がる。


 身体からアニマを出すこの工程、他に使えないだろうか。


 もしアニマを自分の周りに纏わせていたら、何か来てもアニマが先に当たり、後ろからの攻撃も気づけるではないだろうか。


 ただそれだとアニマの消耗が激しい、何かアイディアは……。


 そんなことを考えていると、『ポチャンッ』と音が聞こえた。見てみると蛇口から水がポタポタと落ちていた。



─────これだ





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 


────研究室────


 「……新しいアニマ技術、『雫』。確かに面白いね」


 いつも通り研究室に来た俺は、昨夜思いついたアニマ技術『雫』を樟田に説明していた。


 『雫』、アニマを一滴の水のように落とし地面に着いた時に薄く広がっていき、周りに何があるか見なくてもう把握できる俺が開発したアニマ技術。


 「だろ!これなら後ろの敵だって怖くねぇ!」


 「ただ……」と樟田が語る。


 「君の耳ならいらないんじゃないか?」


 ……盲点だった。確かに俺の耳なら雫がなくたって相手の心音で場所はわかるし、銃を使われようが銃を構える時に鳴るであろう金属の音でわかるだろう。


 くっそ!いい案だと思ったのにっ……。


 自分の計画の穴に落胆していると、樟田が続けて言う。


 「まぁ耳が使えなくなった時に使えるだろうし、落ち込まずにいこう」


 俺に気を使ってくれたのだろう、初めて会った時ならそう思っただろうが今は騙されない。


 「…そうやって好感度上げようとしても無駄だ」


 「あれ、バレたか」


 ハハッ、っと笑って机に置いてあった紙に目を向ける。


 「昨日君がアニマ弾を開発してくれたおかげで、色々案が浮かんだんだ。一応目を通してくれ」


 そう言われ、渡された紙に目を通す。そこには様々なアニマ技術が書いてあった。そこで気になる物を見つけた。


 「なぁ、この『形の具現化』ってなんだ?」


 「あぁそれ?もしアニマで剣とか盾とか作れたら便利かと。まぁそこまで出来たら能力者泣かせだけどね」



 …………形の具現化、か。




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