第6話 訓練
202X年 X月 X日
検体名:一之瀬 大和(能力:██)
本日、彼に「██████」を摂取させた。
本人は「ただの生肉」だと思い込んで完食したが、胃壁から吸収された『██』は、確実に彼を1歩化け物へと進めただろう。
面白いことに、彼はまだ自分が『███』自覚がない。
元々食べることで████する力は██の専売特許であり、彼の能力である██にとっては食べる行為は間接的に███はいるが、██の本来の使い方ではないため、それ以上は踏み込めないのだろう。
今回摂取させた〘 ████ 〙が新たな『█』として根付こうとしている。
現在彼が「███████」のは、まだ██が、彼自身が使えないと判断したか、はたまた本来の使い方とは違うから異常が起きたか。
もっとだ。もっと彼を削らなければならない。
過度なストレスは、アニマの量を高めるはずだ。
彼の中にいる██が、真の意味で目覚めるその時まで。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
雷門のいびきに悩みながらも、無事眠ることができた俺は、ここに来て初めてアラームで起きた。
しかし雷門へのお咎めがない訳では無い。いくらわざとじゃないからと言って許されると思っていたら間違いだ。半分くらい八つ当たりだが、雷門ならいいだろう。
「…雷門。お前、マジで、一回、死んでこい!」
這い出るような声で呪詛を吐き、俺は枕を掴むと、全力で隣のベッドへ投げつけた。
ドォォォォォンッ!!
枕とは思えない轟音と共に、雷門の顔面に直撃。
「ぶへっ!? ……ふぇ? な、なに、敵襲!?」
飛び起きた雷門に、俺は人生で一番冷ややかな視線を、笑顔を付けて向けた。
「おはよう雷門、昨日はよく寝れたか?」
「いやーグラタンで腹いっぱいになったからなってちょっと落ち着け今すぐに2発目を放とうとしている枕を下ろせ!え待ってさっきの音この枕か!?枕から出る音かブフォォォォォ!?」
少し離れたところから枕が飛んできて、雷門にぶち当たった。軌道を辿ってみると赤羽が投げたとわかった。
「朝っぱらからうっさいでかぶつ!」
「理不尽ッッ!!!!」
…………騒がせたのは俺だが、まぁいいだろう。雷門だしな。
しかし流石に申し訳ないと思い、朝食を少し多めに作った。寝ている最中に枕を投げられてそんな気にしてない雷門はすごい、素直にそう思った。
そこからは昨日と同じように 樟田に呼ばれ、1人で研究室へ向かう廊下。
「……やっぱり、音が聞こえすぎる」
昨日は気にならなかったが別室を通り過ぎる際には、壁越しでも誰かの咀嚼音と心臓の音、話し声が耳にこびりつくように伝わる。昨日よりも鮮明に聞こえる。
樟田が俺の中に入れた異常が、成長しているのだろうか……。
「樟田……待ってろよ」
─────研究室─────
樟田が待つ、あの窓のない、静まり返った部屋だ。
「おはよう、一之瀬くん。……昨夜はよく眠れたようで、安心したよ」
「まぁ、はい。んで、今日の内容は?」
1秒でも速くこの男から離れたいため、要件を聞いた。
「その前に、昨日と比べてなにか変化はあったかい?」
聞かれたため、昨日のことを振り返る。
「周りの音が馬鹿みたいに聞こえるのと、血を見た時に俺を支配した何か、最後に――――」
あんたのせいだという意味を込めて睨んだ。
「あんたへの殺意ができたこと、以上だ」
「……そうか、順調でなにより」
大変可笑しそうにしている樟田。頭のネジがいくつか飛んでいるのか。
「今日の内容は、『アニマの扱い方』についてだ」
……アニマ。能力を使う時に使う、MPみたいなものの名前だ。
「普通の能力者は、能力を使うためにアニマ使ったりする。まぁテレビによく写っているすごい人たちは、自分の身体強化だったり五感の発達だったりと色々ある」
「そこで今回は君にもアニマを武器にしてもらう。今のところ君の能力は刃物以下、せめてアニマは1級品以上にしてもらう」
「……んな事出来る訳ないだろ」
そう口にしたが、樟田が否定する。
「君ならできるよ、君の能力はそういうの得意じゃないとおかしいし」
「……俺の能力、まじでなんなんだよ」
「言っているだろう、いずれわかると。さて、その椅子に座ってくれ。安心してくれ、もう眠らしたりしないさ」
そう言われ腹は立つが、現状こいつに頼る以外で強くなれる道はないため大人しく座る。
すると俺の背後に樟田が立ち、背中に手を当ててくる。
「僕も自分のアニマをかなり研究したけど、せいぜい誰かにを送ることぐらいしかできない。これはもう才能次第というわけさ」
すると突然、背中から生暖かいものが流れてくる感覚が来た。
「わかるかい、これが『アニマ』、力の源さ。一応君にも流れて─────」
─────樟田視点─────
今日の彼は殺気立っている。まぁされた事がされた事だし、文句は言えないけど。
今日は彼にアニマを知覚してもらう、増やそうにもアニマを知覚できないなら話にならない。そう考えて、僕のアニマを彼に流し込んでいた――その時だ。
「……かはっ!!」
衝撃。
気づけば、僕の腹部に彼の拳がめり込んでいた。
「……これが、アニマ…、ハハッ!!すげぇ!身体がめちゃくちゃ軽い!なんでもできそうだ!!」
信じられない……、アニマを送っていた時間なんてほんの数秒だ。それを即座に自分の力として変換し、使いこなしている。これが彼の能力の一端か……。ハハッ、笑えてくる。完全な規格外だ。
しかしこのままではまずい。アニマを知覚してはいるが、自分のアニマの底を理解していない。元に何もしていないのに馬鹿みたいにアニマを垂れ流している。このままだとアニマを使いすぎて、彼自身が持たない。
「あんたをここで殺せば、デスゲームはなくなるよな?」
君ならそう考えるよな……!これは使いたくなかったんだがっ……!
「あばよ、せいぜいあの世で隠居生活でもしとくんだな」
そうして僕の顔に拳が飛んできて──────
『───眠りなさい』
その一言が響いた瞬間、抵抗する間もなく彼は意識を手放し、崩れ落ちた。
「……やはり、一之瀬くんと神崎さんを除けば、彼女の能力がトップレベルだね」
僕が使ったのは、赤羽優の声だ。正確に言うと、赤羽優の『強制』だ。昨日の訓練で言葉を録音し、その録音を流すだけで彼女の能力が使えることがわかった。ただし1回しか使えないため奥の手として持っていたのだが。
「……僕の〘 鑑定 〙はこういうの予測出来ないから困るよ。いや〜すごいねほんと」
僕の鑑定は動かない情報しか写さない、実際つい先程の彼の成長は写ってはいなかった。
「所長!すごい音でしたが……」
「ちょうど良かった、君の能力でこの子の記憶違和感がないように変えといてくれない?」
彼の能力は〘 記憶の管理人 〙、条件はあれど便利な能力だ。
ふと、寝ている彼が目に入った。
彼が放った一発目と二発目、似ているようで違うことに気づいた。
一発目はアニマで身体強化してから殴り、二発目では拳の中にアニマで作った弾丸、いわば『アニマ弾』を作っていた。後ろに避けたとしても必ず殺すためだろう。証拠として彼の手のひらが少し焼けている。
……全く、そんなアニマの使い方は見たことがない。ますます彼に期待してしまう。
……半年後に生き残っているのは神崎、というのがこの研究に携わっている人達全員の理想だ。
僕がここの所長なのに、政府のせいで誰もが神崎叶の救済を求めている。
しかし、それは《《僕の理想ではない》》。
「叶うなら、君が生き残ってほしいね。君なら、全てを─────」
そう呟き、彼の頭をそっと撫でた。




