第29話 新しい仲間
仲間と決別した夜が明け、朝となり人を探していた。全力で耳を澄ませると、人が発している聞こえてきた。
音に近づくにつれ、聞こえていたのが口論だとわかった。それと同時に人影が見えてきて、さらに近づき『隠密』を使って覗き見する。そこには3人の男女を大勢で囲んでいた。
「お前ら……大勢で3人相手して恥ずかしくないのかよ!」
三人のうち二人の女性を守るために前に立っている男が悔しそうに叫んだ。
「知らないわよ、この監獄に来てストレスたまってるの。それに3人で行動しているお前らが悪いんじゃない?」
大勢の中から出てきた女がにやにやしながら言った。言葉通りの意味ならこの三人はひどい目にあうのだろう。それなのに俺の心は目の前のあいつらを殺すか殺さないかを考えていた。
(できるなら……殺したくはねぇな)
人を殺したくない、それは人として当然の考えが今の俺を苦しめるものになっている。しかし花音が教えてくれたシナリオ通りなら俺は必ず人を殺す。骸の上でしか俺は生きていけない。
(いずれは全員殺さないといけない……わかっている)
昨日は花音を殺して少し異常な思考をしていたからできたことであって今の俺はいたって正常だ。正常な人間は殺したいなんて思わない。頭の中では殺すビジョンが作れているのに動くことが出来なかった。
悔しさでズボンを握ると、クシャっと音が鳴った。花音があの日渡してくれたメモを思い出す。右ポケットから取り出したメモには俺のこと、花音のこと、監獄のことが書かれていた。
「………行こう」
目的を、見失ってはいけない。花音が遺してくれたメモが、俺に勇気をくれ、覚悟を思い出させてくれた。
一歩、前へ出る。また一歩、さらに一歩と足を進める。気が付けば三人と先ほどからにやにやしている女の間に入っていた。
「あら……四人目がいたのね。まあやることは変わらないんだけど♡」
獲物が増えたと大変喜んでいる様子だった。隣を見ると俺と同い年くらいの少年がいきなり懇願してきた。
「お前が誰かは知らないけど頼む!この二人を逃がしてくれ!俺なら後から追いつける!」
「何言ってるの!?」
「だめです!置いていくなんて出来ません!」
後ろで守られていた少女達が驚いていた。そりゃ当然だ。この人数を一人で相手になんて普通はできない。そんなことが出来ていたらとっくにしていただろうに。嘘をつくのが下手すぎる。
「良いから行け!三人同時にやられるよりましだ!」
おぉ!なかなか主人公気質な少年だ。剣を構え、本気で立ち向かおうとしていた。かっこいいから見ていたかったが、これ以上長引かせると俺の覚悟が無駄になってしまうので早めに済ませる。
「―――――流星群・乱」
手を女の方へ向け、放つ。放たれたそれは俺の掌から、100を超える漆黒の光弾が爆発的に掃射された。
それは、夜空を切り裂く流星の群れなどという、美しいものではない。全てを虚無へと帰す、漆黒の死の雨だ。
光弾は、大勢の人間が展開していた防御障壁やアニマの盾を、紙切れのように容易く貫通した。肉体を穿ち、骨を砕き、生命を刈り取る。
凄まじい轟音と、衝撃波。俺の背後にいた少年たちが、あまりの風圧に顔を覆って蹲る。
ほんの数秒。
光弾が止んだ後、そこには、にやにやしていた女性も、彼らを囲んでいた大勢の人間も、誰一人として立っていなかった。
土煙が晴れた地面には、無数の小さなクレーターが刻まれ、まるで月面のような、無残な光景が広がっている。
―――『障壁』を殺しました。『レベルアップ』を殺しました。『挑発』を殺しました。『付与』を殺しました。『監視の目』を殺しました―――
頭の中で殺した人の能力が流れてくる。
つい先ほどまで殺すことに抵抗があったはずなのに、殺した実感がないことに気づく。俺も化け物になりつつある証拠だった。
「あの……」
奪った能力を整理していると守られていた女性の一人が笑顔でこちらに話しかけてきた。
「助けてくれてありがとうございます……あなたのおかげで助かりました。私は東雲千紗と言います。こっちの子は水谷栄華、そして自己犠牲をしようとしたこのおバカさんが御門謙真です」
「ち、千紗さん?」
笑顔で自分たちの紹介をしてくれた東雲さんが俺から視線を変えずに御門を詰めた。
「御門君……何か言った?」
「いえ何も言っておりません」
雷門と赤羽の時も思ったが、いつだって男は女性には勝てん。
「ち、千紗!この人ほったらかしだよ!」
呆然と眺めていると水谷さんが慌ててフォローを入れてくれた。正直どうしたらいいのか分からず固まっていたから助かる。
「あっすみません!」
「いや全然お気になさらず」
律儀に頭を下げ謝ってくれた。
(……似てんなぁ)
思い出してはいけないのに、どうしてもこの三人を見ていると思い出してしまう。少し危なっかしいところがあの三人と似ていた。
「まぁとりあえず、俺はこれで」
「待ってくれ!提案がある!」
彼らを殺す気にはなれず背を向け立ち去ろうとしたが、主人公くんが後ろから呼び止めてきた。
「見た感じ一人だよな?いくらお前が強くても限界があると思うんだ。だから……俺達と手を組まないか?」
「無理だ」
「そうか!ありが――――なんて?」
絶対に了承を得ると確信していたのか驚かれた。いやどう考えても無理だ。情が移ったら殺せる自信がない。花音のときが特別すぎたのだ。
「悪いけど一人の方が捗るんだ。……またどこかで困ってたら『ちるげちょり~の』と叫んでくれ、俺は耳がいいから聞こえると思う。それじゃあ……」
今度こそ立ち去ろうと『滑走』を使――――
「頼む!今君に見放されたら俺達死んじゃうんだ!絶対に逃がさん!仲間になってくれ!」
叫び声とともに、主人公君は湿った土の上をヘッドスライディングで滑り込んだ。ズボンの膝が泥にまみれるのも構わず、逃げようとする俺の両脚に、まるで獲物を仕留めるワニのようにガッシリと抱きつく。
「離せ!主人公君には申し訳ないけど俺にはやるべき事があるんだ!ていうか力強いな!?」
「誰だよ主人公君って!俺は御門君だ!」
俺と主人公君の格闘の末、大人しく仲間に加わるのであった。




