第28.5話 お願いの内容
「ねぇいっちー」
いきなり天野は真剣な顔を浮かべ、言葉にするのも辛そうな思いを隠しきれていなかった。
「お願い、あるんだけどさ――――私を殺してほしい」
「は?」
意味が分からない、なぜ天野は死のうとしている?そしてなぜ俺に頼むんだ?訳が分からず混乱していると、表情を変えずに説明してくれた。
「話さなきゃいけないことが色々あるからさ、詳しいことは省いて言うんだけど……私、樟田さんが送り込んだスパイなんだ。だからいっちーに必要なことだけ話す」
「いやいや……なんの冗談だよ。そんなわけ……」
ない、とは言い切れなかった。ここでは何が起こるか分からない。そう……どれだけ信じがたくても花音がスパイじゃないと言える根拠などどこにもなかった。
「信じてもらえないかもだけど、私はいっちーの能力も知っているし、これから何が起こるかもわかってる」
「……教えて、くれないか。何が起こるんだ」
知らなければいけない、そんな気がした。
「うん、いっちーの能力は───教えない」
「………………うぇ?」
真剣なことを言っているのかもしれないが、教えてくれると思ってたから意表を突かれかなり情けない声が出てしまった。は、恥ずかしい!
「あっははは!『うぇ?』だって!あーおっかし!」
「う、うるさいやい!本題に入ってくれ!」
年下におちょくられ顔が火照る俺をだしに腹を抱えるぐらい大笑いされた。いつか仕返ししてやる……!
「ごめんって!でもあんまり嘘は言ってないの。口で言うよりこのメモを見てほしい」
ポケットから取り出されたメモを受け取り、確認してみる。メモには俺の能力、楠田が描いた俺のシナリオなどが書いてあった。
――――――メモ――――――
一之瀬大和の能力:『骸の王』
内容:生き物を殺すことで血や肉、記憶までも自分のものにすることが出来る。また能力者を殺すと能力とアニマを奪える。なおこの能力には意思があり、『アーマト』と名付けられていた。
目的:一之瀬大和にこの監獄のすべてを殺ろさせる。でないと1500人はいずれ殺処分になる。
――――――――――――――
「……おぇ」
胃の底からせり上がる不快感に、思わず口元を押さえ 膝をつき、メモを見つめる。いきなりのことでうまく状況が呑み込めない。俺が1500人を殺す?つまり、つまりだ。ここにいる琴佳も、赤羽も、雷門も、天野も殺すという事。
「これは夢じゃないよ」
つらく苦しい事実を天野は俺を見下ろして告げる。
「ちゃんと知って、理解して、苦しんで、悩んでほしい。その上で―――琴佳ちゃんを殺してほしい」
「殺すな……とは言わないんだな」
「んー」
掠れた声で問いかける俺に、花音はどこか遠くを見るような目で、けれどあっけらかんと答えた。
「嫌だけど……どうしようもないじゃん。どうせいっちーが殺さなくても殺されんだよ?ならいっちーに殺してほしいよ」
頭の中で俺がするべきことを照らし合わせていく。
(今はまだ……言う事を聞くべきか)
どうしようもない現実に腹が立つ。が、冷静になってくる。こぶしを固め、決意を伝える。
「……わかった、俺がやる」
こうして天野を殺し、仲間を裏切ることを決意した。




