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第18話 最後の釣り

   



――――橘琴佳視点――――




 そうして解散した私達は、昨日と同じようにそれぞれの役割を全うしていた。いっちーは釣りを初めて2日しか経っていないと言っていたが、なかなかハイペースで釣れている。


 「私、釣りしたことないからよくわからいけど……すごい釣れるね。将来は釣りの仕事とかしてみたら?」


 「そうだな……進路先は漁師でもやろうかな」


 いつの間にか2時間でバケツ2つ分くらいの魚が釣れていた。ここまで取っていいのだろうか……


 「そうなったら……お寿司でも作ってもらうかな」


 「いいなそれ、3人の好きなネタ作るか」


 「…………」


 3人、その言葉で寂しさが胸に伝わる。いっちーの中で花音は皆の輪に入っていないのかな……そんなことを思ってしまう。


 「琴佳?どうした急に黙り込んで……こんだけあるから好きなだけ好きなだけ食べていいんだからな?」


 「……別にお腹すいてないよ、でもちょっと食べる」


 「何匹?」


 「とりあえず10匹」


 「お腹すいてないとは???」


 いっちーが焼いてくれた魚を食べる。パチパチとはぜる火にかざされた魚から、脂の焼ける芳ばしい匂いが立ち上る。かぶりついた。熱い。だが、止まらない。焦げた皮を突き破ると、中から溢れ出したのは白く輝く身と、濃厚な命の汁だった。


 (……おいしい)


 「………おかわり」


 「まだ5分も経ってないよな?どこいった?」


 もう10匹貰った私がむしゃむしゃと食べていると、いっちーが何故か盛り上がっている。


 「うおーーーー!!!これっ!絶対でかい!大物!マグロ釣ってる気分!釣ったことないけど!」


 マグロ、その食材の名前は誰もが知っているだろう。食欲を限界まで上げる赤身、……それは、まさに海を駆ける赤い宝石。


 今この瞬間……マグロの全てを思い出す。


 舌に乗せた瞬間に、体温でじわりとほどけていく。濃厚な旨味が凝縮された赤身は、噛むほどに海の滋養が溢れ出し、喉を通り過ぎるその一瞬まで「肉」としての主張を忘れない。


 さらに、桃色のグラデーションが美しい中トロ。

 赤身のコクと脂の甘みが絶妙な黄金比で混ざり合い、噛む必要すらない。歯を立てる前に、幸福感だけを残して消えていく。


 そして極めつけは大トロッ!


 もはや「魚」という概念を超越した、脂の暴力。真っ白なサシが入ったその身を口に運べば、猛烈な甘みが爆発し、脳を麻痺させるほどの快楽が突き抜ける。


 (……マグロ。醤油を少し垂らして、炊き立ての白米にバウンドさせて……)


 白米などここにはないが、そんなことは些細なこと。マグロが食べられるだけ万々歳だ。


 「いっちー、それ絶対逃さないで」


 「わかってるって!うおぉぉ、重てぇ!腕がもげるぅ!」


 (食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい)


 無口の少女は、いつもとは打って変わって表情が豊かだった。ヨダレを垂らし、マグロという存在のせいで視界が狭まり見えてないはずのマグロの動きを捉える。


 (……あれ?……なんか視えてきた)


 不思議なことに目を凝らすと、形までは分からないが確かにそこには大きな魚がいることが《《アニマが放っている光》》によって分かる。


 「いっちー!泳がせて!」


 「え!?川に返せってことか?」


 「違う!餌を食わせさせたまま泳がせて!今どんどん体力が減っているから!」


 「っ!琴佳……お前……」


 感心したようにこちらを見ていた。何故か分からないが、そんなことまでわかるようになってきた。


 「ぐおぉぉぉっ!!!やばい!持ってかれる!」


 魚の力が強く、ずるずるといっちーが川に引き寄せられていく。このままだと大物を逃がしてしまう。


 (せめていっちーにアニマがあれば……っ!)


 ――――もし、私のアニマを共有できれば


 「……えいっ!」


 「んっ!?」


 その考えにたどり着いた私は、いっちーに後ろから抱き着いた。初めてのことでどうしたらいいかわからないので、一番お互いが重なり合っている状況にする。


 (イメージ……イメージ)


 以前彼が教えてくれた方法を思い出す。細胞と細胞の隙間から出るイメージ、しかし自分の体内でアニマを移動させることはできても、体外に出すことはできない。じゃあもし、《《自分の体と彼の体を同じ一つの生命体》》と考えたら―――――


 じっくりと、彼女のアニマが彼に流れていく。いっちーの背中を通して、自分と彼の境界線が溶けていくような感覚。


 「……いっちーっ!……がんばってっ!」


 「……これならっ!おりゃぁぁぁ!!」


 その時、海面が爆発した。


 ザシュッ、と水を切り裂いて躍り出たのは、夕日に照らされてプラチナのように輝く巨大な魚体。丸々と肥えた胴体、鋭利な鰭、そして力強く尾を振るその姿は、海そのものが意思を持ったかのような迫力に満ちていた。


 「…………まじでマグロじゃん……どうなってんだよこの川」


 「確かに不自然だけど……皆が能力使えるようになった時点で、あんま思い詰めることないんじゃない?」


 あと数年もしたら空飛ぶマグロも出てくるかもしれない。どんな味なのだろうか……もしここから出られたら食べてみたいな。


 「よっし!ちゃちゃっと捌くわ」


 どこから出しからわからないまな板と包丁を準備し、料理を始めた。私は素人だからよくわからないが、先ほど釣られたマグロが手際よく捌かれる。


 「……上手だね、やったことあるの?」


 「…………あぁ」


 突如、彼の表情が曇った。


 「……あ、そういえば」


 自分の表情に気づいたのか、話題を変えた。


 「琴佳、そろそろ夕飯にするから赤羽達呼んできてくれ」


 「わかった」


 そういってこの場を後にする。


 



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