第11話 仲間入り
翌日、俺たち5人では食事を始めた。
昨日と変わらず、目の前には新鮮なサンドイッチがあった。どうやら橘の能力が進化したようだ。『時間』を保存する解釈を広げたことで、出来立ての状態を維持できるようになった
「昨日貰った時とは違うサンドイッチだ!おいしそう!」
「うん、いっちーはすごいよ」
サンドイッチを見て二人は興奮している様子だ。
ん?いっちー?
「橘、いっちーって俺のことか?」
橘がこくりと首を曲げる。
「……嫌だった?」
もちろんそんなことないため、首をぶんぶんと振る。
「いやいやまさか、仲良くなった感じして嫌いじゃないぞ」
「ほんと?よかった、じゃあいっちーは私のこと琴佳って呼んでいいよ」
流石に恥ずかしいため言うつもりはない。
「わかった、これからもよろしくな」
誤魔化そうとしたら、むっとした顔を向けられる。
「あの~、多分琴佳って呼んでほしいんだと思いますよ?」
無口の橘の代わりに天野が伝えてくれた。
「言わなきゃダメ?」
「ダメ」
「おっふ」
これは逃げれる雰囲気ではない。
「よろしくな……琴佳」
「……!うん、よろしくねいっちー」
少し驚いて、またいつも通りの真顔になる。しかしどこか満足気に見えた。
「そこの2人〜イチャイチャするんじゃねぇ。泣くぞ」
俺達の様子を静かに見ていた雷門が野次を飛ばしてくる。
「何嫉妬してんのよ、何なら私が武君って呼んで──────」
「怖いからやめてくれ」
言い切る前に拒否するとは、それぐらい日々の訓練でなにかあったのだろう。少し前に何があったか聞いても「思い出したくない」の一点張り。もうこっちからしたら未知の恐怖だ。
「はい、あーん!」
「自分で食べれる」
「えぇ~、食べさせたいの!これすっごくおいしいから!食べて食べて!」
雷門たちに目が行ったら、なにやら餌付けみたいなことをしていた。
「……おいしい」
「だよね~!いっちー凄いよね〜!」
どうやら久しぶりに会えた友達とのご飯を楽しんでいたようだ。
わぁすっごいほほえましいんだけど???
思わず頭真っ白になった。えすごい微笑ましい、なにあの百合。こんなのぼくのデータにないぞ!!!
「……私、あの子たち産んだのかも」
「何言ってんの???」
どうやらそれに狂わされたのは俺だけではなく、赤羽なんか涙流しながらとんでもないこと言いだした。こわ。
朝食を終え、天野は何があったか話し始めた。その内容はあまりにも理解したくない内容だった。
「みんな……死んじゃったんです」
「………………は?」
天野の口から一つ一つ丁寧に絶望が告げられた。
「私たちが周りを散策していた時に、近くで血の匂いがしたんです……。それで様子を見に行ったんですけど……、訳の分からない《《化け物》》がいて、気づいたときには、もう……」
化け物、それはおそらく能力で化けたとは考えにくい。もし化け物の正体がバトルロワイアルに参加している人間なら殺す意味がない。それにルール違反、何が起こるかわからないのに考えなしで暴れるやつはいない。
「……どうして、花音は逃げれたの?逃げる能力じゃないよね」
「逃げる能力じゃないけど、応用でなんとか……」
天野の能力、琴佳は知っているようだが、俺達にはわからない。
「天野の能力ってなんなんだ」
「譜面の書き換えって言って、好きな場所に好きな音を好きなタイミングで奏でる能力です」
音、それは俺にとってはかなりの天敵だ。こいつはおそらく味方だから警戒することはないけど。
それからは天野だけが能力を明かすのはアンフェアと思ったため、全員が能力を明かし今後の予定を立てていった。ちなみに俺は聴覚上昇と言ったのだが、
「でも、剣とか作ってませんでした?」
「ありゃ、見られてたのか」
説明しないわけにもいかないのでオーラ技術について説明した。人ってあんな絶句できるんだな。
「それでどうする?正直私はその化け物は放置しときたい、言っちゃ悪いけど人が減る分には越したことないし」
赤羽が言っていることは100点満点だ。俺の耳があれば逃げることはできる。それに人が減るってことは数か月後のデスゲームが楽になる。
「俺もだ、戦いたい気持ちはあるが死にたいわけではない」
そうだ、下手をしたら死ぬかもしれない。どう考えても隠れるべきだ。
「「……」」
天野と橘は黙り込んでしまった。
橘はいつも通りだが、天野の心情は一体────
重い雰囲気をどうにかするべく、雷門が口を開く。
「じゃあ次、天野さんについて────」
「花音ちゃんを仲間にする、ていうか元から娘よ」
「頼むから帰ってこい赤羽」
こいついつまで存在しない記憶見てるんだ。
「確かに天野さんを仲間にするのは賛成だ、ほっとくのは違う」
……俺と同じこと言いやがる、でもその通りだ。琴佳の友達なら猶更ほっとけない。待って俺琴佳の友達人質にしようとか考えてなかったか?気のせいだ、うんそうに違いない。
「こっこれからよろしくお願いします!少しでも役に立ちます!」
「あぁ、この五人で生き延びよう」
言いながら雷門が手を差し出し、それに応えるように天野が握り返す。
「はい!」
そうして、5人でのバトルロワイアルに幕が上がる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「にしても暇ね~」
退屈そうに顎に手を添え、空を眺める赤羽。
「じゃあ釣りを手伝ってくれもいいんだぞ」
「ジャン負けは喋んないでくれる?」
「理不尽!」
いくらサンドイッチを作ったといっても限りがあるため、ジャン負けで雷門が釣り当番に決まった。不憫枠は伊達じゃない。
「あ~花音ちゃんたち、早く帰ってこないかしら」
場面は変わり、俺達3人は辺りを歩いていた。目的は天野の能力である譜面の書き換え《リライト・スコア》を使った索敵と地雷だ。
「……そういえば、花音の能力と優ちゃんの能力が相性良いとはね」
そう、今回使うのは花音の能力と赤羽の能力の掛け合わせだ。花音の能力は『好きな音』なら本当に何でもできるようで、赤羽の『強制』を設置し、設置した場所を踏んだタイミングで発動させる、これで索敵と地雷の完成だ。
「役に立てそうでよかったです!」
「琴佳の能力とも相性良さそうだし、天野がいると安心感が違うな」
「……!?え、ぁ、……はい」
「……いっちーのたらし」
今のたらしじゃなくない?普通に褒めただけじゃん。そんなこと言ったら闘論になりそうなので、反論せずに心の中で謝罪する。
「とりあえず帰って───」
帰路を辿ろうとした刹那、どこからか琴佳を狙った矢が飛んできた───!?
「っぶね!」
風を切る音に反応して、咄嗟に具現化した刃で叩き落とした。
「……おかしい」
「なにが?矢が飛んできたこと?」
琴佳が不思議そうにに周囲を見渡す。
「……何も、聞こえない」
そう、矢の威力と角度からすれば、射手は精々数十メートル先にいるはずだ。
なのに、俺の耳には人間がそこにいる気配が一切届かない。
心臓の音も、服が擦れる音も、地面を踏みしめる音さえも。
(……これじゃあ、透明な「無」がそこに立っているみたいだ)
自身の武器である「耳」が通用しない異常事態に、俺の背中に冷たい汗が伝わった。




