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【完結】王立魔法学校専門個別指導塾 “マギスの学び舎” ~魔物恐怖症のへっぽこ魔法使い、塾講師になって王都を陰から守ります!~  作者: りっく
第3章 魔物の血を引く者

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■戻ってきた日常

 石化事件から、二週間。

 王都はすっかり石化前の活気を取り戻し、止まっていたいろんなことが動き始めた。


 ずっと休校だった王立魔法学校も、次の週明けから授業を再開するようだ。

 実家に帰ったり各地に避難したりしていた学生たちも王都に続々と戻り始める。


 そうなると、当然学習塾であるマギスの学び舎も大忙しとなる。


「ルーナ先生、魔法大会どうだったの?」

「魔法大会? な、なんの話?」


 マギスの学び舎のエントランス。

 授業準備をしている私に、見慣れているのにどこか懐かしく感じる顔の生徒が声をかけてくる。

 ロナウドだ。隣には私の担当生徒である、アメルくんもいる。


「先生、前に言ってたじゃないですか。魔法大会に出るためにクロウ先生と特訓してるって」

「石化の間に行ってたんだろ? イレーネから聞いたー」


 何もかもついていけない話に、私は目をパチリと瞬く。

 話の流れからなんとなく予想するに、遺跡へと戦いに行ったあの日のことを、イレーネちゃんが「魔法大会に行った」と称している……といったところだろうか。


「えーと……まあ、勝った? かな? でも、悔いは残る結果……って感じ」


「どっちだよ」

「負けてますよね、それ」


 アメルくんまでロナウドにつられて辛辣なことを言う。

 まだ二年生の可愛らしい少年なのに、ロナウドに毒されているのではなかろうか。


 そんな他愛もないことを思って笑いながら、私はこっそり二人にバレないように、机の下で拳を握る。

 咄嗟に出てきた言葉は嘘ではなくて、後悔はたくさんあった。


 メディナちゃんの寂しさを、どうにもしてあげられなかったこと。

 助けてくれたケルクックに、何も返せず、挙げ句の果て石に変えられてしまったこと。


 彼らがどうなったのか、もう私に知る術はない。

 クロウ先生を取り戻して王都を救うため、しかたないことではあったのだけれど……意思の疎通ができたぶん、もっと何かいい方法があったのではないかと想像してしまう。

 人と魔物が、憎み合わなくていい方法が。


(それが見つかったら、魔物が怖くなくなるのかな……)


 そんな心残りを抱えたまま、ここ数日を過ごしている。

 つい落ち込みやすくなっている私の悩みを晴らすのは、底抜けに明るいロナウドの声だ。


「ていうか、先生聞いた? 星祈祭、無事にやれるんだってさ! 来週!」

「え……! 本当!?」


 嬉しい知らせに、暗い気持ちがふっと和らいだ。

 ずっと楽しみにしていた年に一度のお祭り、星祈祭――石化のせいでオブジェまで石にされて機能しなくなり、露店の用意も食べ物がほとんどダメになったとかで開催が危ぶまれていたそれが、無事行われるらしい。

 

 準備されていた綺麗な飾り付けや、楽しそうな屋台たち……そこに関わった人々の気持ちが無駄にならないことが、心から嬉しい。

 あからさまに機嫌をよくした私を見て、ロナウドはくすくすと笑う。


「めっちゃ喜んでる。ルーナ先生が喜んでくれてよかったよ」

「楽しみにしてましたもんね。もちろん、僕も楽しみです」


 アメルくんもニコニコして、明るい表情だ。

 あたたかい日常が戻ってきたことを改めて実感して、すっかり治った傷のあたりがなんだか誇らしかった。



   *   *   *

 


「星祈祭か……」

「ダメですか? 忙しいとか疲れてるとかなら、まあ、諦めますけど」


 数日後、マギスでの授業終わりの控え室にて。

 いよいよ始まった星祈祭を前に、私はクロウ先生を誘ってみた。


 去年までは、先生と生徒だったし、誘っても断られることが見え透いていたから、何も言わなかったけど。

 前から、一緒に回ってみたかったのだ。

 クロウ先生がどんな顔で星を見て、どんな屋台で何を食べて、星に何を祈るのか、知りたかった。


 しかし当然といえば当然、反応は芳しくない。

 諦めますけど、なんてつい予防線を張ってしまう私も情けない。


 そして二人の間に一瞬、沈黙が降りる。

 破ったのは私たちのどちらでもなく、横からひょいと首を突っ込んできたトマリ先生だ。


「ルーナちゃん、負けちゃダメっすよ。クロウくん、恥ずかしがってるだけっすから」

「恥ずかしがる?」


 意味がわからずおうむ返しをする。

 クロウ先生は、トマリ先生に文句ありげな視線を向けて「おい」と制止の声をかけたが、意味はなかった。


「クロウくん、お祭りとか行ったことないんすよ。だからどうしたらいいかわかんなくて行きたいって言えないだけっす」

「なんでお前がそんなこと決める……!」

「え〜? だって事実っすよね?」


 ヘラヘラしながら、トマリ先生はクロウ先生の背中をパシパシ叩いている。

 この二人が仲良しだと聞いてかなり意外に思っていたけれど、本当に仲がいいらしい。

 私はトマリ先生の助言にお礼を言って、クロウ先生の手を勝手に掴んだ。


「じゃあ、行きましょっか」

「あ、おい、こら。まだ行くとは……」


 なんて口では言いながら、手を引くと案外すんなりクロウ先生はついてくる。

 お疲れさまっす〜、と後ろから聞こえるトマリ先生の声に空いた方の手を振って、私とクロウ先生は夜の王都へ繰り出した。

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