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【完結】王立魔法学校専門個別指導塾 “マギスの学び舎” ~魔物恐怖症のへっぽこ魔法使い、塾講師になって王都を陰から守ります!~  作者: りっく
第3章 魔物の血を引く者

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24.ふたりの帰る場所

 草原の真ん中に、ぽつりとあばら屋が立っている。

 屋根と囲いだけの簡素なつくりをしたそこには、ベンチが一つと、あまり守られない時刻表。

 乗合馬車の停留所だ。


「へえ。ならここまでイレーネと一緒に来たのか」

「はい。塾長の計らいで……たいへん勇気づけられました」


 馬車を待ちながら、クロウ先生と話すのは、王都が石にされたあの日からの私たちの動向だ。

 ここに来るまでにあったこととか、慌てていて話せなかったいろんなことを、答え合わせのように伝えた。


「そういう生徒がお前にもいて、何よりだ。まさか一人で乗り込んでくるとは、もう魔物が怖くなくなったのかと驚いたが……」

「まさか! ずっと泣きそうでしたよ。もう次はないですからね」

「そうみたいだな。ニワトリに乗ってる間も、ずっと手が震えてた。……もういなくならないようにする」

「“ようにする”、じゃなくて……あ! 来ましたよ、馬車!」


 遠くから、街道を走る馬車の姿が見えた。

 近づいてくるその馬車の後ろには、人は誰も乗っていない。


「あれ? いつもなら大混雑のはずなのに……」


 馬車はラケルアの地方都市から王都を結ぶ重要な交通路だ。

 私は乗ったことがないが、王都の停留所がごった返しているのは何度か見たことがある。


 予想外の光景に驚きながらも、広々座れてラッキー、なんて能天気なことを思う。

 そんな私とは裏腹に、クロウ先生はため息をついて落ち込んだ様子だ。


「どうしたんですか?」

「……王都の様子を想像してた。地方都市から誰も王都に向かわないということは、王都は相当に困窮しているんだろう」

「あ……」


 そっか。私は昨日までその王都にいたのに、気づいていなかった。

 

 王都からラケルア地方へ向かう馬車は混雑していたのに、逆は誰も乗っていない。

 つまり、みんな王都を抜け出して、地方に向かっている……王都では暮らしていけない、ということだ。


「……早く、なんとかしないとな」


 手に持ったままの、メドゥーサからもらった小瓶を握りしめて、クロウ先生は呟く。

 きっと責任を感じているのだろうとわかったけれど、かける言葉は見つからなかった。


 すぐに、馬車は停留所につく。

 誰も乗っていない、少量の積み荷だけの馬車を率いていた御者が、私たちの姿を見てぎょっとしたように声をかける。


「あんたたち、大丈夫かい!? どこで何してたんだ?」

 

 私は怪我だらけで服も装備もボロボロ。

 クロウ先生は魔法の使いすぎでやつれているし、数日遺跡で暮らしていたから服も体も土で汚れまみれ。


 御者が驚くのも無理はないのだが、私たちは一刻も早く王都に戻りたかったので、適当に笑顔を浮かべる。


「あ〜……ええっと……サバイバル? 体験? みたいな」

「趣味なんだ。今から帰りだ、王都まで」


「王都……がどうなってるかは知ってるのか、あんたたち。そんな状態で帰っても、治療できる場所があるかどうか――」


 心配そうに言う御者に、クロウ先生は力強く頷いた。


「知ってる。それを、今から治しに行くんだ」


 御者は、目を瞬かせる。


「ええ……? まあ、いいならいいけどよ……」


 首を傾げながらも、仕事慣れした壮年の御者は、私たちの体に障らないように扉を大きく開けてくれた。

 お礼の会釈をして、私たちはふかふかした馬車の座席に、体を預けたのだった。



   *   *   *



 それからは早かった。


 私がマギスの学び舎に向かい、帰りを待ってくれていた塾長に傷を治療してもらっていた数時間。

 その間に、クロウ先生は一人で、街の石化を解いてしまったのだ。


 夕暮れの街が、動きを取り戻す。

 まるで全ての命が奪われてしまったかのように冷たかった石畳の街が、少しずつ、戸惑いながら、活気を取り戻していく。


 再会を喜ぶ家族、訳もわからず過ぎた時間に驚く人々。

 売り物が腐っていて嘆く商店街の店主。

 変な体制で石になっていたせいで転んでしまった少年。

 すぐに家族が駆け寄ってきて、泣きながら笑う少年の姿を見て――それから、私は目の前にいるクロウ先生に視線を戻す。


 治療を終えて、街がもとに戻っていることに気づいたので、慌てて探しにきたのだ。

 クロウ先生は誰に偉業を自慢することもなく、一人でふらふらと街を歩いていた。


「何勝手に無理してるんですか。遺跡でも魔法使いまくって白い顔してたのに」

「俺の魔力は解呪には関係なかった。俺は何も無理してない」

「本当ですね? 血も自分の分は使ってないって誓いますか?」


 目を三角にしてそう言うと、クロウ先生はさりげなく自分の左手を体の後ろに持っていって隠した。

 一瞬見えたその手首には、真新しい包帯が巻かれている。


「……ああ。誓う」

「嘘つき!!」


 あまりにバレバレの嘘に、私はぷっと吹き出してしまった。

 一人で黙って無理をするのが、この人の悪いクセらしい。


 ……メドゥーサたちの母親に、クロウ先生を幸せにする、なんて啖呵を切ってきてしまった。

 私が、クロウ先生を一人で戦わせないように、見張っていないといけないみたいだ。


「手のかかる先生ですね」

「なんだって?」

「いえ、なんでも! 帰りましょ、きっとみんなも石化が解けて待ってます」


 メリッサと戦い、石にされてしまっていたミリカ先生たち。

 きっと今頃塾長から事情を聞いて、私たちのことを待ってくれているだろう。


 そう言うと、クロウ先生も穏やかな表情で頷いた。


「だな。やっぱりあそこが、俺たちの帰る場所だ」


 そして、私たちはまた歩き出す。

 無事に石化の解けた街の中を、何気ない足取りで――私たちの、マギスの学び舎に向かって。


 

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