■星の瞬く夜
きらめくイルミネーションと、街道を彩るように両側に連なる露店たち。
王都の中心部からお祭り気分の道は長く続き、外縁にある大きな星祈祭のオブジェまでたどり着く。
大人の足で普通に歩いても20分はかかろうかという道のりを、老若男女が寄り道しながら歩いていた。
「……列の進みが遅いな」
「列じゃないです。みんな食べ歩きとか、ショッピングとかしながら歩くんです!」
お祭り初心者だというクロウ先生は、なかなか進まない人々の歩みを見てじれったそうにしている。
隣の私はといえば、わたあめとチョコバナナを両手に持ってるんるん気分である。
「イライラするときは糖分ですよ。わたあめ食べます?」
「いい」
「えーっ。せっかく買ったのに。一人じゃちょっと多いんですよ、これ」
「ならなんで買った……」
明らかに呆れています、という顔だ。
まあ、お金を出してくれたのはクロウ先生なので、呆れられても強く言えないけど。
だって、私も財布を出そうとしたけど、その前に払われてしまったのだ。
「じゃあ……がっつりご飯の屋台もあるし、手芸品とか芸術品を売ってるところもありますよ。あと、似顔絵屋さんとか!」
「…………」
私の提案を受けて、クロウ先生は考え込む。
よく考えたら、私もクロウ先生の趣味はよく知らない。というか、何かに感動したり心惹かれたりしているところを見たことがない……と言ったら、まるで先生が冷徹無情な人みたいだけど。
しばらくして、クロウ先生ははたと思いついたように立ち止まった。
「それなら」
「はい!」
「魔道具が見たい。装飾になって……魔力がわかりやすいのがいいな」
「魔力がわかりやすいの……?」
今度は私が考え込む番だ。
魔道具なんて、傘みたいに普及しきった、生活に絶対使うものしか買ったことがない。
用途に合わせて、この星祈祭の大量の露店の中から、自分の手で掘り出し物を見つけ出す……なんてことは、夢のまた夢である。
「ええっと〜……魔道具……魔道具かぁ」
とはいえ、初めてお祭りに来たというクロウ先生の希望は叶えてあげたい。
悩む私の前に、二人の救世主が現れた。
「あれ? ルーナちゃんにクロウ! 二人も来てたのね!」
人混みの中、元気よくぴょこぴょことこちらに手を振る、かわいらしい小動物のようなミリカ先生。
その隣には、群衆の中でもずば抜けて背が高く目立っている、ナタネ先生もいる。
二人とも今日はマギスの授業はなかったので、休みを合わせて遊びに来たのだろう。
星祈祭の雰囲気に合わせて黒と金を基調にしたきらびやかな衣装をまとっており、綺麗だ。
「ルーナはわかるけど、クロウはこんなところに来るの珍しいな。デート?」
「「そんなんじゃない/です!」」
ニヤニヤしたナタネ先生の問いに、私とクロウ先生の否定の声が重なる。
二人して声を合わせて否定しても、ますます誤解されるだけだろう。
私は自分の頬に熱がのぼるのを感じた。
「そんなことより!お二人とも、どこか素敵な魔道具のお店を知りませんか?」
話を逸らすため、私は直面している悩みを二人にも投げかけてみた。
私のすがるような声音に、二人はなんとなく状況を察してくれたらしい。
少し考えたあと、ミリカさんが何か思いついたようで得意げに人差し指を立てた。
「それなら、いいところがあるわ」
* * *
星祈祭の一番の目玉と言えば、やはり王都外縁の広々とした夜空をふんだんに使ったオブジェだろう。
天球をかたどったそれは、魔法の力で実際に動き、光っている。
星々が、私たちの世界を囲んで回るように。
天球のオブジェも、星祈祭を楽しむ人々も、きらきらと散るイルミネーションの光に照らされて輝いている。
そんな、オブジェのふもと。
一軒の屋台が、ひっそりと営業している。
周りの人々はみなオブジェに夢中で、屋台には目もくれない。
しかしそこには、オブジェと同じくらい綺麗な品々が並んでいた。
「これは、星の魔力を込めたブローチだ。夜空には様々な天体が浮かぶ……その力を込めた、どれもこの世に一つきりの特製品だよ」
屋台の店主がそう説明しながら、四人それぞれに似合う色を選んでくれた。
私には黄色い宝石のついた首飾り。
クロウ先生には黒曜石の指輪。
ミリカさんにはピンク色の小さなパールが散りばめられた髪飾り。
ナタネさんには青い宝石が光るブレスレット。
それぞれ、纏う魔力の性質が違う……らしい。
私は感知魔法も苦手なので、あんまりわからないけど。
それぞれ自分のぶんを購入し、店主に礼を言って屋台を離れる。
さっそく指輪を身につけたクロウ先生は、星祈祭のオブジェに指輪をかざして、仰ぎ見る。
「似合ってますね。黒曜石」
「ああ。気に入った」
褒めるとそっぽを向いてしまうかと思ったけれど、案外クロウ先生は素直にはにかんだ。
そして、続ける。
「もし誰かがいきなりいなくなっても、これがあれば……なんて、俺が言うことじゃないが」
その言葉を聞いて、なぜクロウ先生が“魔力を感知できる魔道具”を欲しがったのか、理解した。
今度私たち――“マギスの学び舎“特任講師たちが危機に陥ったときに、すぐお互い助けにいけるように。
クロウ先生の想いがわかると、途端に買ったばかりの首飾りが重たく、大切なものに感じる。
「……ほんと、いちばんに失踪した人が言うことじゃないですね。でも――」
オブジェの向こう、夜空には星が瞬いている。
王都の街からは、周りの明かりが強すぎてよく見えないけれど。
どれだけ離れていても、私たちはきっとその明かりをもう見失わないだろう。
「これがあれば、次もきっと大丈夫! ですね!」
クロウ先生の顔を見て、私は笑う。
先生もまた、いつもよりほんの少し表情を緩めた。




