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seek one's fate  作者: 六軒さくみ


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*みえないひと1*

揺れていた想いは、たくさんあった。

     今まで信じていたことが崩れて、

     武器を手にした理由すらも本当は曖昧で。

     だから、命令されていることの方が楽で、

     流されることの方が楽で。

     自分の嫌なことは総て目をつぶっていた。

     あの瞬間まで





 ルリの軍服姿に最後に衝撃を受けたのは意外な人物だった。



 そんなことには拘らない人物だと思っていただけに、ルカも驚き、ルリは面をくらい、ラティーナに至っては訝しんだ表情を浮かべる。

 いつもは飄々として鷹揚なラシードが、ルリの姿を見た瞬間、眉を顰めさせた。


「どうしたの?」


 ルカがラシードの表情を伺いながら声をかけると、しばらくじっとルリを凝視していたラシードが大仰なため息をついた。

 皮肉な色を浮かべることが多いルカの瞳が、こんな時にばかり気づかう光に満ちている。

 横を見ればルリも同じような目でラシードを見上げている。

 見目形がとても双子とは思えないルリとルカ。

 違いを挙げれば、その髪の色、顔の作り。

 だが、二人に共通するものを探せば、意外と多く存在する。

 滅多にお目にかかれないような濁りのない蒼い瞳。

 青に属する瞳を持つ者ならいくらでも見てきたが、ここまではっきりとした青は初めて見たと思うほど感嘆する色を二人は持っている。


 あと数時間で自分たちが赴く場所の画像と、その詳細を知らされたとき、二人は映像から目をそらすことなく見据えていた。

 何がそこで起きていて、これから自分たちが何をしにいくことになるのか。

 二人は二人になりに、受け止めようとしていた。

 誰もが目を背けたくなるその映像をしっかりと見つめていた。

 裕福な家庭で何も知らず、何も知らされずに育ってきた人間にしては随分根性がある。

 だから、ラシードは改めてルリとルカに驚いた。

 初めに感じていたルリに対する戦う者としての甘さや、認識のなさに腹を立てた。

 今でも時々、腹に据えかねるときもある。

 けれど泣いても嘆いても、それでも立ち上がって前を向こうするその姿勢は見上げるものがある。

 誰もがみな、ラシードやルクのようにはいかない。



 たとえルリとルカの身体の中に「血の海を好むデュオンの血」が流れていたとしても。


「ラシード?」 

「いや、なんでもない」

「なんでもないって感じじゃないよ?」


 ラシードがため息をつきたくなるのは、この二人のこんなあどけなさだ。

 幼いと思っていたが、軍服を着るとよりその幼さが強調されてしまっている。

 ラシードの周りにも二人と同じくらいの年齢で武器を手にしている者はいないわけではない。

 武器を手にして戦わなければ身を守れないこともある。

 戦うことや、人を傷つけ殺めることを肯定するつもりは更々ないが、かといって否定することも出来ない。

 かくゆうラシードもルリやルカと同じ年齢の時にはもう、武器を手にして戦っていた過去もある。

 なのに、二人のこの姿に、その幼さに、あどけなさに頭を殴られたような襲撃を受けたのは、この二人を知ってしまったからだ。

 これが感傷なのかと思うと、ルクの心情が少しだけ理解出来る気がした。

 誰もがみな総てに納得してケリをつけられれば、世の中に戦いなど起きるはずもない。


「…お前ら、それどうした?」

「理由ならトマソとコウキさんに聞いて。僕たちだってこんなものは着たくないんだよ。でも、今回だけはって言われたんだ。なんか、外堀から攻められて既成事実を作られてるみたいで嫌なんだけどね」

「……上からの命令なら従う義務くらいはあるだろう」

「え~アナタがそんな言葉を吐き出すの? 僕はここで命令を受ける立場にいる人間じゃないんだけど」


 ルカの憎まれ口にいつものトーンが戻ってきている。

 あの映像を見て、作戦を聞かされて、それでもこれだけの平常心を保っていられるのは素晴らしい気概だ。

ルリは怯えと緊張から顔には血の気がないが、それでも泣き言を言わない。


「あの二人が意外としっかりしているから、より心が痛むのだと」と呟いたルクの言葉に同意して。

けれどそれを言っても始まらないのだとも自分自身に言い聞かせて、ラシードも気持ちを入れ替えた。










 今の自分が置かれている立場や状況を考えると、随分と恵まれていることに、エイドリアンはいささか心地の悪さを感じていた。


 艦内を自由に歩き回れないのは当然であるし、不用意に出て歩くなどもっての他なのは、ここが連邦軍の主要戦艦中だからだ。

 けれど、それで不便を感じているかと言えば、殆ど感じていない。

 彼が匿われている部屋は、地球連邦軍の主力艦隊の旗艦とも言うべきリバティ・ベル。

 その艦内の将校クラスが利用する区画の一番広い司令官用の部屋。

 監禁されていた屋敷から協力者たちが案内したのは、友人のイーストが責任者として乗艦していた、この戦艦。

 イーストが協力者の一人だと聞かされたのは屋敷を逃げ出した直後で、そこに案内すると伝えられたのは、戦艦が見えてからだった。


 そこで涙混じりに親友と再会。


 つもる話もそこそこに、彼からこの部屋を自由に利用していいと言われた。

 勤務中、この部屋を訪れる者はなく、また勤務外でもこの区画に足を踏み入れる人間は限られた人間だけなので、ここ以上に安全な場所はない。

 とまで言い切られ唖然とした。


 少なくとも、エイドリアンの知っているイーストは、泰然としていて、無茶なことをしたこともなく、任務に忠実で何事にもまっすぐな人物だった。

 だからこそ、この若さで連邦軍の要ともいうべき海上艦隊の司令官をしていられるのだから。

 それを指摘したとき、イーストは「人はかわるよ。リアン。君が父親と対決しようと立ち上がったように、私も、これ以上、無駄だと思っていることが出来ないだけだ」と、告げた。

 

今までの自分の我慢と行動が、やっと実を結ぶのかと嬉しく思う一方で、自分の行動が親友をはじめ罪のない人間達にまで派生するのだと改めて突きつけられて、覚悟を決めたはずだったのに、心のどこかでは躊躇いが生まれた。

 失敗して自分だけが犠牲になるのならば構わない。

 けれど、その言葉にイーストは「もうお前だけの問題ではなくなった」のだと、諭した。

 走り出してしまった流れを止めることは出来ない。

 エイドリアンもそれは理解している。

 理解していても、やはり心のどこかでは失敗を恐れる自分もいる。

 あの父を追いつめることが出来るのか自分はと。

 監禁されていた頃は、逃げ出す機会やその時を考えればよかったが、こうして現実味を帯びてくると、余計なことにまで気が回る。


 一人、押し込められたイーストの部屋で、エイドリアンはやはり居心地の悪さを感じながら、とりとめもなく考えている。




「考えても仕方のないこともある」


 声のする方向に視線を巡らせば、何を考えていたのか一目瞭然だと、苦笑いを浮かべて立っていたのはイーストだった。

 いらくここには自分以外には滅多に足を踏み入れないと言い含められたからと言っても、ドアを開けたのが自分でなければ、間違いなく射殺されていてもおかしくない状況。

 にもかかわらずその辺りに気が回らない友人の、胆の座り具合にイーストは再び苦笑いを浮かべた。

 目端がきき、冷静で思慮深いエイドリアンは、変なところで開き直り予想も着かない行動を起こすことがあった。

 今回はその最たるものだが「事を起こす」と決断したからには、言葉には出来ない様々な葛藤と何かがあったはずだ。



「新しい情報が入った。それをお前に伝えようと思ってね。悪い情報だが…」

「帝国を隠れ蓑にしてヌミディアに総攻撃をかけたことや、その攻撃部隊にアルスラーンがいる事以上の?」

「ああ。今度はそのヌミディアを隠れ蓑にして、連邦の宇宙艦隊が月に攻撃をかけた。主要都市は殆ど壊滅状態だ」

「連邦の本当の狙いは…そちらか」




     これ以上、悪い事なんて起こらないと思ってた。

     ルリと道が違えて、ルカと道を違えて、兄や父とも会えなくて。

     それでも、なんとか自分の足で立てていたのは、友達がいたからだ。



『それはすらも、俺は失いかけていることに、まだ、気づけなかった…』




「正義の定義をタイスは言えるか?」


 着替えをすませ、控え室から整備の遣り取りを見つめていたアスランが、振り向きざまに呟いた。


 言葉の意味も、問われた内容も頭では理解できたが、それをどう表現すればいいのかタイスには思いもつかず、質問された立場なのに「お前は?」と質問で返してしまった。


 アスランは瞬間、目を伏せ「そうだよな」と微かな笑いを零すと笑みを浮かべた。


 大きな作戦の前だというのに緊張感の欠片も感じていないように見える。

 今までも大きな作戦に加わったこともあるし、記憶に新しいところではリバティの解放に関する作戦にも加わっている。

 慣れてしまったということはないが取り乱しても仕方ないこともある。

 ましてや何をしても手に付かないから、大きな作戦の前は意外なまでに静かだ。

 だが、それを踏まえても、アスランの静かさや、笑みは何か違って見えた。

 何処が違うとはっきりとは言えないまでも、微かに含まれた何か。


 たとえば、総てを諦めた人間が浮かべる笑み。


 だから、タイスは急に不安を感じた。

 表面上、部下達の前では父親が反政府のテロリストとして手配をされたことに動揺した様子も、取り乱した様子すらも感じさせず、指示系統の確認やら作戦にともなう連絡伝達、出撃に関する手続などを黙々と進めて行った。

 作戦会議の場ですら、涼しい顔をして平常を装い積極的に意見まで述べて討論に参加した。

 上司であるヴァルハラに、作戦における権限を与えられた時も、淡々としたものだった。

 作戦の遂行に立ちはだかるのは間違いなく、ヌミディアであり、その同盟者であるブルームであり、ひいてはそのブルームが派遣したヴィマーナ。


 行き着く先はそのヴィマーナに乗艦しているアスランの兄であるエレクトル。

 アスランが「大切」だったと呟いたルリ。

 そして、アスランにとっては双子同然の親友のルカが立ちはだかり敵になる。


 頭の回転が速く切り返しのいいアスランがそれら気づかないはずがない。

 すべてを諒解した上での行動ならば、タイスも「ふっきった」のかと一瞬思った。

 けれど、アスランがブルームに関する事を吹っ切ったりならば、大切なモノを無くしたのだと、取り乱して探しはしない。

 その矛盾した行動にこそ、アスランの心情が現れている。

 流されないように必死にその場に立ちつくし行く場所もないから流れに沿って歩いている。

 今のアスランはまさにそんな感じで、アスランを良く知る人間ならば不安をかき立てられる。



「こんなこと…誰にも判らないよな、きっと。俺にも判らない。だけど、俺はあのとき、ルリに言ったんだ。俺は連邦に正義があるから戦ってる。正義があると信じているから武器を手にして人を殺してる。お前にはないだろうって……決めつけて。本当は、自分の中の正義が信じられないから、自分の正当性を主張しただけかもしれない。迷ってるんだ、今も。命令されれば俺の立場ならもちろん戦場に行く。だけど、心のどこかでは、祖父のしていることも、連邦のしていることにも疑問を感じているんだ。マリーの事も何もかも、自分が何のために此処にいるのかも全く判らなくなりそうで怖いんだ。正しいものは何なのか、今の俺には判らない」

「正義の定義なんて人や国の立場が違えば全く違うだろ…そりゃ、戦士なら自分たちは絶対的な正義があるから戦ってるって、思いこむしかないだろ。俺たち一介の戦士は命令されれば出る、命令されれば目の前の無防備な人間だって射殺しなきゃならない。そんなことは、ざらにあるよ。どこかで自分の心の中に境界線をつくっていくしかない。それが出来なきゃ、退役するしかない……といっても、俺たち(ステラ)には退役は認められないけどさ」

「……ルリが言ったんだ。世の中にたった一つの正義しか存在しないなら戦争なんて起きてないって。立場が違って、目指すモノが違えばそこに歪みが生じて、互いの譲れないもののために、命をかける人が出来るって。たった一つの側面だけで正義を語ったら、それは正義じゃないんだって。今のこの世の中に、正義はどこにあるの。ひとつの正義だけを見て、他を見れない、認められないというのは、正義とは言わないでしょうって。今の帝国も連邦もそれに当てはまるって」

「そりゃまた、随分と言うね……でも、まあ、一理あるか」


 タイスの意外な反応にアスランが目を見張る。

 ルリの言い分も一理あるというのはタイスの素直な感想だ。


 ブルームは国際社会の場に置いて、自分たちの独立を認めて欲しいと訴え筋を通している。

 それは連邦や帝国に対しても同じで、相手にする国や政府によって態度を変える事がない。

 言っていることは至極まっとうで、訴えていることも頷くことばかりだ。

 だからこそ、今まで連邦や帝国という絶対的な力を有し支配してきた両陣営に対して従うだけではなく、自分たちの意見を述べようとしている。

 ブルームのことに関しては見てみない振りをしてきた国や政府も賛同し始めている。

 それは、態度を決めかめて高みの見物をしていた国や、立場的な問題からどちらか従事していた国だけではなく、連邦内部からも吹き出し始めている。

 上層部は必死にもみ消し隠蔽しているが、先日起きたクーデター未遂に端を発し、現連邦のやり方に反発している同盟国も少なくはない。

 それは、今まで絶対的服従をしていた連邦のコクーンも同じだ。

 コクーンをとりまとめようと奔走している人間達のもとで一つにまとまろうとしている。

 今まで、連邦が利用してきた手段を持って、コクーンと月は一つに纏まり、抵抗をしようと試みている。


「一理…ある……か」

「お前はそう思わないのか、アスラン」


 眉間にシワを寄せながら黙考したのち、ぎゅっと唇をかみしめた。

 明らかに何かひっかかりが心にある様子で、自分の中でまず整理をしている。

 そんな感じだ。


「……ルリが……一つに何かをまとめたいなら、ひとつの敵を作ればまとまる。それは、連邦も帝国も今まで立証してきた。だけど、それではいつか歪みが出てきて手に負えなくなるって。今はその状況でしょうって」

「あ~そりゃ、ルリの言い分は正しいよ。随分と、冷静な目で状況を見れてるな、その子」

「……俺が知ってるルリじゃない気がした。あいつは意外と、こちらが想像も予想もしてないことを突然することはあったけど。でも……」

「逆を言えば、そうならざる得ないほどの何かがあったってことだろ。人間の本質なんてそうそう変わらない。だけど、替えるほどの何かがさ、ルリ達にあったってことだろ」


 何か思い当たる節があるのか、アスランが秀麗な顔を曇らせて再び黙考する。

 そして吐き出すように呟いた言葉は、タイスの胸にもさざ波を起こすのに十分な威力を持っていた。


「ルカが別れ際に言ったんだ。どうして俺の引っ越しが急だったのか考えたことはあるのかって。どうして、連邦所属の人間は誰一人、帝国の侵攻時に犠牲になっていないのかって。それがずっと、ひっかかってる」

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