*その銃口の先14*
報告を聞いている間、上機嫌に微笑むフラーミングの表情に、艶がました。
「本当に、あの男に苦労させられたんだから、これくらいは当然よね」
「ですが、このままでは精神が持たなくなる可能性もあると、報告もありますが」
「いいのよ、別に。持たなくても。どうせ、長く続ける戦争でもないしね。ドーマスカーを揺さぶれれば十分」
「そう、巧いこといきますか?」
不安げにアレンが語る言葉に、気分を害した様子もなくフラーミングは含み笑いを浮かべる。
時々、この女性は年齢にそぐわない行動をとり、アレンを戸惑わせることがある。
「行かせるのよ、アレン。なんのために連邦を大きくしたと思ってるの? この時を何年、待っていたと思うのよ。大丈夫よ、黄昏のリンゴがこちらにあるんだから。それに、どうしてもルリが欲しいの。ルリを使ってトーマスカーにとどめを入れてやることも出来るわ」
連邦が、ヌミディアの砂漠基地に攻撃を仕掛けると同時に、月への攻撃が開始されるのをモニターで見ていたフラーミングは、一層、軽やかな声を上げて笑う。
「あの女の悔しそうな顔が見えるわ。楽しいわねアレン…それにアンタレスもあの死に損ないも、さぞかし悔しがってるでしょう。とっても気分がいいわ」
ルリの言葉にこんなにも心が揺れる。
「平和だった頃に戻りたい」それは、俺だって思ってる。
何がどうして、こうなったかなんて、もう問題じゃなくて。
ただ、俺とルリの立つ場所が、
いる場所がこんなにも違ってしまったことが俺には問題で。
俺は本当に何も見えて無くて、そして見ようとしてなくて。
現状を変える勇気も現実を知る勇気も何一つ持てなかった
いつものように胸に手を置いて、やはりそこにあるべき物がなかった。
無いことは数日前からアスラン自身が気づいていて、無いと気が付いた時から必死に探したけれど、何処にも見あたらなかった。
もし、それを無くしたとすれば、あの場所しか考えられない。
帝国と連邦の攻撃に晒されて、崩れた教会の中。
ルリと思いかけずに再会し、互いの思いと気持ちをぶつけるだけぶつけて、肝心なことは何一つ打ち明けられなかったあの時間。
もっと話して、もっと時間があったのならば、ルリの覚悟も、ルカの言葉の意味も知ることが出来たかもしれない。 けれど、アスランとルリの間に爆風が吹き荒れて、気が付いたときにはもう、その場所にルリとルカの姿はなかった。
ルリを守るように立っていた男がルリを全身で抱き込んでかばっていたのを思い出すたびに、アスランの胸を今までも激しい嫉妬が支配する。
ルリの姿が消えたあの爆風が、二人の道はもう戻らないことを知らせていたようで言いようのない後悔と悲しみがアスランを襲う。
そして、あの大切な約束の証を、あの場所で亡くしてしまったのだとしたら、自分とルリの未来を暗示しているようで、アスランは急にこみ上げてくる悲しみに、危うく嗚咽をこぼしそうになった。
必死に瞬きして、目の奥を刺激するものを押し込めたけれど、胸を支配し始めた悲しみまでは、押し込めることが出来なかった。
心を支配する悲しみが身体の総てを支配する前に、何かしなければと自分に言い聞かせてはみたが、狭い自室の中で佇む事しかできなかった。
自分の胸に手をやって、それがどれだけ今までの自分を支えてきたのかと思うと、なぜ、自分がいま、この場にいるのか判らなくなった。
『ルリ、こんなにも大好きで、互いの手をしっかり握っていたはずなのに。何時の間に離れてしまったんだろう。互いの手を握る事がこんなに難しいことだなんて、あの頃の俺たちは知らなかった。そして、知ったときにはもう、その手を握ることさえも出来ない』




