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seek one's fate  作者: 六軒さくみ


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*その銃口の先13*

「通路で大声をだすな。誰が聞き耳を立てているか、わからないだろ」


 ならば、こんな通路で話しはじめるなよ、と反論することもできないまま、タイスは立ち止まってアスランの顔を見つめた。


 いつものタイスなら「どうせ見つめるなら、かわいい女の子の笑顔がいいよ」と内心で叫んだに違いない。

 タイスにつられて立ち止まり眉間にシワを刻んでいるアスランの表情からは、何も伺うことはできない。

 アスランのこういうと部分が「ステラ」の見本と言われたのだと、妙な感心すら思ってしまった。

 動揺しても一瞬で押し込める。

 不満があってもため息とともに飲み込む。どんなに理不尽な事を言われても感情で物事を判断しない。


 つい、数ヶ月前までは、本当に素晴らしいほどのエリート士官候補生だった。

 もちろん、アスランだって動揺したり取り乱したりもする。

 笑うこともあれば迷う時もある。

 不平不満を口にして、愚痴を言うこともある。そして感情に流されて時にとんでもない行動もとる。

 けれど、最近のアスランは時々、その表情の全てを消してしまう。

 それが時としてタイスを不安にざせている。なんでもかんでも溜め込んでしまう人間ほど、一度、爆発すると手に負えないということを身にしみて知っているから。  

 

「…そもそも、話をし始めたのはお前だろ、アスラン」

「どうしたんだと、聞いたのはタイスの方だろ。それに俺は、通路で大声を出せとは一言も言ってないだろ。お前の声は意外と良く響くんだぞ」

「お前ほどじゃないぞ」

「俺は一度も、そういう意味合いで注意されたことはなかったぞ」


 そういう意味合いじゃない、と。

 タイスの喉から出かけたが、不毛な言い合いに発展しそうな感じがして押し黙った。

 何を言ったと果ても、アスランに頭の回転で勝っているとは思えない。

 それに冷静に考えれば今は、そんなくだらないことで議論や討論をしている状況下でもない。


 この通路の先には作戦会議室と呼ばれるブースがあり、二人はそこに向かい、これから数時間後に決行される作戦の詳細を聞かされにいくのだ。

 今度は失敗することも、前回のように無様に徹底することも許されない、決死といっても過言ではない作戦の。

 だれもがそれを理解しているから艦内の空気は張りつめていて、誰もが無口になりがちだ。

 アスランの部下達も例にもれず、タイスは努めて明るく接しているが、あまり役に立っていない。


「お前さ…何を考えてるんだかわからないけど。一人でなんでもカンでも抱えるなよ。俺だっているんだし、アッシュだっているんだ。愚痴を聞いてやることくらいなら、出来るんだぞ」

「ありがとう。でも……俺はもう誰も巻き込みたくはないよ、タイス」

「それは…」


 アスランが何を指して言っているのか、瞬時に察しがついた。

 数ヶ月前、同期であり、親友でもアッシュが赴任する上官のお供で訪れた際、アスランはそのアッシュにある物を手渡した。

 それはアッシュ本人に宛てたものではなく、アッシュと行動を共にすることが多い同期のマリーに託したものだった。

 内容はそれとなく知らされているが、詳しいことは一切、アスランは口にすることはなかった。

 けれど、その「託した」ものが原因で、マリーの父親が拘束され、そしてマリー自身も本部に身柄を拘束されている。


 マリー拘束の情報を受けたアスランは、アッシュにすぐさま連絡を取り事実関係を確認したが、その時、アッシュはアスランに「余計なことはするな。マリーにはマリーの考えがあるはずだ」と暗にアスランは黙っていろと忠告した。

 連邦権力者である祖父、その連邦軍とは対立し革命家テロリストとしてその身を追われている父を持つアスランの立場は、軍内部では微妙であることを知っているが故の忠告。

 そのアッシュ自身も今は無き父親の件では、軍内部ではアスラン同様に微妙な立場にいる。

 だからこその忠告だった。


「アスラン……アッシュも言ってただろ。お前が動いたら、尚、やばいって」

「判ってるよ…判ってるけど」

「お前さ、おりこうさん、なんだから、こんな時にこそ、おりこうさんでいろよ。オヤジさんの件があるだろ。今は……」

「ああ。けど、どうしても、ルカの言ってたことが頭から離れないんだ。ルリの件ばかりでなく……ルカのある言葉が」




     ねぇ、アスラン。

     こんな時だけど、アスランに逢えて嬉しいこと一杯あったの。

     私のこと忘れないでいてくれたこと。

     ルカのことを忘れないでいてくれたこと。

     私達を助けたいと思ってくれたこと。

     探してくれていたこと。

     でも何より嬉しかったのは、この指輪をアスランがまだ持っていてくれたことだった。

     だからね、あのとき。

     これを見つけたとき。

     アスランともう逢えなくなるんじゃないかって、本当に怖かったの





『これは、偽りのない、かわることのない私の気持ち』





 見慣れないその姿に最初に衝撃を受けたのは着替えを一緒にしていたラティーナだった。



 似合うよとも、似合わないとも口にすることが出来ずにいると、それを察したルリが困ったように笑った。

「ちょっと大きい」と呟く声には僅かばかりの憂いが含まれていて、ラティーナは初めてルリの身に、そして自分たちの身に起きてる出来事に泣き言を言いたくなった。



 二年前、ラティーナもブルームは楽園だと疑っていなかった。



「戦争」という言葉など、ニュースから見聞きするだけの遠い異国で起きているだけで自分たちには全く関係のない世界の出来事だと思っていた。

 大人達が何をしていて、世界がどのように動いているかなんて、興味すらなかった。ただ楽しく。

 ただ普通に。

 それが当然だと思いこんでいた。

 帝国軍が侵攻した時、ラティーナは学園の短期研修で月に滞在し難を逃れ、その月でブルームに何が起きたのかを知った。


 ニュースから流れてきたのは他国でも、異国の遠い国の出来事でもなく、自分の産まれ育ったブルーム。

 白い校舎と正面玄関に続く緑の並木のコントラストが優美だと絶賛されていた学園は跡形もなかった。学園からの帰り道に友達と寄り道をしていたカフェがあった場所も。

 ブルームの人間達が自慢の一つとしていた、青い海に栄えた行政区の建物群も何もかもが瓦礫と化していて、その場に一緒にいた友達同士抱き合って、一晩中泣き続けた。

 家族の安否も分からないままの生活で、精神的にも肉体的にも疲弊した月での生活をラティーナは忘れることが出来ない。

 何事もなければ二週間で自宅に戻り、いつものように学園に行き、友達と遊び、将来を悩んでいたはずだ。 



 それが今は、二年たってもまだ、母国ブルームの土を踏めていない。



 侵攻から一年後、ラティーナは両親の死を知らされ、未成年であったことから戦争孤児扱いで、難民専用の一時避難所から月の養護施設に送られた。

 そこの生活が不満だったわけではない。

 けれど、月も連邦の勢力が忍び寄り始め危うい立場にいた。

 そのときになって初めてラティーナはブルームの置かれていた立場を知った。

 戦争がしたい訳ではなかった。だけど、母国が消滅するのをただ黙って見ていられる人間でもなかった。

 何か出来ることがあるなら、もう一度、母国に帰れるなら、なんでもいいからとの一心で、このヴィマーナに乗っている。


 けれど、やはり考えてしまう。


 帝国が侵攻しなければ、帝国と連邦が存在していなければ、自分たちはブルームという楽園の中で、あの生活を続けていられたはずなのだと。

 それは多分。

 目の前にいるルリも何度も思ったに違いない。

 あのころのルリは、本当にお人形のように可愛くて、綿菓子のようにふわふわとしていた。

 独特な色合いの髪の毛にはいつもカワイらしくリボンを結び、同学年の女生徒達と比べても幼い容姿。

 絵本の中の「小さなお姫様」という言葉がしっくりくるような少女だった。


 それが今。


 ラティーナが身につけている軍服とはまた違う色を身につけているルリ。

 士官であるルク達とも違う色。

 恐らくこの艦内でこの色の軍服を身につけているのは、わずかに3名。

 攻撃戦闘員を指し示す白と紺の軍服。

 ルリには似合わない肩書きの色に、ラティーナは言葉もなく、ルリを抱きしめた。

 

 ロッカールームを出てすぐに、ルリとラティーナは、ルリの服装に二番目に衝撃を受けた人物と遭遇した。

 男子乗務員専用のロッカールームは今まで二人が居たロッカールームとは真向かいに位置しているから、遭遇しても不思議はない。


 しかも、ルカはルリが出てくるのを待っていた。

 手渡されていた軍服に着替えるために、攻撃要員専用のロッカールームに赴いていたのだから、軍服を着たルリが出てくるのは当然なのだが、やはり目の前に現れると襲撃の度合いは想像を超えていた。

 ルカは大げさにため息をついて「後から打ち抜いてやる」とある人物に対して呪いの言葉を静かに吐き出した。

 まだ、悪態を付きそうなルカにルリはやはり困ったように笑った後、ルカの頬にキスをした。

 昔からルリがルカにしていた仕草の一つで、おねだりするときや嬉しいとき、互いを励ますときにもしていた。

 でも、最近は別の意味も含まれることが多い。


「ルカのお揃いなんて、ガーデンの制服以来だね」

「そうだね、ルリ。ガーデンの頃も、スカートの白が汚れるって…」

「うん。今度のは、上が白だけどね」


 最近は、このようにしてルリは話題を気持ちを、感情をごまかそうとする。

 それが判っているけれど、それを指摘できないのは、ルカにも甘えがあるからかもしれない。

 このルリの何気ない自分に対する励ましと気遣いと、そして何かもかもやんわりと拒絶して愚痴をこぼさない。

 ルリの全部を全身で受け止めるには、ルカ自身にも余裕がない。

 だけど、やはりルリのこの姿を見ると、衝撃が襲い来て、ルカを自己嫌悪させる。


 もっと方法はなかったのか。

 もっとルリを守れなかったのか。

 自分はどうしてもっと、と。


 それを伝えられない代わりに、ルカはルリをぎゅっと抱きしめた。

 ルリの髪の毛から漂う甘やかな薫りは、この艦内にいる物ならば誰もが利用しているはずのものなのに、どうしてだか、まったく別の薫りがする気かした。

 彼女と抱き合って貪る快楽より、気怠い心地よさよりももっと、ルカを満足させた。

 今暫くだけは、ルリに甘えていたくて、ルカは目をつぶって制服のその色を視界から消した。 





 暫くして艦橋に足を踏み入れ、次に衝撃を受けたのはルクとボブだった。



 艦内に居る者ならば誰もが身につけている軍服を、まさかルリとルカに着せることになるとは、ルクは予想していなかった。

 そもそも、この二人を先頭に巻き込み、あまつさえ最前線の攻撃要員として扱わなくてはならないなど、欠片ほども思っていなかった。

 今回限りとルクも自分に言い聞かせて二人に与えたものだが、どこか承服できない。

 ルリとルカがこのように軍服を身につけるに至ったのは、トマソの発言だった。

 発言を聞いてルクは露骨に非難の眼差しを向け、通信で遣り取りを見守っていたコウキも眉をひそめた。

 だが、今回ばかりはトマソの言い分にも一理あると、反論を言いつのるルクを退けてコウキが「これは命令だ」と告げた。

 これがルリやルカでなければ、これほど目くじらを立てなかったのではとも考えて、不満は飲み込むことにした。


 今回だけと自分に言い聞かせて。


 だが今までも「今回だけ」と言い聞かせて、何もかもが「今回限り」になっていないことを思うと、ルクの心に迷いと戸惑いは生まれた。

 だが今更、それを言いつのってもらちの空かない事。

 進言や命令にルクは今でも納得できていないけれどそれを口にだしてしまうほど、ルクも子供ではないし、今は自分の立場もある。

 でもやはり、ルリとルカの軍服姿を、それも攻撃要員用の軍服姿をみてしまうと、心が揺らぐ。

 まだ少年少女の域を出ないルリとルカのあどけない表情には、似つかわしくないその姿に。










「おぼっちゃまには伝えてくれた?」


 マリーの予想外に明るい声に、アッシュは言葉を詰まらせた。

 励ましの言葉を考えていたが、何一つその唇から零れることはなかった。

 逆にアッシュがマリーの明るさに救われている。

 辛い立場であり、心配されるべき立場はマリーであるはずなのに、彼女の口から出てきた最初の言葉は「来てくれてありがとう。あなたの方がたいへんじゃないの」というアッシュへのねぎらいだった。


「お前の伝言は、俺の伝言も含めて伝えてあるが…」

「それ以上、言わなくてもいいわ。想像はつくから。あいつって意外と暑苦しいところがあるからね。今回の事も自分のせいだって思って、なんでもかんでも背負い込もうとしてると思う。でもね、これはあいつの責任じゃないわ。あのデータを見たのは私。そして、それを父に渡すと判断したのも私。それを見て、行動を起こしたのは父。誰の責任でもないわ」

「お前は、相変わらず堅苦しいな、マリー」


 言ってしまってから「余計な言葉」だとアッシュは唇をかんだ。もともと饒舌な方でない。

 上官であったヴァルハラにも余計な一言を言っては笑われたものだ。


「アッシュあなたはどう思ってるの? あいつの責任だと思ってる?」

「そんなこと思うわけがない。あれを渡されたとき、あいつは「俺に見るな」と言った。ただ、頼まれたものだから渡して欲しいと言ってただけだった。内容を見てしまったのは、俺だ」

「うん。あれは私の父があいつに頼んだものだった。内容よりも、父があいつと取り合いだった事実に驚いたけどね。でも、ちょっと嬉しかったわ。父がまだ、父でいてくれたことに」


 マリーの目には誇らしげな光があり悲観さはない。自分の父親に対する呪いの言葉もない。


「マリー…」

「アッシュ。あなたは自分の父親を恥じてる?」

「恥じる必要はない。俺は今でも父のとった行動を否定する気はない。その結果が今だとしても。俺にとっては最高の父だった。だから俺は今、建っていることが出来るんだから」

「私も同じ。父の行動を恥じたりしないわ。否定もしない。今回の事に関しては母もある程度は覚悟を決めていた節もあるの」

「ちらりと聞いたが、お前の父親はまだ見つかっていないそうだ」


 アッシュの小声に今度は、マリーが言葉を詰まらせた。


「ありがとう。その言葉だけで十分よ。アッシュ。もう出た方がいいわ。あまり面会時間が長いと、今度はあなたまであらぬ疑いをかけられるから」

「マリー…すまない。何も俺はしてやれない」

「言ったでしょう。十分よ。これ以上の何を望めるの?」

「だが…」

「アッシュ・エイディア。私は私の信念に基づいて行動し、今も自分の信念でここにいる。それだけは忘れないで。あなたも、あいつも。それにね……多分、私よりあいつの方が立場的にはもっと辛くなると思うわ。ずっと、私よりもね…」


 その言い回しに何か引っかかりを感じたアッシュが「マリー」と名前を呼んで、先を促したが、彼女はそれ以上は口を噤んでしまった。

 前にアスランは一度、言わないと決めたら腹に納めて墓場まで持って行くヤツだと言ったことがあるが、実はこのマリーもそういう部分がある。


 皮肉も毒舌もなんでも語るのに。


 けれど、やはり気になってアッシュは何度か「どうしたんだ」と語りかけたが、マリーは唇を閉じたまま何も言うことはなかった。

 結局、マリーから聞き出せないまま、面会に許された30分は過ぎアッシュはその場から追い出されてしまった。

追い出されてからも、やはりマリーの言葉と態度が気になって暫くはその場に立ちつくしていた。

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