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seek one's fate  作者: 六軒さくみ


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*その銃口の先11*

帰還直後はいつものアスランだった。



 命令を聞いた時すらも微かに驚いた表情を浮かべて瞠目していたが、すぐに唇を引き結び「指示をお願いします」と告げた。

 その場にいた誰もが軽い衝撃すら受けたヌミディアの再攻撃の命令。

 簡単に理由を説明したヴァルハラを総司令とした小艦隊は、アスランが帰還してからわずか3時間後には移動を開始した。

 準待機を利用して提出を求められた報告書に取りかかり始めた直後「ルリに逢った」とアスランが静かに呟いた。

 何があって何を話したのか直ぐにでも聞き出したかった。

 だが、呟いた直後からアスランが影を纏うのが見えて、タイスには珍しいことに触れるのは躊躇われた。

 アスラン同様、ヴァルハラから指示された報告書の作成に勤しんでいるが、実はタイスの報告書作成も一行たりとも進んでいない。

 自分の手元の報告書と目の前のアスランの報告書を見比べれば互いに白いまま。

 だから、アスランが静かに弱々しく繰り出した弱音とともに吐き出した「ルリに…言われたんだ」と始まった心情の吐露に、内心では「やっと聞ける」とため息をついた。



「私はモノじゃない。俺の人形じゃない……綺麗な思い出の中だけのルリじゃないって。ルリの言い分は正しいよ。俺は、ルリで自分の優越と足元を確認していたんだ。今だって、ルリを理由にして戦うことや戦争をする意味に結びつけてる。考えようともしなかった。ルリは自分の側にいて当たり前、俺の言うことを聞いて当たり前、すべてを当たり前に考えてた。自分の中のルリをルリに押しつけていた。ルリに言われて……気が付いたことは沢山あるけど、肝心な事に今になってから気が付くなんてどこまでも間抜けだな。ルリが好きで、本当に大好きで、自分の中にある欲望を認めるのがイヤなだけだった。というよりも、余裕のない自分をルリさらけ出してしまうのがイヤなだけだった。情けない自分も、余裕のない自分も、ルリに知られてしまうのが怖かっただけだ」


 ぎゅっと拳を作るアスランを見てタイスはかけるための言葉を必死に探した。


 これほど素直に、これほど正直に弱音を吐く親友を目の前にすると、慰めればいいのか励ませばいいのか咄嗟に判断が付かなかった。

 恋愛に関してはアスランよりもこなしていると自認もしている。

 恋愛感情や駆け引きに鈍感な方でもないとも思っている。だから、これが普通の恋愛相談ならば、何でも言えるだろうし、冗談を織り交ぜ、アスランを茶化しながら助言も出来た。

 けれど、アスランにとってのルリという存在の重さ。

 アスランとルリが現状置かれている立場を知ってしまった今では簡単な励ましも、自分の経験も役には立たない。


 自分たちが乗艦している艦は再び激戦地になることが予想されるヌミディアに向かっている。

 連邦の別働隊が帝国と交戦状態であることを利用して、少数精鋭部隊であの砂漠地に奇襲攻撃をかけるために。

 前回は予定外戦力であるヴィマーナと、予想外の自然の驚異に晒され無様な撤退を強いられたが、今回は失敗など赦されない。


 そして現在、上官となったヴァルハラは、表面上は穏やかだが、宇宙艦隊ではその戦術と鬼神のごとき活躍で圧倒的な存在感を放っていた人物である。


 その手腕を見込まれて地球艦隊に呼ばれたヴァルハラが作戦の総指揮を執るからには普通の作戦ではないはずだと、アスランもタイスも諒解している。

 ヴァルハラと連隊を率いてヌミディアを攻撃するということは、前回と同様ヴィマーナが相手になる。

 そのヴィマーナには、アスランの兄であるルクと大切なルリそしてルカが乗っている。

 ステラであるアスランたちを撤退させた、あの3機の新型戦闘機に乗っているのは、そのルク、ルリもルカという現実もついて回る。

 だから余計なことなど考えている余裕はないはずだが人の感情だけはコントロールがきかない。

どんなに必死に自分に言い聞かせても、自制心は働いてはくれない。



「俺はなんでルリと戦うんだろう……ルリもルカも俺にとっては大切な幼なじみで、空港が火に包まれたときに何も出来ずにただ、見ていただけで……だから……こんなに胸が痛い」

「誰だって……自分の兄と戦え、自分の大切な人間と戦えって、言われたって……はいそうですかって簡単に自分の感情にケリを付けられる奴はいないよ」

「でも……現実問題として、俺はルリやルカ、そして兄さんと戦うことになる。戦いたくないのに戦わなきゃならない……俺はルリを探したくて武器を手にしたはずなのに、その武器をルリやルカに向けろと命令される。生きていて欲しいと望んだルリとルカを敵とみなして、攻撃しなければならない。俺は…なんのために武器を手にしていたのか……ルリを戦う理由にしていたから……いまはもう自分のやってることが自分でも判らない……」

「…自分のやってることがわからなくなるほど……その子の事が好きってことだろ。冷静なお前が何度も取り乱して弱音言ったりするほど大切な子ってことだろ。それって恋じゃないのか? 愛してるっていうんじゃないのか? 」


 アスラン自身でも判断つかないままに渦巻いていた感情の答えをタイスに当てられて「そうか、そうだよな」と苦笑いを浮かべた後、「こんな時に気づくなんて俺は愚か者だな」と今度は自分の情けなさに嘲笑を浮かべた。

 ルリの肩を自然に抱いて、守るように抱きしめたあの男に感じたのは嫉妬で、腕に抱いたルリの温もりに感じたのは愛しさだった。


 今になって一挙に答えをアスランに連れてくる。


「ルリは……側に居るのが当たり前で、手を繋いでるのが当然で……甘えていたんだ俺は。ルリが俺を好きなのは絶対に変わらないから、俺も変わらないから……ずっと。認めてしまえばこんなに簡単だったのに」

「お前らさ……自分たちの気持ちを認識する前に、一緒に居すぎたんだよ」

「少し距離を置いてやっと自分の気持ちに気づいたときには……俺はルリと一緒にはいられない」


 一目惚れやあこがれから始まった恋ならば、アスランももっと早くに自分の気持ちを認識出来ていたはずだ。

 ルリとは躰のつきあいをしたことがないと、以前に言っていたからには、自分に好意を寄せる女の子を見極める事は出来ていたはず。

 なのに、ルリに対する自分の気持ちに気づくことが出来ないほど、アスランはルリを盲目的に大切にしてしまったに違いない。

 いつも一緒に、いつまでも一緒に。ずっと変わらない関係のまま。

 それはなんとなく、タイスにも理解できる気がした。



「俺は帝国からブルームを取りもどしたかった。ルリやルカを助けたかった。再会してしまったらルリにはもうどこにも行ってほしくないって思った」

「アスラン……」

「気づかない振りをしていた……ルリが俺を好きなのは当たり前で、何もかもそれに甘えていた。ブルームを解放したいというルリのその意志は……俺にも理解できる……その想いは俺もルリも同じなのに……俺もルリも同じ思いなのに…なんでいる場所が違って、なんで互いに戦うことになるんだ……」

「……」

「ルリは俺と戦うことになったら間違いなく俺と戦える。だけど俺には無理だ…ルリを殺すことは絶対に無理だ……」


 言葉に出して自分の情けない程の弱々しさと無様さに「嫌気がさすよ」と、アスランは自嘲した。


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