表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
seek one's fate  作者: 六軒さくみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
64/74

*その銃口の先7*

「月を見てきたの。しばらくは月の屋敷にいたから。二年前もひどかったけれど、今はもっとひどい」

「………」

「答えてくれないの?」


 ルリの向かいに立ち、銃を手放さないアスランの表情には何か苦いものを砕いたものが浮かんでいる。


「お前は…俺が質問をしたら、答えてくれるのか」

「答えられることなら」

「なら、どうしてSSがブルームにある? なんでお前らがそれに乗って、俺と戦ってるんだ?」

「勘違いしてるよ、アスラン。私はアスランと戦っているわけではなくて、連邦と戦ってるの」

「同じことだろ!」


 屁理屈を言われた気がして、アスランが声を荒げる。

 記憶しているルリならば、アスランのこのトーンを聞いただけで身をすくめたものだ。

 けれど今は、そんな様子は微塵も見せず、ただ真っ直ぐに見返している。

 ルリのその態度が、何故だかアスランの癪に障った。


「同じじゃないよ、アスラン。どうして同じに出来るの? アスランは連邦の正規の軍人として私に銃を向けた。私がブルームのヴィマーナにいるからって。なのに、そのアスランがどうして個人を持ち出すの?」

「ルリ……お前、人の揚げ足をとって面白いのか」

「揚げ足をとっているわけじゃないよ、アスラン」


 思わずルリの口からも強い音がこぼれる。


「態度がチグハグだよ。軍人としてブルームのことを聞きたい、私を敵だって言ってるのに一方で、友達としてどうして銃を向ける、戦うんだって聞かれても、答えられないよ」

「なら、お前たちの幼馴染として聞くよ。どうしてお前たちがブルームに、ヴィマーナにいるんだよ」

「おかしなことじゃないでしょう。私とルカはブルームの人間なんだから」

「でも……帝国にいたじゃないか…」


 唇をかみ締めてアスランがうつむく。

 ルリに言葉を投げつけてみたが、聴くまでもなくその理由にアスラン自身も気が付いている。


 二年前の侵攻の際、民生委員たちはブルームを救うために、そして時間を稼ぐためにダイを人質として差し出した。

 それはダイも了解してのこと。

 けれど帝国の女帝は首脳陣が考えるより遥かに狡猾で策略家だった。

 ダイを人質としたところで、意味をなさないのは理解しており、次に求めたのはルリとルカだった。

 最初はルカを傀儡にしようと考えているのだと、ルリも思っていたしアスランもそう聞いた。

 だがその後、様々な事情を知るうちに、真意が別なのだと気が付いた。



 女帝が本当に欲しかったのはルリとルカだ。



 この二人を人質とすることで、カーディナルとカーディナルフェルに圧力をかけて、コクーンに対する援助を断とうとしていた。

 脅しではないことを表明するために、女帝はブルーム侵攻と同時に、とあるコクーンに対して攻撃を行い、わずか半日でコクーンひとつを消滅させてしまったのだ。

 それを見ていたコクーンは、明日はわが身だと思い、ルルにルリとルカの差出を迫った。

 コクーンをひとつにまとめようと奔走していたルルには痛手となり、そして連邦と帝国に属さず独立を訴えて地道に活動していたその行動は、すべてが一瞬で崩れてしまった。

 すべてを誰かの責任にするには、複雑に絡みあいすぎているのは、アスランも理解している。


「俺は……お前たちを助けたいだけなんだよ、ルリ」

「同じことの繰り返しを言うんだね、アスラン」

「それは…!」

「助けたいって思ってくれるのはすごく嬉しい。私だってアスランと一緒に行けるなら行きたい。アスランの言葉は嬉しいけど、でも……今のアスランでは私を助けることも出来ないし、私も一緒に行くつもりはない」

「それで俺と敵対するのか!」


 また、最初に戻ってしまったとアスランは唇をかみ締めた。

 アスランもルリも同じ事を思っているはずなのに言葉がかみ合わない。

 想いが重ならない。

 そのもどかしさと、苛立ちは次から次へとかみ合わない言葉となって飛び出していく。


「アスランと敵対してるわけじゃないって何度言っても、信じてもらえないよね」

「現にお前はSSに乗って俺と戦っただろ。あの砂漠で!」


 張り上げられた声は静かな聖堂の中を満たす。 

 いつも傍にいて、いつも笑いあえて、いつも手を握れたその距離が、今はとても遠く感じて今度はルリが唇をかみ締めた。

 戦いたいと思ったことなど一度もなく、誰かをその手にかけたいと思ったこともない。

 けれど一度、それを手にしてしまったら戻れないのだと身にしみた。

 誰かを助けたいと思う気持ちが、他の誰かを傷つける行為でもあるということを、見せ付けられて知ってしまった。

 覚悟など今でもないけれど、それでも今は譲れないものがある。誰かを犠牲にしても守りたいものがある。


「絶対的に正しい答え、ゆるぎない正義」などないことを、ルリは感覚的に気づいてしまった。

 けれど、それをアスランにどう伝えればいいのか判らないし伝えたところで意味もない。

 自分とアスランは立場が違い立っている場所も違う。

 本能的に感覚的に理解をしていても、想いや思い出が邪魔をして、ルリも言葉を旨く紡ぎ出せない。


「あの時、戦わなかったら…私たちはどうなっていたの。連邦の捕虜? 二年前…帝国の理不尽な理由で侵攻を受けて、私とルカは帝国に膝をついた。だけど、言いなりになるつもりはなかった。でもね、それでも私たちはまだましだと思える生活をしていたの。贅沢を言えるほどの食事も何もかも与えられていたから。ブルームに残された人たちが、どれ程ひどい生活を強いられたのか、アスランは知っているの? 自分の代わりに目の前で誰かが殺される言いようのない想いをアスランは判ってるの? あの人たちを救いたい、守りたいのは当然でしょう」

「そんなこと俺だって見てきたよ。仲間が死ぬのも見てきたし、戦争の悲惨さだって知ってる。ルリが偉そうに俺に言ってること俺だって知ってるさ。だからこそ、連邦は帝国と戦争してるんだから」

「それがおかしいとは思わないの、アスラン。連邦のすることは全て正しいことなの。私にはそう思えない。帝国も連邦もしていることは同じでしょう」


 決め付けられて、アスランがむっとしたように黙り込んだ。

 アスラン自身もタイスとよく語っているように連邦に理屈に合わない部分が存在しているのは薄々気が付いている。 けれど、自分の立場上それを認めてしまうことができない。


「私から見たら、連邦も帝国も同じ事をしている。下手をしたら帝国よりも連邦のほうがタチが悪いわ」

「理由を言ってみろよ、お前がブルームの解放戦線のメンバーとして戦うだけの理由を。理由がなければ、お前のしていることも結局は同じだろ。ブルームにしたって、本当に連邦に認めてもらいたいなら、武装解除でもなんでもすればいい」


 自分でも理不尽で意味のない言葉だとわかっていたが、唇から飛びした言葉は戻ることがない。

 言ってしまった後で、アスランの心に言いようのない不安と、自己嫌悪が襲ってきた。

 言い過ぎたと誤ろうとしたが、謝罪の言葉が唇を揺らすことはなかった。

 先ほどまで、憂いの含まれていたルリの瞳に、凛とした輝きが宿っている。


「なら問うけれど、話し合いが必要だというのなら何故、連邦はブルームに攻撃を仕掛けているの。武装解除を通知しておきながら自分たちは武力を持って日々攻撃を激化させる。ブルームが何故、連邦に膝を折らなければならないの」

「………」

「帝国が侵攻してきたとき、ブルームを解放するという名目で連邦は武力介入をしてきた。残された難民に手を差し伸べることもないまま、帝国同様にブルームを蹂躙しておいて、解放を謳われたって信用できるはずもないでしょう。だから、私から見たら帝国も連邦も同じよ」

「でも、だからって、お前たちがどうして戦争に参加した。理由にならないだろう」

「なるわ。私とルカは、帝国の言いなりになるのは嫌だった。連邦側の政治の道具にされるのも嫌だった。未来が全部閉ざされて選べる道が無くて、逃げても捕まるのも判ってた……帝国も連邦も、どっちが正しくて間違ってるとか、一概には確かに言えない……。最初はもう一度、平和で戦争なんて知らなかった時代に戻りたいだけだったの。でも現実を知ったら、そんなことあり得ないって判ったら。…私はブルームの一員なんだから」


 ひどく疲れたような弱弱しい言葉に、アスランはやっと銃を下ろした。







 喧騒の中をルカとラシードは並んで歩きながら、ルリがいるという聖堂に向かった。



 屋敷の主の身柄を取引の条件にしてきた例の人物は、ルルと対を張るほど狡猾な人物だとルカが評したが、それも当然だとラシードには思えた。

 なんといっても、その人物はその世界では有名でラシードすらも手を焼いたのだ。

 一方のルルにもラシードは手を焼いたことがあるので、どっちもどっちだと思う。

 だからこそルカは、自分の母親でありながらコクーンの雌狐と呼ぶのだ。


「これでまた、連邦は孤立する」

「だろうな。ルルの狙いもそこだといっていた。帝国と連邦の両方を相手にしなければならないのなら、先に痛みの少ない相手を倒したいと」

「当然だろうね。今の帝国とサシでやったとしても、勝てる見込みは限りなく低くて、痛み分けにすら出来ないと思うよ。下手をしたらブルームどころか、コクーンも跡形もなくなっちゃう。帝国は表向きはブルームの独立を認めて、議会にもいい顔をしてるんだし、刺激しないほうが得策だよ。それに女帝も連邦が邪魔で仕方ないみたいだし、あちらはあちらで、高みの見物してるんだろうしね」


 幾度か人にぶつかりそうになりながらも、ルカとラシードが人を縫うように歩き途中すれ違った仲間から、ルリがまだ聖堂にいること、身の危険がないことを知らされて、その歩みをほんの少し緩めた。

 陽が翳り始めたとはいえ、太陽が注ぎ続ける光は体にまとわり付くように暑く、フードの下の肌から汗が流れている。



「喉が渇いた…」

「ほら」


 ラシードが手に持っていたパックを渡すと、ルカの表情が瞬間的に明るくなる。

 先ほど屋敷で見せた顔からは想像もつかないほどのあどけなさに、何度も身近で見ているにもかかわらず、その変わり身の早さに感心する。

 ルカもこのような表情を見せている時は、年相応の少年に見える。


「でもさ……なんか引っかかるんだよね…僕」

「実は俺もだ。ただ、そのなんかが何なのかわからんが。まあ、これから例の作戦が開始されるまでは、何事も起こらないと願いたいが…」

「難しいだろうね……自分の幼馴染の身内を悪く言いたくないけどさ、アスランのお爺ちゃん。このまま素直に引き下がってくれるような相手じゃないよ」


 ルクからローダデイル家の話を打ち明けられて、一番驚いたのは、アスラン達の父方の祖父が、あのザリオドル・ドーマスカーだという事実だ。


 アスランがドーマスカーの姓を名乗ったこともなければ、聞いたこともなかった。

 

 隠し事もなく裏表もない、風通しのいい隣同士の幼馴染だとは思っていたけれど、よもやこれほどの重要な事柄を黙っているとは思っていなかった。

 かくゆうルカも、ルルのしていることやカーディナルフェルのこと、そしてフラーミングとの事などをアスランに打ち明けたことなどなかったから、お互い様といえばお互い様だ。

 あのアスランが隠し事が下手そうに見えて、実はとんでもなく上手なのだと驚いた。

 ルクならばなんとなく理解も出来る。

 飄々として大雑把に見えて、実はフットワークも軽く決断も早い。

 しかも本心を隠したいときや悟られたくない時は、本当に上手に雲隠れもするし、人をからかう事も忘れない。

 けれどルカの知っているアスランは、どちらかと問われたら一直線タイプ。

 相手によって態度を切り替えることが出来るほどに器用であった記憶もない。

 アスランがもう少し器用に立ち回れているならば、もっと別の再会の仕方もあったと思うし、もっと別なところにある問題も解決できたかもしれない。



「そのご老体、お前とルリを殺そうとしてるんだろ」

「ついでにママもね」


 ルルが命を狙われるのは今に始まったことではない。

 彼女がカーディナルフェルを父親から継いだ当初より、日常的に起こってきたことで、事実上彼女がフェルの実験を握ったときからより一層激しくなった。

 今では、帝国も連邦も直接手を出せないほどの大物になったことから、かえって命を狙われている。

 それはカーディナルフェルの財力と有している技術力がコクーンサイドに立っているカーディナルフェルからコクーンに流れて、自分達をいずれ脅かすのではないかという不安もある。


「帝国の女帝といい、連邦のご老体といい、懲りないというか、やっぱりというか、いい加減にしろというか」

「でもさ、ママの会社みたいにその戦争のおかげで潤って、それがコクーンに流れて、果てはその利権で揉めてって…メビウスなんだから、仕方ないけど。たださ…ママと女帝の問題は、すっごく判りやすいんだけどね」

「…そうだな」


 ラシードのため息交じりの声は、雑踏の中で消えた。





 

 目の前で拘束され、数人の女性によって連行されるマリーを見て、アッシュは両の手を爪が手のひらに食い込むほどに握り締められた。

 後ろでは上司のマイケルが「今は耐えろ」と語りかけてきたが、こみ上げる怒りは体を通して震えとなった。

 数分前、マリーはまたもや雑務を押し付けられて、アッシュに書類を届けに来ていたのだが、数人の監察官が礼状を携えてやってきたときも、いつものマリーだった。


「身柄を拘束し本部に連行します」という言葉を聴いたときも冷静で、言い訳も弁解もその口からは出てこなかった。

 アッシュが「どういうことだ」と声を張り上げて迫ったときも「静かにしてください、少尉」とまるで他人事のように呟いた。

 その冷静さと落ち着きに、アッシュは言葉を失い立ち尽くすことしか出来なかった。

 後ろに回した手に拘束のための手錠がはめられているのを見て、マリーに好意的だった乗務員からは抗議の声が上がったが、「邪魔をすれば同罪とみなします」と言われ、誰もが押し黙ることしか出来なかった。


「アッシュ、頑張ってね」


 微かに微笑んで告げられても、アッシュは笑みを返すことも出来ず、唇をかみ締めるだけだった。

 脳裏には、死んだ父の亡骸を抱きしめて泣く母の姿が、まるで昨日のように思い出された。


 今も、昔も。


 ただ、見送って、ただ唇をかみ締めることしか出来ない自分に苛立ち、何度も同じ事を繰り返そうとしているこの組織にも苛立ち何より何も出来ない自分が一番、憎かった



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ