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seek one's fate  作者: 六軒さくみ


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44/59

*歪む戦場4*

「なんだよ! 策敵、なんで攻撃がわからなかった!」


 怒鳴り声を上げたところで敵の攻撃が待ってくれるはずも、そして敵の攻撃がそれてくれるわけでもないが、それでも怒鳴らずにはいられなかった。

 滅多に発せられないルクの怒号に策敵を担当していたオペレーターが顔面蒼白の様相で、モニターを見つめるが涙で霞んでまともに見ることも出来ない。

 艦長席に立ち上がって、各クルーに指示を与えてもこれが実戦の怖さなのか、誰もが浮き足立って収集が付かない。


(まったく!)


 ルクは久しぶりに上げた怒号のせいでズキズキと痛むコメカミを押さえつつ、操舵担当に艦を右に大きく進路を執るように命令して、艦内に攻撃態勢の命令を下す。

 ところが、実戦を経験しているはずの操舵担当者にまで不慣れなオペレーターの極度の緊張が伝染したのか、指示と逆の方向に船首を向けようとするのを見て、ルクの右腕として一緒に艦に乗り込んでいたラシエルが舌打ちしながら操舵を奪い取り、その席から声を張り上げる。


「艦長代理! ここは引いた方がいい」


 その言葉にルクが頭の後ろをかく。ルクも引けるなら引きたいし逃げられるのならば、全速力でこの場を逃げ出したい。


「この状況でどうやって引くよ」

「それを考えるのが艦長の役目なんじゃないですか! 先輩」


 ラシエルが少佐ではなく先輩と呼んだことは、役職や肩書きなどに拘らないタチなのでこの際、聞き流すことにして艦長の役目という単語には反応した。

「だから俺は嫌だったんだ」と大声を張り上げて自己弁護をしたいところだが、自分の指示次第で乗艦している艦内のクルー全員の命が掛かっているかと思うと、自己弁護などしている場合ではないと意識を切り替える。


「この空域なら、使えるか! ラシエル、ここは任せた。今からお前が艦長代行」


 先ほどまで義務だの、責任だのと心の中で自分を律していたルクは、とある方法に思いつくとどこか楽しげに自分の職務をあっさりと放棄して、艦長席から身を翻すとラシエルが振り向く間もなく、ルクの姿はブリッジから消えた。

 行き先の目星はついたものの、この状況下で自分に全てを丸投げしたルクに、恨みの念がわき起こってラシエルは再び盛大に舌打ちした。


 正式な艦長が不在のこの艦で、次から次へと艦長が交代していくという本来ならば考えられないような不祥事。

下手をしたならば職務放棄ともとれるルクの行動に、誰もかれもが異論など唱えている暇も、そしてそれを進言する間もないことは明白。

 実は、自分に全てを丸投げするためにルクが何もかも計算尽くで、この機を狙っていたのではないかとラシエルは勘ぐりたくなる。

 だが、逆を言えばルクしか戦闘員がいないことはルク自身が一番判っているのだから、さすがにそんな大それたことをする人ではない。

 ルクという人物の人となりをラシエルも分かっているから、ひとまず自分の心に渦巻いた理不尽さに対する不平不満は封印することにする。


「艦長代理はSSの格納庫だ。オペレーター、SSの発進に伴う誘導シークエンスを立ち上げろ。策敵、発射軌道の確認と空域の情報を転送、整備部に通信繋げ」


 ラシエルが隣の席のオペレーターからインカムを奪うようにして自分の頭に引っかける。

同時に艦橋のモニターにルクの暢気な顔が映し出されて、ラシエルは怒りよりも脱力感にさいなまれた。


「艦長代理が出撃してどうするつもりですか! この艦の責任者はあなたですよ!」


 ラシエルの大声がモニター越しにも届いたかのように軽く耳をふさいだルクが、僅かに申し訳なさそうな表情を見せすぐに切り替わっていつもの陽気で飄々とした表情を作る。

 ラシエルの張り上げた声も、責任の所在を問いただす嫌味も柳に風。


「ここは、一応は、軍隊なんですよ、先輩だってそれくらいは解ってるでしょ!」

『仕方ないだろ、この状況じゃ。この1艘だけでやれることなんて程度が知れてるぞ。相手は臨戦態勢で迫ってるんだ。規律がどうの、規則がどうの言ってたって始まらないだろ、というか終わっちまう』


 ルクの言いたいことはラシエルも重々解ってはいるが納得できるわけではないのだ。

 たった一言で艦長席を提示された身としては。


『ブルームだって今は立て直し最中で、軍って言ったってまだいろんな意味で緩いんだから、ここが緩くても問題ない!』

(問題大ありですよ!) 


 反論したいのは山々であったラシエルだが、この状況下でそれが許される時間もない。


「始末書や報告書の類は全部、あなたが責任をとってくださいよ! 艦長代理。格納庫の準備が整ったそうです、出撃なさいますか?」

『さんきゅ。そんなに心配するなって。この空域なら最悪飛ばされても敵艦隊と遭遇する前に回収してもらえるだろしな。それにこの艦には攻撃機も護衛機もないんだし最低限の迎撃しか付いてない。艦を沈めたくなかったら仕方ないだろ』

「それにしたって、手順や段取りという物があるんですよ」


 話を蒸し返しそうなラシエルに「ストップ」いう意味を含めてルクが右腕を上げる。


『この後に及んでごちゃごちゃ言っても始まらないだろう。とにかく俺が出撃する。出撃援護の後の攻撃は後方を重視、左側の警戒も怠るな。それから出来ればこのまま軌道の確保を確認して地球に降りたい。最短ルートを割り出してくれ、後は頼んだぞ』


 ルクが親指を立てて満面の笑みで通信を切断する。

 そのあまりの笑みにラシエルはぶつけてやろうと思っていた言葉を飲み込むほか無かった。

 以前「あの男、都合が悪くなるといつも逃げるんだから」と盛大に文句を言っていたことを唐突に思い出し、このときばかりはアナに同情した。 

 ただラシエルにとって最大の救いなのは、整備部を統べている人物が戦闘経験が豊富なことだ。

 元は帝国軍の優秀な技術者であったその人物は、帝国の皇位継承を巡って起こった内乱に嫌気が差し、月の動乱を利用してブルームに亡命した。


 その後、どのような経緯かは定かではないが、月にあるカーディナルフェル家の研究所で戦闘機などの開発に携わり、そして月の防衛軍の技術主任として前線にも参加していたのだ。

 だからこの状況を詳細に説明しなくても全てを諒解した模様で「後はまかせておけ」と、白いものが混じり始めた髪をなで回してから、ニヤリと笑った。

 およそ、ラシエルが想像している科学者とはまったく真逆の人物であるが、信用という面に置いて、そして技術者としてその腕に間違いはない。


「こちらの対応は大丈夫だ」


 モニターからは整備部の人間達が彼の指示を受けてまさに一糸乱れぬという言葉どおりに動き回っていて、誰一人右往左往している人物はいない。

 この艦が完成し乗務員を決めるときに、その任をコウキから一任されたルクが、一番最初に彼を名指したのはよく分かる気がした。

 艦橋と比べれば雲泥の差だ。

 この戦闘が無事に終わってなんとか逃げ延びれたのなら、まず艦内の規則と規律と編成を組み直さなければならないと、ラシエルが考えていると、一人のオペレーターの声がした。

 この艦で出撃する兵士達の発射シークエンスを担当するオペレーターで整備主任ボブの一人娘だ。


「艦長代行! これよりリンク開始します」

『よし、全員ライン待避。格納庫開閉確認。ルク、無事に帰ってこいよ』







「ルリ!」


 艦が大きく揺れて、簡易ベッドに腰掛けていたルリがふわりと体を浮かせる。

 一時間ほど前にルクの第一次戦闘準備という艦内放送が聞こえてから、艦内は騒然として人々が忙しそうに行き交い、各自の持ち場につく姿をルリもルカもそれをどこか現実感を持てないままに見つめていた。

 艦内で民間人としての立場で乗艦しているのは、ルリとルカだけで戦闘配備を命令されても、特別する事もないのは当たり前だ。かといって何をどうすればいいのかも判らないから、やはり見つめることしかできなかった。

 展望室にいた二人はルクから戦闘配備が解除するまでは部屋から一歩も出るなと厳命された。

この場において役に立たないことも、することがないことも理解していたので、ルクのその言いつけに素直に従って二人はルクの部屋に避難した。

 居住区の各ブロックのシャッターは降り、部屋にある小さな窓もシャッターがおり外を見ることも出来ない。

 最低限に照明が灯されただけの閉鎖された空間で、部屋に設けられているモニターの画面だけが異様な眩しさを持って目に飛び込んできた。



「戦闘が始まってるんだから、ちゃんと体を固定して」


 ルリの浮いた体を自分に抱き寄せて、ルカは腕の中にルリを抱いたまま固定するためにベルトをまわそうとするが、ルリがその腕をすり抜ける。


「ルリ、危ないよ!」


 再三の注意にも耳を貸さないルリにしびれをきらしたルカがルリを連れ戻そうとするが、ルリが見つめているモニターの映像を見て、自分もそれを食い入るように見つめる。

 先ほどまで映し出されていたのは、部屋の廊下だったはずだが、ルリがいつの間にか切り替えていたのか、外の映像が映し出されていた。

ルカがふと頭に浮かんだ疑問を口にする。


「ルリ、この映像って……」

「うん、艦橋の」

「なんで、ここで……」


「見られるの?」と続けようとして、自分の腕の中にいるルリを見つめる。

 この頃、ルリには驚かされてばかりいる。


「あれは連邦のSS部隊?」

「……アスランが乗っていたのと同型機だし多分…さっき、ルク兄が出撃してった」

「え?」


 小さなモニターに目をこらしてみれば、確かにそれらしい機体が動いているのが見えた。

 ルリとルカが乗艦している艦が、攻撃的な武器を積んでいないことはルカも承知している。

 確かにあれを使うのが一番の得策である。

 だが援護も殆どないこの状態で、連邦のSS部隊を1機で相手にするには少し、いやかなり無謀な賭に近い。


「なんで……こんなになるまで気づかなかったんだろ、これだけの編成なら、もっと早くに気づきそうなのに……」


 浮かんだ疑問を口にしたルカは、自分のその言葉に心がざわつく感じがした。

 気が付かないはずがない。

 一時間前に遭遇すると艦内放送が流れていたのだし、艦橋内だってそれに備えていたはずで、一見優男に見えてルクは目端が利き機知もある。

 そのルクがこんな状況下を生み出すはずがない。それを思うとルカの胸が先ほどよりもひどくざわつく。

 そのざわつきを押さえ込もうとしてルカは腕に抱きしめているルリをより一層強く抱きしめた。


「ルク兄は大丈夫かな。敵機は何機いるのかルリは見えた?」

「新型機……アスランの機体と同型機が2機と汎用機が5機、攻撃機が3機だった……それに見て……」


 ルリの指さすモニターの下の方に、艦橋内で使用しているオペレーターの情報が字幕として流れている。 

 間違いなく、この映像は艦橋内の人間が共有しているサブモニターの映像だ。

 どこからそんなものを引っ張ってきたのか、ルカは一瞬そちらの方に不安を覚えた。


(ルク兄にばれたら僕が怒られるんだよ、ルリ!)

「相手の艦隊は……3艘なんだね。今の空域なら……上手くいけばここから降下できるのかな」


 下の方に見える座標をなぞるとルリが「どうして?」という顔をして振り返る。

 こんな薄暗い空間なのに、ルカと同じ瞳の色なのに、やけに綺麗だ。


「その前に敵の増援部隊が出てこなければの話だけど」

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