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seek one's fate  作者: 六軒さくみ


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39/59

*待ち受ける現実7*

ルルはもう一度盛大に、それも至ってわざとらしくため息を吐いた。

決して豪華ともいえないが、かといって質素とも言えない応接室は今、ルルの吐き出したため息だけが充満している。


「なぜ、そのような発言が出てくるのですか?」

「なら、なぜ地球は我々の物資補給路を絶ったのです!それもこれもブルームが悪い」


 感情的になって叫ぶ人物に視線を向けて、ルルは再びため息を吐いた。


「子供の喧嘩ではないのですから冷静に話をしましょう。ブルームが悪いとか、どこかが悪いとか、そんな非生産的な発言を繰り返すだけでは、何事も前進しません」

「あなたは裕福だから、そんなことを言えるんだ!」


 ルルが視線を上げたので、ここまで言われて怒ったのかと、内心では、ほくそ笑んだのだが、彼の企みはルルの「お話にならないわ」との一言で切り捨てられてしまった。

そして、二の句を告げようとした時、ルルは立ち上がると、


「あなたの意見は解りました。それがこちらの見解だと受け止めておきます。ですが何も知らず、知らされずあの攻撃で命を落とした人間が気の毒でなりません。二度、同じ事が出来るとは思わずにいて下さい。今度、同じ事をなさった場合は、それなりの覚悟をして戴きます。これはコクーン共和国の一致意見としてとらえて下さい」

 

言われた言葉の意味を彼が認識する前に、ルルは扉に手をかけて捨て台詞を言い放つ。



「援軍のない兵糧責めには勝ち目はありませんよ」



 ルルに突然退席された彼は、自分の思惑が何一つ上手くいかなかった事にやっと気が付くと、今度は急に不安になったが、追い掛けるだけの勇気もなかった。

 予定より早く切り上げて、コクーン第6区シュアトの港にルルが戻ったとき、そこに姿を現したのは6区の代表を、先ほどの彼を後見している一人の人物で「テロリスト」等と呼ばれていた時期もある男だった。

 年の頃なら五〇代の、体躯がいいであるとか、颯爽としているであるとか、そのような特徴的容姿もない極々一般的。

一見しただけではとても「テロリスト」の親玉だと言われても俄には信じがたい。


「私を殺しても状況は変わりません。味方のいない兵糧攻めは昨今、成功したことがありません。それに、共和国の彼も馬鹿ではありません。しかも演技派であることはあなたも承知しているはずです。他の宇宙生活者のために嘘泣きをしながら6区を捨てるでしょう」

「……!」

「あなたも状況は解っていると思いますから、あえて言います。他のコクーン民に迷惑が及ぶならば、難民も出ないほどにここは捨てられます。意味はおわかりね」


 ルルははっきりと「第6区の全員を見捨てる」と言っている。

それを聞いた彼は苦虫をつぶした顔を一瞬だけ見せたが持ち得る自制心で表情を取り繕う。


「武装中立のどこが悪い…」

「悪いとは言っていません。馬鹿だと言っているのです。中立には二通りあります。ブルームのように完全に武力を捨て、内外にそれを示しどこにも組しないことを示すのと、あなた達が行っている武装中立と。前者を貫いていたブルームは中立を貫くために、二年前焼かれました。中立というのは、現実にはとても厳しいものです。その理念はたとえ国を焼かれても「組しない」ということです。ですから武装し、国を守るというのはこれも正しい選択ですが、それが出来るのは地球上に領土があるからです。たった1発のミサイルですべてが終わるコクーンとは違うからです。それを冷静に考えて、返事を待っています」


 ルルはそう言い残すと、自分の専用シャトルに乗り込んだ。

元々「彼」と話をするためにここに出向いてきたのだから話さえ終わってしまえばもう、ここにいる意味もない。  

 ルルのシャトルの出発を見つめている彼に優雅に一礼をすると、彼が何かを諦めたように一礼をしかえしてきた。











「政治のことは俺にも正直よくわからん。自慢じゃないがそっち方面の成績がよかったためしがない」


 大げさに首を振りながら呟くルクの言葉に嘘はない。

 事実、ブルームガーデンにいた頃も、上級アカデミーにいた頃も、表面上は上手に取り繕っていたものの、その方面に明るかったわけでも、自分から明るくなろうともルクは思っていなかった。

 机の上の膨大な資料や情報、はたまた相手の顔色をうかがいつつ自分の腹を隠すなどというのが大の苦手だったのだ。

そもそもそちらに対して明るいならば、父親と同じ道を歩んでいたはずなのだ。

だから、ルクの呟きはもっともでそれを聞いたルカが思わず吹き出してしまったくらいだ。


「でもさ、最低限の世界情勢くらいはわかるでしょ?」

「各国の軍力ならすぐに答えられるけどな」

「ごまかさないでよ、ルク兄。そのごまかしは今のルリには通用しないよ」

「………」

「あれから一ヶ月だよ? その間に月に対する攻撃だって激化したし、コウキさんの演説も聴いた……もう仕方ないよ」

「で、あれか?」

「うん。最近は殆ど毎日……」


 二人の視線の時にはルリがいる。

 月からほんの少し離れた場所にあるカーディナルフェル家の技術研究所の造船部にルリはいて、今まさに完成しようとしているとあるものを、見学ブースから見下ろしていた。

 何時間もただそうして見つめているだけで、何かを発言するわけでもない。

ただ、こうしてじっと見ている。



 ルクが自分たちが連邦のドーマスカー大臣の血縁者であることを打ち明けた日から一ヶ月。



 ブルームも月もコクーンも、地球も、情勢は刻一刻と変わりつつある。

 連邦の妨害や帝国の攻撃などで、地球の情勢が月にリアルタイムで伝えられることはなくなっていたが、どうしてだかルリは詳細に現状を知り得ていて毎晩、毎晩、ルカは衝撃を受けている。


「議会は……どうなったの?」

「もともとブルームが議長国だった頃から、まあいろいろあったらしいけどな。今は、中立国のディナル公国にある。あそこはもともと宗教都市だし、打って付けではあるけどな…」

「だけど、他宗教にしてみれば、それはそれで問題だよね」

「ブルームとディナルしかないってーのが、問題だよな」


 ルカから渡された飲み物で喉を潤すと、本日コウキから送られていた命令文に目を通す。


「出航はいつなの?」

「一週間後だ。月の治安維持部隊として正式にブルーム暫定政権に出向という形になる。その後は、ブルームが認められれば、ブルーム正規軍になるのか? 元々は軍籍だし、その辺には拘らない」

「少しは拘った方がよくないの? ルク兄」


 ルカが呆れて進言するが、ルクはどこ吹く風だ、とばかり、ほんの少し口元をゆがめただけで、受け流した。


「……でもよく帝国が治安維持を月に委任することを認めたよね。僕の知ってるあの女帝からは考えられないんだけど」

「その辺りは俺にもよくわからん。が、解りたくもないねぇ」

「僕は結構知りたいけどね。好奇心かな? でも過ぎた好奇心は身を滅ぼすっていうから、のぞき見するのは止めてるけどね。連邦とはやることになったんでしょ」

「……ああ。連邦が認めないのは分かり切っていたからな。帝国も今は手を引いてるけど、どうだろうな。理由なんていくらでも作れるから我慢できなくなるだろう」


 空になったドリンクをルカに返すとルクは、椅子から立ち上がり、ルリの背中に向かって歩いていく。

 そしてそのまま後ろから近寄り、右腕でルリの肩を抱きつつ横に並んだ。


「随分と大きめの戦艦だな……間に合うのか、これ?」

「……中はもう完成してた。後は塗装だけみたい。さっきは、月の印をいれるかブルームの印を入れるか揉めてた」


 耐火ガラスに鼻先をくっつけて凝視してみれば、確かに下の方でなにやら揉めている。


「揉めてる時間なんてあるのか? まあ、軍艦なんだしカラーなんてなくてもいい気がするけど……強度の問題もあるしな」

「………白と青で統一するって、あの艦」

「え?」

「ブルームの青と、月の白で統一するって……ルク兄、地球に戻るんでしょう、あれで」

「ああ。まあ、正式に辞令が下りちまったしな」


 下でまだ揉めている数人を見下ろして「おいおい」と呟いた声と、ルリの静かな声が重なって一瞬、ルリが何を言ったのか良く聞こえなかった。

 もう一度言ってくれという意味を含めて、ルリに視線を転じたのだが、そこには自分を見据えて微かに微笑んだルリがいた。

 だから、もう一度確かにはき出された言葉を理解するのにかなりの時間を要した。


「私も連れて行って。ブルームに。月の維持軍の一人として私も連れて行って…」










 モニター越しにもはっきりと解るほどに困惑しきったルクを見て、コウキは対応に苦慮するとばかにこちらも困惑した表情を浮かべていた。


「ルリは……自分が何を言っているのか理解しているのか」

「俺も確認しましたけど……志願すれば誰でもいいって聞いたよ。との一点張りで」

「……それを盾にとられたら何にも言えないが、私個人ならば認められないが…だが」

「解放軍のトップとしてなら認める、ですか」


 やっとどちらの印を入れるか決着が付いた新造された、ヴィマーナと名付けられた高速戦闘艦の中で、繋がったばかりの通信は、今までルクが乗ってきた戦艦よりもクリアな画像を送ってきている。


「トップとしてなら、認めざる得ないだろう。彼女のデータには嘘がない」

「ルリを戦闘に参加させるんですか?」

「そうは言っていない! が……」


 疲れたようにコウキがため息をついている。

 そのため息をつきたいのは自分だ、とばかりに、ルクはコウキを見やってから、やはり頭をかいた。


「正式に軍の教育も受けていないルリを連れて行くのは俺は反対なんですが、あの調子では」

「聞き分けてくれそうもないか。軍はそんな個人の事情に構っていられるほど余裕のある集団ではないぞ。と言いたいところだが……ルク、協力者という形で彼女の乗艦を認めよう」

「え? 認めるんですか?」


 思わず上げたルクの抗議の声をコウキは渋面を作ることで封印する。


「ドーマスカーは本気でルリとルカを狙っている。お前がこちらに来てしまったら、そちらが手数になる。どこが安全かと言われたら困るが、少なくともそちらよりは安全かもしれん」

「……なんかこう、しっくり来ないんですけれどね。それから、例の彼女の身元が分かりました。帝国ではなくブルームの人間でした。ですから、こちらは志願に問題はないと思います」

「あちら、こちら、そちらと、問題ばかりだな」


 コウキの洩らしたため息とルクのため息は同時だった。



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