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涼しさを求めて

 ユウは宇佐美の事があったので翌日から、またいつものネットカフェに戻った。

深夜割引10時間パックが終わる頃に店を出た。

しかし、持ち金は2万弱しかない。その中から、宿泊代だけで1日1500円の出費だ。シャワー、食事代を節約したとしても、収入の予定がまったくないので、そう何日も泊まれるものではない。

もし、このままこうして暮らしていれば、食べるものを買うお金もなくなってしまうだろう。一体どうすれば良いのだろうか。

ユウは発作的に強い不安に襲われる時がある。


ユウはポケットから宇佐美の名刺を取り出す。

つい昨日のことだが、今でも何だかしっくりしない。

助けてくれると勝手に期待した自分も悪かったのだが、とにかく宇佐美にこのどうしようもない状況を話しても何も変わらなかったのだ。

彼はボランティアと称して、わかりきったありきたりなことを説教して去っていった。

なんだろうかこの釈然としない思いは。

彼の自己満足に付き合わされただけではないのか。


そもそも自分が甘かったのだ。

出会ったばかりの赤の他人に、自分のここまでの経緯を恥ずかしげもなくベラベラとしゃべって、何かを期待する方が間違いだったのだ。

ユウはそう思うことにした。

そう思うと、ユウの心は反省と後悔に満ちてきた。今すぐにでも宇佐美の名刺を破り捨てたい気持ちになったが、彼の去り際に言った言葉が、かろうじてそれを思い留まらせた。



夏の朝の光はまぶしい。

ガラス張りのオフィスビルに太陽が反射して、暗いビルから出てきたユウを照らす。

乾燥した空気は、今日も暑くなりそうな予感をさせた。


ふらふらと朝の町を歩きながら、ユウは大田の事を考えた。

大田はきっと旧軍事基地とか史跡とか回ってるんだろうなと想像した。

今なら自分も歩いていけば旅に出れる。この有り金を持って、大田みたいにどこか遠くまで歩いて行ってみようか。などと頭をよぎったが、何処に行けばいいのか見当もつかず、特に行ってみたい場所もないことに気がつき、すぐにそのプランは打ち消された。


2時間ほど歩き、駅から駅へとあてもなく彷徨っていたら、3駅ほど来てしまった。

ユウの足はだるくなってきた。予感も当たり気温が上がり、暑さも限界になってきたので、

低価格で涼しくて、休めるところを探していた。

そんな時偶然、見覚えのある人を見つけた。


警備員の時一緒だった伴隊員である。

伴はランニングに半ズボンといった、裸の大将のような格好で、ユウの正面から商店街を逆に歩いて来た。

ユウは伴のシルエットと独特の存在感で遠めからでも気がついたが、伴はユウに気がついていないようだった。

1度一緒に飲んだだけで、仕事も辞めてしまったユウは素通りしようと思っていたが、近くまで寄ってくると、伴に気づかれてしまった。


「あれ、田中君じゃないか。」

「あっ、どうも。」

ユウは声をかけられて、初めて気づいたような振りをした。

なぜ、そんなことをしたのか自分でもよくわからないが、咄嗟にそうしてしまった。


「どうした、こんなところで、何やってるんだい?」

「伴さんこそ、何をやってるんですか。」


「ああ、俺は朝からずっとパチンコだよ。パチンコ。それより最近現場で会わないねぇ。」

「ええ。そうっすね。出てるんですか?」

ユウは軽くごまかした。


「出てないよ。もう少しで、出そうでから今そこのATMで金おろしてきたとこだよ。」

「へー。」

伴は腕組みをして顎で、銀行のATMコーナーの方をさした。


「これからどこ行の?」

「特に、ぶらぶらとしてるだけです。」



(!?)


ユウはその時伴について行って、パチンコ屋でただで涼もうと思いついた。


「ふーん。じゃあ、またね。」

行こうとする伴をユウは呼び止めた。

「あっ。俺も暇だし行こうかな…パチンコ。」


「なんだ、田中君もやるんだ。」

「ええ、最近全然やってないんですけど、久しぶりに行こうかと。」


ユウはとにかく暑かった。

早くこの暑さから開放されたかった。

それにきっと人恋しかったんだ。

結局、なんだかんだ言っても自分はさびしがり屋なのかも知れない。

ユウはそう思った。


伴と一緒に向かったのは商店街の端にある割と大きなホールだった。

自動ドアが開くと、台の爆音と共に、ひんやりと冷たい風がユウの体を包んだ。


「あーっ。涼しい。」

ユウは無意識のうちに口から出てしまった。

「ははは、ホントだよな。すずしぃー。」

伴も変なテンションで、ユウに続いて言った。


「そしたら、俺ここに台とってあるから。」

「えっ。ああ、それじゃあ。」


ユウは伴の近くの台を見るようなそぶりをしながら、島を移動し休憩コーナーへ向かった。

休憩コーナーには漫画本が置かれ、自販機も置いてあった。

ユウは伴が大きなホールで打っていてくれて助かったなと思った。休憩コーナーのないホールだと打つ気のないユウはうろうろしなきゃならないからだ。


それにしてもみんな考えることは同じなのか、休憩コーナーには結構な人がいた。

かろうじて座れたユウは、ただ黙って座っていた。

ネットカフェ難民のユウはたいていの漫画は読んでしまっているし、ジュースもいつもいやと言うほど飲めるので買う気もしない。

それに節約の為に、タバコも控えていたのだ。


ただ、黙って騒音と空気の悪い中に座っているのだ。

涼しいが為に。



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