1万円
「なんだ、ここにいたのか?どうした?やらないのか?」
一時間もしないうちに、伴がユウのところにやってきた。
「えっ。ああ、何か出そうな台がないからね。」
「ふーん。」
伴は不思議そうな顔をしてユウを見ていた。
「伴さんはどうなんです、出ましたか?」
「いや、それが1200回転以上はまっちゃって、もう5万もいかれてるんだが、あとちょっとなんだよ。ここまできては引き下がれないよ、出すまでは。今また金をおろしに行こうかと……。」
「最悪ですね。」
ユウには伴の行動が、信じられなかった。
どうせ、金をおろしに行くと言っても、キャッシングだろう。
「……。」
「……!?」
一瞬2人の間に不穏な空気が流れる。
「田中君金持ってる?」
「えっ。」
「今いくら持ってる?悪いんだけど、1万貸してくれない?後ですぐ返すから。」
「えっ。」
突然の伴のお願いに、ユウは困惑した。
「いや、わざわざ何度もおろしに行くのが面倒でさ。」
「もう辞めた方が、いいんじゃないっすか。」
「このままじゃ帰れないよ。もう生活費まで突っ込んじゃってるんだ。少しでも取り返さないと。頼むよ。マジ。ホントにすぐ返すし。」
「……。」
「そうだ、出たら1万1千円にして返すよ。」
「……。」
ユウには伴のはまり台が出るとも思えなかったが、後でおろして返してもらえばいいいと思い、
しぶしぶ財布から1万円を渡した。
「ありがと。恩にきるよ。」
「必ず返してくださいね。俺も金ないんですから。」
「もちろん。銀行には金はあるんだ。」
伴は、ユウの手から1万円札をひったくるように取ると、自分のやっていたはまり台の方に急いで、小走りするように戻っていった。
あれがパチンコ依存症者の姿なのだ。
1日に自分が稼げる収入の何倍もの金をあっという間にスッてしまう。
考えると恐ろしいものだ。
ユウは少しすると、伴の台が気になり様子を見に行った。
相変わらず出た様子はない。
伴は偉そうに足を組み、タバコを大きく吹かしていた。
ユウはしばらく、伴の後ろに立ち画面を見ていることにした。
伴がやっている台は、リーチどころかこれといった予告もでず、完全に沈黙モードだ。でる気配すらない。
「ぜんぜん、だめっぽいっすね。」
ユウは後ろから声をかける。
「へっへっ。必ずもうすぐ来る。嵐の前の静けさだよ。」
伴は何処にそんな根拠があるのか知らないが、もう五千円以上飲まれているのに平気な顔で言った。
「台変えた方がいいんじゃないんっか?」
「だめだめ。この台は回る。それに今移動して、ケツほられたらどんなにショックかわかるか?俺がここまで育てたのに。」
育てた?
確かに他の台よりはよく回っている気がしたが、ユウには伴が言っていることの意味がよくわからなかった。
ユウは見ているのに飽きて、伴の大当たりはあきらめて店内を少しうろついて、トイレに行った。他の台を見て回っても、そんなに出ている印象は受けなかった。
トイレから戻り再び休憩コーナーで、時間をつぶす。
ユウには退屈でも、こうして時間をつぶす他はない。
外は暑いし、特にやることもない。とにかく時間だけはたくさんあった。
その日、1日をどう夜まで過ごすかが重要なのだ。
暇に慣れている人間にとってパチンコ屋で、人間観察も悪くない。
気をつけてみてみると、この休憩コーナーにはそういった暇をもてあました人間が多いように感じた。事実みんな年寄りばかりなのである。
ユウはこの空間で、自分だけが若いことに少し違和感を覚えた。
もちろんパチンコ屋には、若い連中もたくさんいたが、そういった連中は遊戯に興じているか、
たいてい落ち着きがなく、すぐに席を立って行ってしまう。
目標とか、義務などなくて、何をやったらよいのかわからない人達。
とりあえずパチンコ屋に来てはみたがすぐに資金を使い切ってしまった者達。
そんなもの達のため息で満ちた空間。
殺伐としたパチンコ屋の休憩コーナーで、ユウは老人達とともに、無言で座っているのだ。
ユウはこのまま時間をつぶしながら、あと何十年も生きなければいけないのかと考えるとゾッとした。
しばらくしても、伴は戻ってこなかった。
ユウは痺れを切らして、伴のやっていた台の方へ向かった。
戻ってこないとゆうことは、大当たりを引いたのかもとしれないひそかに期待した。
だが、そこでユウが見たものは、まったく逆だった。
・・・・・・・伴がいない。!
「嘘だろ。」
ユウは思わず口にしていた。
伴は消えたのか。?
ユウに何も言わず帰ったのか?
先ほどまで、伴が座っていた席は、空席となっている。
ユウは混乱した。
もしかしたら、伴はユウの貸した一万円を使い切って、銀行に金を下ろしに行ったのではないだろうか?そう思い、ユウはとりあえず、伴の育てた台に腰掛けた。
台の上には伴の携帯も、タバコも置かれていない。
完全にこの台は捨てたのか?
ユウはあたりを見回す。それらしき人物は見当たらない。
何しろ伴は白いタンクトップに短パンの小太りだ、すぐ目に付く。
ユウが、キョロキョロと落ち着きなく周りを見回す。
やはり、いない。
どういうことだろう?
ユウの心臓は強く鼓動した。
嵌められた。
ユウは仕事で何度か会っただけの伴の連絡先は知らない。
ユウの少ない持ち金から、一万円寸借された。
ユウは、ジーパンの後ろのポケットから財布を出した。
中身を確認する。
全財産8,682円。
せっかく節約してきたのに、あっという間に半分以下。
ユウが、お金を数え終えて、呆然と台を見つめていると、
後ろから、何者かに右肩を叩かれた。
トントンと。…




