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 ユウと岡田は店を出ると、無言で駅の改札まで歩いてきた。

自動券売機の前でユウは不意に不安に襲われた。金額の書かれた路線図を見ていると、自分が何処へ行くべきか考えてしまう。ここ一ヶ月近く通った日雇い現場からサウナまでの帰り道とは違っていたからだ。つまりいつもの無意識のうちのルーティンワークから外れてしまったという不安が、心の中で大きくなっていたのだった。

先ほどまでの興奮もどこへやら、かなり酔っ払っていたはずの頭も一瞬にして冷めてしまった。言うところの我にかえった状態だった。

当前サウナにかえるべきだと考えたが、その考えをすんなりと受け入れない自分がいたのだった。


「どうかしたんですか?」

そんなユウの様子に気がついたのか、横で切符を買おうとしている岡田がユウに声をかけた。

「いや、なんでもない」

ユウはそう言って、小銭を自動券売機に入れた。

とりあえず160円だけ買うことにしたのだ。


「田中さん。もしかしてまだ飲み足りないんですか?一人でどっか行こうとか考えているとか」

二人で改札を抜けると、岡田が冗談めかして言った。

「いや、そうゆう訳じゃないんだけどね。なんかね…」


「まぁ、そうですよね。あんなことがあった訳ですし、なんかすっきりしないですよね」

「ああ、まぁ」

ユウは曖昧な返事をした。


「そういえば田中さんの家はどこでしたっけ?同じ方面かな?どこまで行くんです?」

「えっ?ああ新大久保だよ」

ユウはなんとなく適当なことを言った。このまま一人で孤独を味わいたくないがために、高田馬場場の近くで適当な地名を言ったのだ。そうすれば、岡田と電車が一緒なので少しは安心して、平常心を取り戻せるような気がした。

人恋しいのだ。

今までも色々な仕事で一緒に話すぐらいの仲間はいたが、それも仕事が一緒のうちだけ、どちらか一方が仕事を辞めたり、移動になったりすれば、一切疎遠になってしまうのだ。

ユウは明日からはまた一人で誰とも話さない日々を過ごさなくてはならないことを考えると、少しでも長く自分をかばってくれた岡田と共にいたかった。


「そうなんだ。じゃあ近いですね。どっかよって行きます?」

「どっかってどこだよ。もう腹いっぱいだし食えないよ。それにこんな時間からやっている飲み屋なんてそうそうないだろ」


「うーん。そうですね。だったら俺んち来ます?何もないですけど」

「えっ」

ユウにとって思ってもいない言葉だった。

「なんか、こんな気分のまますぐ寝る気がしなくて。すっかり酔いもさめちゃったし、寝酒に少しだけ飲みましょうよ。それに今日は行くんですよね。現場」

「えっ。ああ」

確かに派遣会社から言われていた岡田の仕事は今日までだった。ユウは勘違いしていた。もう日が明けているから今日とか昨日とかややこしいのだ。


「だったら。うちで休んで一緒に行きましょうよ。もう後何時間もないけど」

「そうだな。そうさせてもらおうかな」


「そうですよ。一人でくさくさしていてもしょうがないですから。まだ少し話しましょう」


ユウと岡田は高田馬場で降りると、岡田の家へ向かった。

岡田の家は駅から距離があるということだったが、途中でコンビ二によったり、なんだかんだと話しながら来たのでそう遠くには感じられなかった。。

細い私道ののような路地の先に、大きな柿の木があり、あまり手入れのされていない庭のようなスペースを抜けると築60年は経っていそうな木造の二階建ての建物が見える。

その建物は戦時中の学校のようにも見えた。

アパートの玄関今ではあまり見かけなくなった共同玄関で、引き戸が開け放たれているにも関わらず薄暗くて、住人のものと思われる靴が散乱していた。


「こんなとこまだあるんだなぁ」

共同玄関、共同便所のアパートに初めて入ったユウが思わず口にすると、岡田は笑いながら「ビックリしました?ぼろすぎて」と言った。

岡田の部屋は2階の三部屋の真ん中の部屋だった。

中には入ると岡田が何もないといっていた意味が少し理解できた。テレビはおろか、ラジカセのようなものもなく、右手に小さな流しとガスコンロが置けるスペースがあるだけで、本当に何もない四畳半だった。唯一荷物と呼べるようなものは窓際に干された洗濯物の部屋の隅につまれた洋服類、それとボストンバックだけだった。

そのためなのか4畳半でも案外広く感じられた。

ユウは部屋の中央に腰を下ろすと、部屋をぐるっと見回して買ってきたばかりの缶ビール2つをコンビニの袋から出して、畳の上にじかに置いた。

畳の上は座り心地はそう悪くはなかった。


「寝るときはどうするの?」

「あはは、俺んちまだ布団もないんですよ。だから厚着をしてこのジャンパーをかけて寝ます」

岡田はユウの前に腰を下ろしながら、平然と言った。

「寒くないのか?」

「寒くはないですよ。それにそこの下に電気ストーブがあるので、最悪はそれをつけます」


二人は缶ビールを開けて口をつけた。

岡田はつまみに買ってきた芋けんぴの袋を開いて置いた。

「へーすごいな。しかし、ここの家賃ていくらするんだ?」

「二万八千円です。かなり激安だと思いませんか?」

ユウにはそれが安いのか高いのかははっきりとは判断がつかなかった。


「今流行の漫画喫茶で過ごすより、だいぶ安いですよ。一日にしたら千円しないんだから、ただ漫画は読めないですけどね」

「そんなもんいらないだろ、どうしても読みたいのがあればブックオフで100円で買えばいいだろ」

確かにそういわれれば安いような気もした。


「生活用品とかそろえないの?」

「いや必要ないですよ。俺は金が貯まったらすぐ、ここを出るつもりですから。もう少しいいアパートに越してからそろえるつもりです。布団もその時でいいかなと思ってます。ベットを買おうと思っているんで」

そういいながら岡田はビールを啜った。

「ふーん。そうかぁ」

ユウは飲みすぎたためか、ビールは進まなかった。代わりに急に全身に疲れが回ったような気がした。ビールを床に置くと、足を伸ばして横になった。


「どうしたんですか?もう寝ますか。仕事きついですからね。4時になったら、ここを出ましょう」

そういいながら、岡田も体を横に倒した。


「ああ、そうだね」

ユウは古い天井についたしみのようなものを見ながら、返事をしてチラリと携帯の時計を見た。

もうお昼に近かった。

最後の仕事まで後、8時間か。

寂しさのあまりついてきてしまったが、ユウは何故だかよけいにむなしくなった。やっぱりサウナにかえればよかったかもなと思った。









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