行き違い?
アスカは真面目に働いた。
同僚の女の子達とも仲良くなり、だんだん仕事も楽しくなってきた。
きっかけは、店長の悪口からだった。
アスカが一緒に飲んでいるときに何気なく店長の愚痴を言ったのだ。そうしたらみんなも店長の事を良く思っていなかったらしく、会話が弾み仲良くなった。
共通の人の悪口は、仲良くなる一番のコミュニケーションツールだ。
長い間夜働いていて仲良い子もいたが、所詮は上辺の付き合い。お店が無くなってしまったり、別の店に移ってしまえば会う機会もなくなり自然と疎遠になってしまう。
キャバクラで一緒に働いていた子達は今何をやっているのかも知らない。まだ何ヶ月もたっていないのに、自分の事を覚えているかどうかさえ自信がもてなかった。
それに比べれば今一番仲のいい大島という子は違った。
その子達と比べれば見た目もあまりパッとせず、決してもてるタイプではなかったが、短く揃えられたショートカットがよく似合っていて、スッピンに近い化粧は好感が持てた。
彼女はアスカより3つ程年下だったが、仕事ができてはきはきとしていたので年の差を感じたことはなかった。むしろ先輩として尊敬すらしていた。
アスカは彼女とプライベートでも休みの日に遊んだり、一緒に酒を飲み人生の相談をしたりした。社交的な彼女を通して他の男性の同僚とも遊んだ。
年もみんなわりと近いので、まるで学校のクラブ活動でもしているかのような錯覚すら覚える。
アスカは遅れてきた青春を謳歌しているようだった。
一方で、アスカの母親の予感は当たりつつあった。
アスカは元来酒好きのだらしない性格。毎週飲み会に参加して、朝帰りはもしばしば、酷い時には帰らずにそのまま出勤し、休みの日もシフトがあった仲間と飲み歩き、ライトの面倒をあまり見なくなった。
シングルマザーとしてそれなりにストレスはあっただろうが、それにしても目に余るようだった。
楽しそうに働くアスカを見て、多少の嫉妬もあったのかも知れない。
アスカが帰って来るとついつい小言も多くなる。
「あのさー。あんたが何してようと文句を言うつもりはないんだけど、そんなことでどうするのこれから?」
夕べも飲みすぎて、昼過ぎになって起きてきたアスカに母親が声をかける。
アスカは今日は初めての遅番だった。
仕事も慣れてきたし、たまたま人手が足りなくなったのでついにアスカも遅番をやることになったのだ。
「はぁ?どうするって何が?」
「何がって。ライトのことよ。」
「ライトがどうかしたの?」
アスカは母親の言いたい事はわかっていたが、わざととぼけて答えた。
「どうかしたって事はないんじゃない。私はあんたに頼まれて仕事を辞めたのに、これじゃあ前とあんまり変わらないじゃない。夜は何処に行っているのかわからないし、あの子のために昼間の仕事を選んだんじゃないの。」
「しょうがないじゃない。こっちだって色々あるのよ。忙しいの。今日だって遅番なんだから、毎日遊び歩いているみたいに言わないでくれる。」
アスカはそういうと洗面台の前に行き顔を洗った。
母親は腹を立てたのか、洗面台の前まで着いてきて後ろから大きな声を出して言った。
「なんなのその言い方は、私はあんたに頼まれて仕事も辞めてるんだよ。別に養ってくれってこっちかっら頼んだわけじゃないし、私だってまだ若いんだから、自分の生活分ぐらい自分で生活できるけど。」
「あーそー。じゃあそうすればいいじゃない。好きにすれば。」
アスカは鏡の前で、右手で唇をあげて歯についたヤニをチェックしながら言った。
母親の言う小言が面倒くさいのだ。
「そうじゃあ言わせて貰うけどね。ここは私の家なんだけど。あんたもういい年なんだから、親の世話になっていないで、自分で生活すれば。」
アスカは母親のその言葉にカチンときた。
「はぁ。何?出ていけって事?」
「……。」
「もういいわ。わかった。お金が貯まったら出て行くから、お互い好きなように生きましょ。」
そこまで言うとアスカはそばにあったタオルで口を拭い、出かける準備を手早く済ませると初めての遅番に向かった。
職場についてもアスカの気分は悪いままだった。
最悪だ。
母親とのやり取りの件について反省する気はまったくなかった。
自分は真面目に昼間働いている。
こうして体がボロボロになるくらい文字通り肉体労働をしている。
それをあたかもちゃんとしていないように言うのは母親の偏見だ。
確かに最近飲みすぎた感はあるが、夜働いていた頃に比べれば僅かな息抜き。
その息抜きすら自由にできないのであれば、自分はあの昔から反吐が出るくらい嫌いだった団地を出て行くしかない。
自分は母親を心配して一緒に住んでいるつもりだったが、母親はそう思っていないらしい。
アスカは本当に一人暮らしを真剣に考えるようになった。
」




