眠れない夜
ネットカフェの夜は長い。
ユウは太田と違いネットゲームなどやらないので、大方寝るかボーっとして過ごす。
ナイトパック約12時間。
体が疲れていてすぐに眠れる時は良いのだが、寝付けない時は最悪だ。昼間もたいして忙しくもないのに、夜も暇を持て余す。
最初のうちは漫画を読んで時間を潰せたが、ほとんどの漫画は読んでしまった。それでも店内をうろつき昔の漫画で掘り出し物はないか探したりしてみる。何冊か手には取ってみるが、また元の位置に戻す。それの繰り返し。
読む漫画がない。
ネットカフェ難民でも寝床を転々とする人がいるのは、きっとこういった理由からだろう。
一口に漫画喫茶、ネットカフェと言っても置いてある漫画にかなり差がある。
ユウはあきれるように、手に取った漫画を本棚に戻すと、薄暗いたった2畳の自室に戻り、体をくの字に折るようにして横になって寝る態勢を整えた。
そして、うすべったいクッションを2つ折りにしてまくら代わりにすると、先ほどの太田とのやり取りについて考えだした。
それにしても太田は何がそんなに気にくわなかったのだろうか?
あの時は一人に戻りたくない寂しさからとりあえず謝ったが、ユウは自分がそんなに悪いことを言ったようには思えなかった。
太田のことを仲間だと思っているし、仲間には炊き出しに浮浪者達と一緒に並んでほしくない。
それに地道にコツコツと何度でも面接にチャレンジすることが何故悪いのだろうか?
確かに受からないし、太田の焦る気持ちもわかる。
しかし、現状の自分たちにはそうする他はないのではなかろうか。
これといって特に他にやることも思いつかない。
それが最善の道のはず。
そんなことを考えていると、だんだんとユウの気持ちは高ぶり、ますます寝付けなくなっていった。
今すぐでも、太田のいるブースに突撃して、激しく口論でもしたい気分だった。
ユウは何気なく携帯電話を開いて時間を確認する。
1時06分。
暗くされた店内ではまめに時間を確認しないと、時間の感覚すら失われてしまう。
今が朝方なのか、夜中なのか、携帯の液晶に表示されたデジタルの数字だけで認識する。
退室の時間まで、まだまだ先が長かった。
ユウは目を閉じて寝返りを打った。
一方太田も同じくして、眠れない夜を過ごしていた。
いつものようにネットゲームをやる気分ではなかった。
パソコンをいじってはみるもののどれも興味を惹かれない。
先ほどのユウとのやり取りが気になって、いまいちどれも集中できないでいたのだ。
神はいない。
大田は今まで何度もそう思ってきた。
努力が報われなかった時、絶望を味合わされた時、何故か自分だけが不幸な目にあってしまった時。
他にもことあるごとにそう思ってきた。
きっとユウも同じであろう。
それでももしかしたら、神様はいるのかも知れないという思いも完全には捨てきれないでいるユウは、言動の端々にそれがにじみ出ていた。
それがユウの甘さなのだ。
大田は自分とユウの決定的な違いは、現実をより現実的に考えられるかどうかだと思っていた。
ユウには何故かあまり危機感がない。
普通に努力して、真面目に面接に足しげく通えば、いつかは就職できるであろうという希望的観測を抱いている。
しかし実際、現実問題として、毎日面接に行って、へとへとになって足が棒になろうが、履歴書を丁寧な字で時間をかけて書こうが、ダメなものはダメ。
100社受けようが、1000社受けようがそんな努力は相手にとって関係ない。
受かる人間は努力しなくても一発で受かる。
もっと言えば顔がよければ受かる。
不公平なんですよ。世の中は。
大田はそのことをユウに伝えたい。
分かって欲しい。
例えば、学校のような筆記試験がきっちりとある場合は自分の実力を示せるが、多くの場合僅かな時間の面接のみ。(一度ボトムの住人になってしまってからは、面接してもらうのもやっとの状況だが。)
それでいて、ボトムの人間を面接してくれるような会社だから、その面接官もまた人を見る目がない場合が多いので、第一印象で決まってしまう。(質問もありきたりのものや、家からの通勤時間など簡単な質問ばかり。)
そうなるともう、美人やイケ面が選ばれる率が高くなる。ようは面接する側の顔の好みの問題。
大田のように自分の顔にコンプレックスがあるような人間はまず無理。
受からない。
だって現実にこれまでで一人も自分を好きになってくれた人間がいないんだもの。
好感をもたれるわけがない。
モチロン。色々研究して相手に好感をもたれるような話し方の勉強もしたし、服装を綺麗にする努力もした。
それでもダメ。
生まれ持ったベースが全てを台無しにしてしまう。
生まれながらにして、大きく差をつけられているのだ。
こんなことが許されて良いのだろうか?
こんな不平等な世の中に神などいるはずがない。
太田は明日から早速炊き出しに行くつもりで、ネットで炊き出しの情報を集め始めた。
2人の様々な思いを抱えながら、ボトムの住人の夜は更けていった。




