職安
マックを後にした大田とユウは早速ハローワークに相談に行った。ハローワークは相変わらずすごい人でごった返していた。番号札を貰い1時間半ほど待ってようやく現在の状況を相談すると、新しいセーフティーネットと書かれた赤いパンフレットを渡され、簡単な説明を受けた。生活支援は区市町村の生活安定応援窓口や社会福祉協議会を紹介され、ハローワークではとりあえず日払いありの仕事を探した方が言いと言われた。日払いの仕事はパソコンで検索するのではなく、別のフロアにファイルになってあると言われたので、言われたとおりそこへ行くとそこの担当者は知らないと言った。
ユウが再度確認して、担当者に詰め寄るとようやく他の人間に聞いてくれて「最近はあまり仕事がないからねー。」と言われ、ホッチキス止めのA4の用紙の束を渡された。膨大な量の仕事があるハローワークの中では実に薄っぺらいものである。
その中から2件ほど仕事を見繕って、また番号札を貰い今度は45分ほど待って紹介してもらうと、すでに定員一杯だと言われた。
その後も再度探しはしてみたが、結局収穫はなしだった。
(やっぱりな。)それがユウの感想である。いつもの事なのでユウはそれほど落胆しなかった。そんなに簡単ではないことは重々承知していたし、番号札を貰って待つのもなれたものだった。
ユウがそうしている間、一方大田はパートという形で面接を2つほど取り付けていた。惣菜やの仕事もここで見つけたので、コツみたいなものを掴んだのかもしれないようだった。
「なぁ、明日どうする市区町村の窓口に行ってみるか?」
ハローワークからの帰り道ユウは大田に話しかけた。
「いや、俺はいいよ。面倒くさい手続きもあるし、保護申請には実家の家族への扶養の確認もあるようだし、親には何も知られたくないからね。」
「そうかぁ。」
ユウは親と聞いて、何も言えなくなってしまった。ユウの家族は実家で普通に暮らしている。生活保護の確認の連絡などいけば間違いなく実家に帰ることになるだろう。
「それに実は俺、別の地域だが生活保護を貰っていたことがあるんだ。」
「えっ。本当か?初耳だな。いつだよ。」
「旅に出た後だよ。」
「……。」
それを聞くとユウの胸は酷く痛んだ。
大田はあの後今までどうやって暮らしていたのだろうか?とても気になったが、何もしてやれなかったユウには聞けなかった。その後の悲惨な状況や苦労は聞きたくないと言った方が正確な言い方かもしれない。
「そっちの書類の方がどうなっているかよく分からないから、もしこっちで生活相談などしたら不正受給で問題になってややこしいことがあるかもしれないし……。」
「そうなんだ。」
「ユウ君は行ってみれば。」
ユウは大田にそう言われ考え込んでしまった。
ユウは何処にでもいるような一般的な家庭の子供だった。父親はサラリーマンで母親は専業主婦の傍ら趣味を兼ねてパートに出るような普通の家庭。都心から少し離れた関東近県の住宅地にローンで買った一戸建てを持ち、休みの日にはレジャーに出かけるような絵にかいたような中流階級。だから世帯年収も決して低くない。両親になんだかんだ言われながらもニートも可能であろう。
だが、ユウは実家には決して帰りたくなかった。東京にやりたいことがあって夢を抱いているわけでも、好きな女の子に未練があるわけでもなかったが、実家には帰りたくなかった。
なぜならユウは両親が好きではないからだ。両親の性格が嫌いなのだ。
実の親子であるにも関わらず父親とはまったく意見があわなかったし、母親はヒステリックで口を開けばユウを嫌な気持ちにさせることしか言わなかった。きっと他人の気持ちというものが分からない人達なのである。
今まで散々世話になっておきながら勝手な言い分かもしれないが、今更あの2人と一つ屋根の下で暮らすなど考えられないことだった。母親から散々お金も借りまくっていたし、この年になって夜逃げまでした自分はどんなことを言われるか分かったものじゃない。
しかし、結局自分達の息子だから公的な機関から頼まれれば面倒はみるであろう。第三者が介入すれば外面だけはよくしようとするのである。たとえそれが2度と会うことのない市役所の職員だとしても、心を持ったやさしい両親を演じようとする。ああ普通の家庭だなと思われたいのである。
ユウが実家に帰れば、毎日ネチネチと嫌味を言われ、肩身の狭い思いをしながらストレスを溜め、結局言い争いをする日々が待っているだけだ。
そんなことは分かりきっている。
だからユウも申請は出せない。
「いや、俺もやめておくよ。もう就職活動はあきらめて、とりあえず日払いができる仕事を探すよ。」
ユウはそう答えると、そんな両親などいなければ平然と国の支援が受けられるのにと思ってしまった自分が怖くなった。
「行かないのか?でも今は日払いや週払いの仕事を見つけるのも大変だよ。」
「そうだね。分かってるよ。」
ユウがそう返すと、大田はそれ以上何も言わなかった。
大田はユウの表情から何かを感じ取ったのかもしれない。
駅の近くまで行くと、大田はナイトパックの時間まで図書館に行くと言って行ってしまった。一人残されたユウは荷物が置きっぱなしになっているサウナに荷物を取りに行き、電車の中で携帯電話で仕事を探した。
電車を降りると、冷たい風がユウの体にまとわりついていた。
12月の夕方はコートがないともう限界かもしれなかった。




