再会
数ヶ月ぶりに大田の携帯電話にユウから電話がかかってきた。
そして電話口でユウは大田に「頼みがある。」と言った。
聞き間違いではなく、確かにそう言った。あの格好つけのユウが自分にそんなことを言ってくるなんて、俄かに信じ固い状況である。
大田はユウの只ならぬ様子を察して、翌日会う約束をとりつけた。何か重大なことのような気がしたのだ。
大田の目標は(共同体に寄生できないボトムの住人を救うこと。)それは決意してからなんら変わっていなかったが、果たして今の自分に本当にそんなことができるだろうか?
自分自身も最悪な状況なのに、ユウの頼みを聞いてあげて力になってあげることはできるのだろうか?大田は不安だった。
ユウの頼みはある程度予想できた。きっとお金絡みのことだろう。今の世の中そう簡単には成功できない。簡単に大金を掴むことはできない。それは自分自身も強く感じてきた。少し前までは自分と同じような状況にいたので、きっとユウはお金に困っているに違いない。今まで連絡してこなかった自分に連絡して来るぐらいだから相当困っているに違いない。大田はそう考えていた。しかし過去2人の間にお金の貸し借りはなかったし、お金のことに関してはユウはきっちりとしていた。だからユウが実際自分にお金を貸してくれと頼む姿は想像できなかった。そんなユウが自分に一体どのように頼むかがとても気になった。そのことが気がかりで待ち合わせの時間までもいてもたってもいられなかった。早くユウに会いたかった。
大田は前日に無断で休んでしまったことと、今までお世話になった挨拶の為バイト先に顔を出してからユウとの待ち合わせ場所に向かった。
ご主人はやはり大田の履歴書詐称の件を注意し問題視していたが、女将さんは太田をかばってくれた。しかし他の従業員達の手前、気まずさもあり大田はバイトを辞める事にした。
「今までお世話になりました。」
そう言って頭を下げると、ご主人が餞別代りに2万円入った封筒を渡してくれた。
まだもらっていない給料の代わりだろうか。月末締めの10日払いの給料で、今が12日なので、少ないが妥当な金額のような気もした。
「おお、大田ぁ。久しぶり。」
待ち合わせ場所の駅前にある噴水に着くと、ユウは軽く手を上げてこちらに近寄ってきた。
上下黒いスーツを着て、ジャケットの下にはネクタイはしていなかったが襟元をきっちりと閉めた白いワイシャツを着ていた。この季節にしては少し肌寒そうな服装。
大田はユウのスーツ姿を見た事がなかったので、自分の知っているユウとは別人のような気がした。
「やあ、ユウ君。」
大田は少し照れ笑いをしながら言った。
ユウに会って懐かしさとうれしさがこみ上げてきたがそれを表に出すのをためらったような感じだ。
「悪いね突然。」
「いや、大丈夫だよ。俺もちょうど今日からは予定がなくて困っていたんだ。」
「元気そうじゃないか。」
ユウが太田の足元下から視線を上げながら言う。
「そうかな?まあこんな短期間じゃ何も変わらないよ。ユウ君も元気そうじゃん。スーツなんて着てるしビックリしたよ。」
「ははっ。」
「それでどうしたんだ?電話で言っていた頼みって……。」
「ああそれなんだけど……。実は貸してもらいたいんだ……。」
「そうだ。少しお腹すかないか?ユウ君飯食った。?俺まだ朝から何も食べていないんだ。」
大田は自分から聞いといて、不自然に半ば強引に会話を遮った。しまったというような焦りが見て取れるようだった。
「……。い、いやまだだけど…。」
「だったら、そこのマック行こうよ。ここじゃあ寒いし、クーポンがあるから俺が奢るからさ。」
「えっ。あ、ああ。」
2人は少しギクシャクとしながら歩き始めた。大田が前を歩きその後ろに微妙に距離をとりながらユウが続いた。マックにつくまでに2人の間に特に会話はなかった。
ハンバーガとポテトの乗ったトレイを席に置くと、大田はおもむろにホケットから茶色い封筒を取り出し、席に着いたユウの目の前に置いた。
それはさっきここに来る前にバイト先から貰ったばかりの2万円が入った封筒。大田はバイト先のご主人から餞別代りといって封筒を貰った後、ここに来るまでにユウがお金を貸してくれと言ってきた場合は渡してやろうと思い、中のお金を財布に移さずそのままにしておいたのだ。
ユウが、ビックリして目の前に置かれた封筒を見つめる。
「……。!?。」
「ある時で、いいよ。」
大田はそう言うと、ポテトを一つつまんで口に入れながらユウの正面のイスに座った。
大田にとってユウはたった一人の友人だし、久しぶりに会ったのに、お金のことでごちゃごちゃと話をして気まずくなるよりは、最速でお金の話は終わりにしたかった。
ユウにお金を貸すことはユウから電話で、「頼みがある。」と言われた時から決めていた。今の自分を頼りにしてくる人間なんていない。関わってくる人だって少ない。
もし別に返って来なかったとしてもそれはそれでかまわない。幸い今はまだ大田の財布には若干のお金があったし、このお金は本来ないはずのお金だ。
「大田?」
ユウが不思議そうに封筒を手にして中身を覗く。
大田は自分の使命である、共同体に寄生できないボトムの住人を救うということの第一歩として、行動として起こしたに変な喜びすら感じていた。
中身を検めたユウは何故か太田を睨みつける様に見ていた。




