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異世界転生冒険者かと思いきやスローライフルートでした~頼れるのはネットショッピングと銀行残高だけ~  作者: 銀颯


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第6話 荒れ地の夜

「さて、夕食は…っと。」


マコトは自転車を倒れないように固定すると、アイテムボックスから昼間に購入しておいた缶詰を取り出した。


「とりあえず、夕飯はこれで。」


「それは食べ物なのですか?」


アリシアは、マコトの手にある小さな金属の容器を不思議そうに見つめた。


「ああ。中に料理が入ってるんだ。保存が利くから、持ち運びにも便利なんだよ。」


「この小さな容器の中に、料理が?」


「そうそう。ちょっと待ってね。」


マコトはプルタブを引っ張って缶詰を開けた。よくある焼き鳥の缶詰である。一応中身を確認してから、フォークと一緒にアリシアに差し出す。


彼女は少し警戒しながらも、差し出された食べ物を口に運んだ。


「……おいしい!」


「よかった。」


マコトは自分の分も開けて食べ始めた。


温かい料理ではないが、空腹を満たすには十分だった。食べ物が手に入るだけでもありがたい。荒れ地に放り出された直後は、水を確保することさえ難しいと思っていたのだから。


「こんな食べ物があるなんて、初めて知りました。遠い国の品なのですか?」


「まあ、そんなところかな。」


マコトは曖昧に答えた。


現代の日本で作られた缶詰だと説明しても、理解してもらえるとは思えない。そもそも、自分がどこから来たのかさえ正直に話せないのだから、今は適当にごまかすしかなかった。


アリシアは納得したような、していないような表情を浮かべていたが、それ以上は尋ねなかった。


夕食を終えると、二人は食べ終わった容器を片づけた。


次は、寝る前に身体を清潔にしたいところだ。


「さすがに、砂ぼこりが気になるな。」


マコトはアリバースからウェットティッシュを取り出した。水を使って身体を洗うのはもったいないし、そもそも荒れ地の真ん中で水浴びなどできるはずもない。とはいえ砂まみれで寝るのも気持ちが悪かった。


ウェットティッシュで顔や首、腕などを拭くと、少しだけさっぱりした。


「アリシアさんも、これを使うといいよ。俺はあっちを向いているから。」


マコトはウェットティッシュを渡し、彼女に背を向けた。


「これは……布ですか? ずいぶん薄いのですね。」


「使い捨ての布みたいなものだよ。汚れたら捨てればいいから。」


「使い捨て?」


アリシアは不思議そうにしていたが、マコトはそれ以上説明せず、少し離れた場所で待つことにした。


相手は女性だ。いくら一緒に旅をしているとはいえ、身体を拭くところをじろじろ見るわけにはいかない。


「ありがとうございます。終わりました、とても気持ちよかったです。」


満足そうなアリシアの声が聞こえ、マコトは振り返った。


「それじゃあ、次は寝る準備だな。」


そう言ったものの、マコトはすぐに困ったことに気づいた。


野営するための道具を用意するつもりではいたが、二人分の寝床については深く考えていなかったのだ。


何もない荒れ地の地面に二人並んで横になるというのは、さすがに気が引ける。アリシアだって、見知らぬ男と一緒に寝るのは抵抗があるだろう。


「寝る場所、どうしようか。」


マコトは腕を組んだ。


女性であるアリシアを安心して眠らせるには、やはり自分とは別の寝床を用意したほうがいい。


「アリバースで何か買うか。」


マコトはショッピング画面を開いた。


テントと寝袋。野営に必要そうな商品を検索すると、いくらでも見つかった。


「よし、これでいいかな。」


マコトは一人用のテントと寝袋、マットを購入した。商品が目の前に現れると、説明書を確認しながらテントを組み立てていく。


慣れない作業に少し手間取ったものの、なんとか一人が寝られるテントが完成した。


「よし、できた。」


「それは、いったい何なのですか?」


アリシアは、目の前に突然現れた奇妙な布の建物を見つめていた。


「テントっていうものだよ。中で寝られるんだ。」


「布でできた小屋、ということでしょうか?」


「まあ、そんな感じかな。雨や風をある程度防げるんだ。」


マコトは簡単に説明した。


この世界にも似たような道具があるのかもしれないが、少なくともアリシアには珍しいものらしい。彼女はテントの周囲を歩き、布や支柱を不思議そうに眺めていた。


「アリシアさんは、この中を使って。俺は外で寝袋を使うよ。」


「えっ? マコトさんはどうするのですか?」


「俺はこっち。地面に直接寝るわけじゃないから大丈夫。」


マコトは寝袋とマットを見せた。


アリシアは納得できない様子で、しばらくそれらを見つめていた。


「どうして、そこまでしてくださるのですか?」


「どうしてって、女性を外で寝かせるわけにはいかないだろ?」


マコトは当たり前のことのように答えた。アリシアはまだ納得していない風だったのでマコトは続けて答えた。


「それに、俺もアリシアさんも、今は同じ状況だ。お互いに助け合ったほうがいいと思うんだよ。」


アリシアは黙り込んだ。


彼女にとって、マコトはまだ信用しきれない相手だ。どこから来たのかも、どんな身分なのかもわからない。普通では考えられない道具を持ち、食料や水を簡単に用意してしまう。


怪しいと思うのは当然だった。


それでも、彼は自分を助けてくれた。襲ってきた男たちを追い払っただけでなく、食べ物を分け、移動手段まで用意してくれた。そして今も、自分が安心して眠れるように気を遣っている。


少なくとも、今のところ彼から不快なことをされた覚えはなかった。


「ありがとうございます、マコトさん。」


アリシアは小さく頭を下げた。


「どういたしまして。じゃあ、ゆっくり休んで。」


マコトは笑顔で答えた。


アリシアはテントの中へ入っていった。マコトも自分の寝床を整え、マットの上に寝袋を広げる。


空を見上げると、夕焼けはすでに薄れ始めていた。やがて暗闇が荒れ地を覆い、遠くの景色も見えなくなるだろう。


「それにしても。」


マコトは周囲を見渡した。


この世界に来た直後、荒れ地で目を覚ましたときには、すぐ近くから魔物らしき唸り声が聞こえていた。あのときは何もできず、いつ襲われるかと恐怖でいっぱいだった。


ところが、あれから今まで、魔物の姿を見ていない。


移動中も、野営の準備をしている間も、危険な気配は感じられなかった。


「この辺りには、魔物がいないのか?」


そうだとすれば助かるが、断言はできない。昼間は姿を見せないだけかもしれないし、夜になってから活動を始める可能性もある。


マコトは念のため、すぐに起きられるように道具を整理しておいた。


「まあ、何も起きないのが一番だよな。」


疲れは限界に近かった。明日も自転車を走らせなければならないのだから、今は休むことが先決だ。


マコトは寝袋に身体を入れ、ゆっくりと目を閉じた。


こうして、異世界での最初の夜が始まった。


◇◇◇◇


翌朝。


「……ん、朝か。」


マコトは目を覚まし、寝袋から身体を起こした。


身体のあちこちが少し痛むものの、思ったよりは眠れたらしい。周囲を見渡しても、夜の間に何かが近づいてきた形跡は見当たらなかった。


「おはようございます、マコトさん。」


テントから出てきたアリシアが、穏やかな声で挨拶した。


「おはよう。よく眠れた?」


「はい。おかげさまで。マコトさんは大丈夫でしたか?」


「ちょっと身体が痛いけど、問題ないよ。」


「本当に、ありがとうございます。おかげで安心して休めました。」


アリシアは昨日よりも少し柔らかな表情をしていた。


まだマコトを完全に信用したわけではない。それでも、彼の気遣いに対する警戒心は、ほんの少しだけ薄れていた。


二人は朝食を簡単に済ませ、野営に使った道具を片づけた。テントや寝袋、マットなど、アリバースで購入した品はアイテムボックスへ収納する。


荷物をまとめ終えると、マコトは自転車にまたがった。


「じゃあ、出発しよう。今日こそ荒れ地を抜けたいな。」


「はい。村まで、もう少しだといいのですが。」


アリシアをトレーラーに乗せ、二人は再び走り始めた。


どこまでも続く乾いた大地。昨日と同じように、視界には岩と土ばかりが広がっている。目印になるものも少なく、進んでいる方向が本当に合っているのか、不安になるほどだった。


それでも、アリシアの案内を頼りに進むしかない。


マコトは地面の状態を確認しながら、慎重にペダルを踏み込んだ。大きな岩を避け、深いくぼみを迂回する。思うように速度は出せないが、徒歩よりはずっと早い。


「アリシアさん、疲れてない?」


「大丈夫です。マコトさんこそ、無理をなさらないでくださいね。」


「俺は自転車をこいでるだけだからね。まだ平気だよ。」


そう答えたものの、マコトも疲れを感じ始めていた。


荒れ地には日差しを遮るものがなく、長時間走っていると体力を消耗する。水分を補給しながら、適度に休憩を挟む必要があった。


それでも、魔物に遭遇しないことは幸いだった。


「そういえば、昨日も今日も魔物を見かけないな。」


マコトがつぶやくと、アリシアも周囲を見渡した。


「確かに、不思議ですね。荒れ地にはたくさん魔物がいると聞いていましたが。」


「最初に目を覚ましたときは、すぐ近くで唸り声が聞こえたんだけどな。」


「この辺りには、あまり近づかないのかもしれません。」


「そうだといいけど。」


マコトはそれ以上考えるのをやめた。


魔物がいない理由は気になるが、今は無事に村へたどり着くことのほうが重要だ。


その後も二人は荒れ地を進み続けた。


「そろそろかな。」


マコト達の正面、かなり近くに木々が何本も連なり、広大な森が広がっていた。荒れ地の終わりが、ようやく見えてきたのだ。


「やった!ようやく荒れ地を抜けられる!」


マコトは思わず声を上げた。


「本当ですね! あの森を越えれば、村にも近づけるはずです。」


アリシアの声にも喜びがにじんでいた。


二人は最後の荒れ地を進み、ついに森へとたどり着いた。


森の中には、人が通るために使われているらしい道が続いていた。踏み固められた土の道で、周囲には草が生え、木々の葉が風に揺れている。


荒れ地では、草一本見つけるだけでも難しかった。それが今では、足元に緑が広がっている。


「同じ世界なのに、こうも違うんだな。」


マコトは感心したように周囲を見渡した。


もちろん、森にも危険はある。魔物が潜んでいる可能性もあるため、油断はできない。それでも、荒れ地を抜けられたことは大きな前進だった。


「村までは、もう少しです。この道を進めば、たどり着けるはずです。」


アリシアが道の先を指さした。


「よし、もうひと踏ん張りだな。」


マコトは再び自転車を走らせた。


森の道をしばらく進むと、木々の隙間から建物らしきものが見え始めた。


「……あれか?」


目を凝らすと、木造の建物がいくつも並んでいるのがわかった。周囲には柵のようなものもあり、その向こうには畑らしき場所も見える。


「村です! あそこが村ですよ、マコトさん!」


アリシアが弾んだ声を上げた。


マコトは思わず笑みを浮かべた。


「よかった。これで、ひとまず安心できそうだ。」


荒れ地で目を覚ましてから、まだ一日と少ししか経っていない。それなのに、ずいぶん長い道のりだった気がする。


水を買い、食料を買い、移動手段を工夫して、何とかここまでたどり着いた。


もちろん、これから先も問題は山積みだ。お金をどうするのか、どうやってこの世界で生活していくのか。アリバースのことを誰かに知られても大丈夫なのか。


考え始めればきりがない。


それでも、人の住む場所にたどり着けたことは大きな一歩だった。


マコトは自転車の速度を落とし、村へ続く道を進んでいった。


異世界での生活は、ようやくここから始まるのかもしれない。


―――


今回の購入品

テント 5000円

寝袋 3000円

マット 4000円


今回の購入合計

12000円


購入前の銀行残高

492万4400円


購入後の銀行残高

491万2400円

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