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異世界転生冒険者かと思いきやスローライフルートでした~頼れるのはネットショッピングと銀行残高だけ~  作者: 銀颯


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第5話 サイクリングをしよう

「とりあえず、アリシアさんが来た方向へ行ってみるか。」


マコトは荒れ地を見渡しながら、そう口にした。


村までは馬で三日。先ほどアリシアから聞いた話を考えれば、徒歩ではもっと時間がかかるだろう。しかも、ここは魔物がうろつく危険な土地だ。のんびり歩いている余裕はない。


「そうですね。私も、できるだけ早くここを離れたいです」


アリシアも周囲を警戒しながらうなずいた。


彼女がどこから来たのか、なぜ男たちに襲われていたのか。気になることは多いが、今はそれを追及している場合ではない。まずは人の住む場所までたどり着くことが先決だった。


二人はアリシアが来た方向へ歩き始めた。


しかし、歩き始めてすぐにマコトは現実を思い知らされることになった。


「いや、これ、いつ着くんだ?」


目の前には、どこまでも続く乾いた大地が広がっている。目印になるものといえば、ところどころに転がっている岩くらいだ。道らしい道もなく、どこまで歩けば村にたどり着けるのか見当もつかない。


しかも、日差しが強い。


水はアリバースで購入できるとはいえ、体力には限界がある。マコトはともかく、アリシアは先ほどまで疲れ切っていたのだ。無理をさせれば、途中で動けなくなるかもしれない。


「何か移動手段があればいいんだけどな。」


マコトは歩きながら考えた。


異世界での移動手段といえば、馬車や馬が定番だ。先ほどの男たちも馬に乗っていた。馬さえ手に入れば、徒歩よりもずっと早く村へ向かえるはずだ。


「そうだ。アリバースで馬車を買えばいいんじゃないか?」


マコトは足を止め、ショッピング画面を開いた。


異世界に来てから何度も利用しているアリバースなら、馬車くらい売っているかもしれない。そう考え、検索欄に「馬車」と入力する。


しかし、表示された商品を見て、マコトは首をかしげた。


「そりゃ本物はないかぁ。」


並んでいるのは、子ども向けの木製玩具や、精巧に作られたミニチュアの馬車ばかりだった。実際に人が乗れるような馬車は、いくら探しても見つからない。


「うーん。現代で馬車なんて普通は使わないもんな。」


気を取り直して、今度は「馬」と入力してみる。


表示されたのは、馬のぬいぐるみや置物、競馬関連の商品、馬具など。肝心の生きた馬は、どこにも見当たらなかった。


「馬もそりゃないよな。」


検索条件を変えてみても、結果は変わらない。


「なんでも買えるって謳い文句はしょせん宣伝用だな。」


水も食料も日用品も、注文すれば簡単に手に入った。だから、アリバースには何でもそろっているような気がしていたのだ。しかし、現代のネットショップに、生きた馬や実用的な馬車が都合よく売られているわけではないらしい。当然といえば当然だがどこかアリバースに期待してしまっていた。


馬車も馬も手に入らない。これでは、最初に思いついた移動手段は使えなかった。


「となると、ほかの乗り物か。」


マコトは画面を見つめながら、次の手を考えた。


「そうだ。車とかバイクならどうだ?」


車があれば、村までの距離もかなり短縮できるはずだ。バイクなら車よりも小回りが利くし、燃費のいいものを選べば長距離移動にも向いている。


マコトはさっそく、アリバースで車やバイクを検索してみた。


案の定、車もバイクも数多くの商品が表示された。中古車から新車まで選択肢は豊富で、安いものを探せば手が届かない価格ではない。


「おお、これならいけるんじゃないか?」


一瞬、希望が見えた気がした。


しかし、すぐに現実的な問題が頭をよぎる。


まず、車もバイクも本体価格が高い。安い中古車でも、これから生活の基盤を整えなければならないマコトにとっては大きな出費だ。燃料も必要になるし、故障すれば修理しなければならない。


それに、もっと根本的な問題があった。


「俺、免許持ってないんだよな。」


マコトは、運転免許を取得する機会がなかった。日本ならともかく、異世界で免許なしに運転しても問題ないのか以前に、まともに運転できる自信がない。


「さすがにぶっつけ本番で運転するのは怖いな。」


事故を起こせば、それこそ命に関わる。魔物がいるような土地で、慣れない車を運転するのは危険すぎた。


「うーん。ほかに何かないか?」


マコトは画面をスクロールしながら考え込んだ。


高価すぎず、燃料も必要なく、運転免許もいらない乗り物。そんな都合のいいものがあるだろうか。


そこで、ふと一つの乗り物が頭に浮かんだ。


「自転車ならどうだ?」


自転車なら燃料はいらない。車やバイクに比べれば値段も安く、操作も難しくない。多少の荷物を運ぶこともできるし、徒歩よりはずっと速いはずだ。


「よし、試してみるか!」


マコトは検索欄に「マウンテンバイク」と入力した。


表示された商品を確認すると、頑丈そうな車体の自転車がいくつも見つかった。舗装されていない荒れ地を走るなら、普通のシティサイクルよりもマウンテンバイクのほうが向いているだろう。


ただし、ここでも問題があった。


「俺は乗れるけど、アリシアさんはどうする?」


マコトが振り返ると、アリシアは不思議そうな顔でこちらを見ていた。


「アリシアさん、自転車って乗ったことある?」


「じてんしゃ?ですか?いえ、聞いたこともありません。」


「まあそうだよね。」


アリシアが自転車に乗れるわけもなく、かといって二人乗りは流石にしんどいだろう。


「うーん…。」


マコトは再び商品を眺めた。すると、自転車の後ろに取り付けて荷物などを運ぶためのトレーラーが目に入った。


「これだ!」


自転車用のトレーラーなら、荷物を運ぶのに便利そうだ。これにアリシアを乗せられれば、二人で移動できるかもしれない。


マコトは商品説明を確認した。


トレーラーは、荷物を運ぶためのものだった。犬猫などのペット用もあるが、人間を乗せることを想定した製品ではない。安全面を考えれば、当然ながら推奨できる使い方ではなかった。


「人間を乗せても大丈夫か?」


マコトは画面を見つめたまま、しばらく考え込んだ。


本来の用途から外れているのはわかっている。だが、馬も馬車もない。車やバイクは高いうえに運転できない。歩き続ければ、アリシアの体力がもたない可能性もある。


「ほかに手段もないし、気をつけて使えばいいだろ。」


もちろん、無理な速度を出すつもりはない。段差や岩場では慎重に進み、危険そうなら降りて歩けばいい。


マコトはそう自分に言い聞かせ、マウンテンバイクと自転車用トレーラーを購入することにした。


さらに、長時間乗っていても疲れにくいように、クッションやマットも一緒に選ぶ。


合計金額を確認し、マコトは少しだけ眉をひそめた。


「ちょっと高いが車を買うよりはずっと安いか。」


安い買い物ではないが、命を守るための出費だと考えれば仕方がない。銀行残高には限りがあるものの、ここで移動手段を確保できなければ、村へたどり着くまでに体力を使い果たしてしまう可能性もある。


マコトは購入ボタンを押した。


次の瞬間、目の前にマウンテンバイクとトレーラーが現れた。


「よし。あとは組み立てるだけだな。」


説明書を確認しながら、マコトはトレーラーを組み立てていった。幸い、工具もセットだったため、作業自体はそれほど難しくなかった。


しばらくして、ようやく準備が整った。


「お待たせ。これに乗ってもらえるかな。」


マコトがトレーラーを指さすと、アリシアは戸惑ったようにそれを見つめた。


「これは……何なのですか?」


「自転車っていう乗り物だよ。俺が前を走るから、アリシアさんは後ろに乗っていてくれればいい。」


「これで移動できるのですか?」


「まあ、見ててよ。」


マコトは自転車にまたがり、ゆっくりとペダルを踏んだ。


自転車は問題なく走り始めた。後ろのトレーラーも安定しており、思っていた以上に乗り心地は悪くなさそうだった。


「おお、意外といけるな!」


マコトは速度を上げすぎないよう注意しながら、荒れ地を進んでいく。


徒歩ではなかなか進まなかった景色が、少しずつ後ろへ流れていった。もちろん舗装された道路のようにはいかないが、歩くよりは格段に速い。


「マコトさん、すごいですね! こんな乗り物があるなんて!」


トレーラーに乗ったアリシアが、驚いた声を上げた。


「まあ、便利な乗り物なんだよ。段差があるから、揺れには気をつけてね。」


「はい!」


アリシアは楽しそうに返事をした。


どうやら、乗り心地も悪くないらしい。マコトは少し安心しながら、進行方向に目を向けた。


これなら、何とか村までたどり着けそうだ。


自転車で快適に進み始めること数時間、マコトの視界の先に変化が現れた。


「……おっ?」


遠くの地平線に、緑色の影が見えたのだ。


最初は目の錯覚かと思った。しかし、近づくにつれて、それが木々の集まりであることがわかってきた。


「木がある……!」


荒れ地に来てから、草一本まともに生えていない景色ばかりを見てきた。そんな中で見つけた緑は、マコトにとって希望そのものだった。


「本当ですね。森の近くには集落があると思います!」


アリシアもほっとした表情を浮かべた。


「とりあえず日も傾いてきたし、今日はこの辺りで休むのがよさそうだ。」


やがて、木々の姿がはっきりと見える距離まで近づいた。この調子ならば明日には着きそうだ。周囲を慎重に確認したが、すぐ近くに魔物の姿は見当たらない。


「よし。今日はここで野営しよう。」


マコトは自転車を止め、トレーラーからアリシアを降ろした。


空を見上げると、太陽はすでに低い位置まで沈みかけていた。暗くなってから行動するのは危険だ。ここで休み、明るくなってから再び村を目指すのが賢明だろう。


「野営、ですか……。」


アリシアは少し不安そうな顔をした。


「大丈夫。食料も水もあるし、寝るための道具も用意できるから。」


マコトはそう答えながら、アリバースの画面を開いた。


テントに寝袋、マットにランタン。必要なものをそろえれば、最低限の寝床は確保できるはずだ。


もちろん、魔物がいる世界での野営が安全だとは限らない。それでも、何も準備せずに夜を迎えるよりはずっといい。


マコトは商品を選びながら、これからの生活について考えた。


この世界で生きていくには、アリバースを使いこなすだけでは足りない。限られた銀行残高をどう使い、どうやって安全な場所を確保し、いずれは現地で収入を得るのか。考えなければならないことは山ほどある。


「まずは、今夜を無事に乗り切ることからだな。」


異世界で初めての夜は野営となった。


―――


今回の購入品      

マウンテンバイク 50000円

自転車用トレーラー 10000円

クッション・マット 3000円


今回の購入合計

63000円


購入前の銀行残高

498万7400円


購入後の銀行残高

492万4400円


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