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異世界転生冒険者かと思いきやスローライフルートでした~頼れるのはネットショッピングと銀行残高だけ~  作者: 銀颯


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第4話 炎の魔法使い?

「おい、てめえ! 何を見てやがる!」


岩陰から様子をうかがっていた真に、男の一人が気づいた。


男たちは全部で三人。身なりは薄汚れており、腰には剣や短剣をぶら下げている。足元には荷物が転がり、少し離れた場所には馬がつながれていた。


そして、彼らに囲まれているのは一人の女性だった。女性は怯えた様子で後ずさりしていたが、真の姿を見つけると、わずかに希望を取り戻したような顔をした。


「助けてください!」


「ちっ、なんでこんなところに人がいやがる。」


男の一人が舌打ちした。ほかの二人も真に視線を向け、じろじろと値踏みするように眺めてくる。


真は内心で冷や汗を流していた。


勢いで助けに来てしまったが、よく考えれば自分には戦闘経験などない。ステータスを見ても、特別な能力はなかった。相手は三人で、武器まで持っている。


正面から戦えば、どう考えても勝ち目はない。


「おい、聞いてんのか。さっさと失せろ。そうすりゃ見逃してやる。」


「いや、その人を放してやってくれないか。」


口ではそう言ったものの、真はすでに逃げ道を探していた。


男たちは顔を見合わせ、やがて下品な笑い声を上げた。


「何だ? 正義の味方気取りか?」


「お前一人で俺たち三人を相手にするつもりかよ。」


「痛い目を見る前に、そこをどきな。」


一人が剣の柄に手をかけた。


まずい。本格的に戦う気らしい。


真は焦りながら、アリバースの画面を開いた。武器を買うべきか。防具か、それとも何か別の道具か。考える時間はほとんどなかった。


そのとき、商品検索の途中で目に入ったものがあった。


ガスバーナー。


アウトドア用品として販売されている、火を噴き出す道具だ。


「これだ!」


真は迷わず購入ボタンを押した。


注文完了の表示と同時に、手元に商品が現れる。真はバーナーを構え、点火スイッチを操作した。


ボッ!


勢いよく炎が噴き出した。


「うおっ!」


炎が空気を焼き、ゴオッという音が荒れ地に響く。真自身も予想以上の迫力に驚いたが、今さら引っ込めるわけにもいかなかった。


「これ以上近づくな!」


できるだけ威圧的に叫び、炎を地面から少し離れた場所へ向ける。


男たちの表情が一変した。


「なっ……火魔法だと!?」


「馬鹿な、詠唱もなしに炎を出しやがった!」


「おい、あいつ魔法使いじゃねえのか!」


真は内心で首を傾げた。


いや、これ、ただのガスバーナーなんだけど。音は凄いけど大した炎は出ていないし。


しかし、そんな説明をする必要はない。相手が勝手に勘違いしてくれるなら、そのほうが都合がよかった。


「次はお前たちに向けるぞ!」


真は炎を見せつけながら、なるべく脅すような声を出した。


男たちは一歩、また一歩と後ずさった。三人のうち一人が、腰の剣から手を離す。


「やべえぞ。火魔法使いなんて!」


「おい、逃げるぞ!」


「目的は達成したしな!」


男たちは慌てて馬のもとへ走った。先ほどまでの威勢はどこへやら、互いを押しのけるようにして馬に乗ると、荒れ地の向こうへ逃げ去っていった。


やがて蹄の音が遠ざかり、あたりに静けさが戻った。


真はしばらくバーナーを構えたまま、動けなかった。


「た、助かった。」


炎を止めると、ようやく全身から力が抜けた。


勝ったわけではない。相手が勝手に勘違いして逃げてくれただけだ。もし彼らが魔法ではないと気づいていたら、どうなっていたか分からない。


「心臓に悪すぎるだろ……。」


真はガスバーナーを見つめた。異世界に来て初めての危機を救ってくれたのは、剣でも魔法でもなく、現代日本のアウトドア用品だった。


アリバースさまさまである。


「……あの、大丈夫ですか?」


女性の声が聞こえ、真は我に返った。


そうだ。助けた女性がいる。


真はバーナーを収納し、女性のほうへ向き直った。


「ええ、まあ。そちらこそ怪我はありませんか?」


「はい。助けていただいて、本当にありがとうございます。」


女性は深々と頭を下げた。


改めて見ると、かなり整った顔立ちをしていた。銀髪の長い髪は砂埃で少し汚れているものの、身につけている服は上質そうな生地で作られている。装飾も控えめながら品があり、荒れ地を歩く旅人というより、どこかの貴族や裕福な商家の娘といった印象だった。


こんな場所にいるには、あまりにも不釣り合いだ。


「俺は篠原真です。マコトでいいですよ。」


「マコトさんですね。私はアリシアと申します。」


アリシアは丁寧に名乗った。


その話し方にも、どこか育ちのよさが感じられた。先ほどの男たちに襲われていた理由は気になるが、今すぐ問い詰めるのも違うだろう。


それに、マコト自身も事情を説明できる立場ではない。異世界から来たことや、アリバースのことについて、簡単に話すわけにもいかなかった。


「……ひとまず、無事でよかったです。」


「はい。本当に、どうお礼を申し上げればいいか……。」


アリシアはそう言ったものの、疲労が顔に出ていた。唇は乾き、足元も少しふらついている。


マコトはアリバースから水と食料を取り出した。


「とりあえず、これをどうぞ。水と食べ物です。」


「よろしいのですか?」


「もちろん。無理せず、ゆっくり食べてください。」


アリシアは遠慮がちに水を受け取ったが、一口飲むと、こらえきれないように何度も喉を潤した。そのあと、真が渡した食料といってもただのパンなのだがそれにも勢いよく手を伸ばす。


しばらくして、彼女の顔色が少しずつよくなっていった。


「……ありがとうございます。ずいぶん楽になりました。」


「それはよかった。」


真はほっと息をついた。


ただ、少し気になることがあった。


アリシアは水と食料を口にしただけなのに、先ほどまでの弱々しさが明らかに薄れている。疲れ切っていた表情にも生気が戻り、立ち姿もしっかりしてきた。


もちろん、単純に空腹と脱水が改善しただけかもしれない。だが、異世界の食べ物には何らかの回復効果があるのだろうか。


真は自分が水を飲んだときのことを思い出した。喉の渇きが癒えたのは当然として、気持ちまで落ち着いたような感覚があった。


「この世界の食べ物って、体力を回復させる効果があったりしますか?」


「回復、ですか? 普通の食べ物に特別な力があるわけではありません。ただ、十分に食べて水を飲めば、体力は戻ると思いますが…。」


アリシアは不思議そうに答えた。


どうやら、特別な効果があると決まったわけではないらしい。マコトの考えすぎかもしれない。


とはいえ、これから生活していくうえで、食料の確保は重要だ。異世界の食材とアリバースの商品で、何か違いがあるのか。余裕ができたら確かめてみてもいいだろう。


マコトはひとまず、その疑問を頭の片隅に置いておくことにした。


「ところで、少し聞いてもいいですか?」


「はい。私に答えられることでしたら。」


マコトは少し迷ってから、周囲を見回した。


「ここは一体、どんな場所なんです? 見渡す限り荒れ地だし、人が住んでいる場所も見当たらないんですが。」


アリシアは不思議そうに首を傾げた。


「この土地をご存じないのですか?」


「ああ、ええと……実は、かなり遠くの土地から旅をしてきたばかりでして。道中いろいろあって、気づいたらこんな場所にいたんです。地理にも詳しくなくて。」


マコトはとっさにそう答えた。


嘘をつくのは気が引けたが、まさか異世界から転生してきたなどと言えるはずもない。アリバースのことも含め、今は自分の事情を明かさないほうがよさそうだった。


アリシアはマコトの顔をじっと見つめた。どこか納得していない様子にも見えたが、やがて小さくうなずいた。


「そうでしたか。遠方からいらしたのであれば、ご存じなくても無理はありませんね。」


それ以上、彼女が詳しく尋ねてくることはなかった。


もっとも、アリシア自身も、なぜこんな荒れ地に一人でいたのかを話していない。マコトの事情を追及すれば、自分にも説明を求められるかもしれない。そんな考えがあったのかもしれなかった。


マコトも、彼女が何かを隠していることには気づいていた。しかし、助けたばかりの相手に無理やり事情を聞き出すつもりはない。


お互いに話したくないことがある。それなら、今は無理に踏み込まなくてもいいだろう。


「それで、この荒れ地について何か知っていたら教えてもらえませんか?」


「ええ。ここは、かつて大きな戦争があった土地です。多くの命が失われ、土地そのものも大きな被害を受けたと聞いています。」


「戦争……。」


「戦争が終わってから長い年月が経った今でも、草木がほとんど育ちません。生き物が暮らすには厳しい環境ですし、魔物も多く棲みついています。人が近づくような場所ではありません。」


マコトは荒れ地を見渡した。


植物がまったく見当たらない理由は、単に雨が少ないからというわけではないらしい。過去の戦争が土地にまで影響を残しているというのなら、この場所が危険なのも納得できる。


「じゃあ、ここから人が住んでいる村までは、どれくらいかかるんですか?」


「馬で移動しても、三日ほどはかかると思います。」


「三日……。」


マコトは思わず顔を引きつらせた。


歩けば、いったい何日かかるのだろう。しかも、その間ずっと魔物の危険がある。水と食料を買えるとはいえ、戦う力のない自分が無事にたどり着ける保証はない。


それでも、人里が存在すると分かったのは大きな収穫だった。


「なるほど。教えてくれてありがとうございます。」


「いえ。こちらこそ、助けていただいたうえに食べ物まで分けていただいて。」


アリシアは改めて頭を下げた。


真は苦笑した。彼女がどこから来たのか、なぜ一人で荒れ地にいたのか、そして先ほどの男たちが何者だったのか。気になることはいくらでもある。


しかし、アリシアが自分の事情を話したくないのなら、無理に聞くつもりはなかった。真自身にも、簡単には明かせない事情がある。


お互いに話したくないことがある。それなら、今は無理に踏み込まなくてもいいだろう。


問題は、これからどうするかだ。


村までは馬で三日。馬は男たちが乗って逃げてしまった。真には移動手段もなく、荒れ地で生き延びるための知識も足りない。


「さて、どうしたものかな。」


真は空を見上げた。


平穏な生活を手に入れるどころか、ようやく助けた女性と一緒に、危険な荒れ地に取り残されてしまった。


どうやら異世界での生活は、まだまだ前途多難らしい。


―――


今回の購入品

ガスバーナー 4000円

ガスボンベ 300円


今回の購入合計

4300円


購入前の銀行残高

499万1700円


購入後の銀行残高

498万7400円

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