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あなたへ  作者: 臣 桜


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3/9

「呪わせてね」

《子供達はあなたと紗栄子の間で、二人手を繋いで歩いていて、まるで理想の家族のようでした。……そこでやっと私は、紗栄子が頻繁に私に子供達の写真を見せてきた意図を知ったのです。……夫(・)の(・)浮(・)気(・)に(・)気(・)づ(・)か(・)な(・)い(・)間(・)抜(・)け(・)な(・)女(・)。彼女はそう言いたかったのでしょうね。紗栄子が妊娠したのは、入社して二年経った頃。産休をとったからよく覚えています》


 俺はいつの間にかカラカラに渇いた喉を、唾を嚥下して湿らせる。


《紗栄子は復職したあと『シングルマザーだけど頑張ってる』と言っていたので、何かの事情があったんだろうな、と思いました。……でもその数年後に彼女はまた妊娠しました。結婚したという話も聞いていなかったので、おかしいなと思っていたんです。……でも、ようやく分かりました。あなた達は私の知らない所で関係し、私が不妊で苦しんでいるのをよそに、順調に子作りをしていたんですね》


 妻が何の意図でこの動画を残したのかを知り、胸の奥にジワリと嫌な感情が広がる。


 そこで、洋子は微笑んだまま、ボロボロッと大粒の涙を流した。


《……私からも告白します。……私、あなたに嘘をついてしまったんです。なかなか子供ができなくて、妊活するにもあなたは疲れた様子を見せていたから、……つい、『できたの』と嘘をついてしまったんです。……それぐらい、私はあなたとの子供が欲しかったんです……っ》


 彼女は号泣と言っていいほど涙を流しながらも、張り付いたような笑みを浮かべている。


《……それに私、紗栄子のバッグに小さな盗聴器を入れました。いけない事だと分かっても、彼女や子供と会っているあなたに、少しでも罪悪感があったなら、許そうと思ったんです。……でも、聞いてしまいました》


 動画の中の洋子はスマホを手にし、操作する。


 そのあと、キィンッと大きな音がし、大音量で〝俺〟の声がした。


[あーあ、早く洋子が死んでくれたらいいのにな]


「…………っ」


 ドッドッドッ……と心臓が早鐘を打ち、自分の声というものに、こんなに悪意が宿っていると思わなかった俺は、異様な恐怖を抱く。


 スマホからはさらに、大音量で〝俺〟の声が聞こえる。


[ご両親の遺産も結構な額みたいだし、遺産を残して死んでくれないかなぁ。そうしたら紗栄子と子供たちと一緒に暮らせるのになー]


[ねー、私もそう思う]


〝俺〟の声に続き、紗栄子の声も音割れした状態で聞こえる。


 洋子はスマホをタップし、悲しそうに微笑んだ。


《だから私、あなたのために死んであげる事にしました。自殺じゃ保険金が下りないし、せっかくならあなたが沢山得するように死んであげますね。知らない間に私に多額の保険金がかかっているのが分かりましたし、それがあなたの望みなんでしょう。……肉親を喪って、幸せな家庭を築くのが私の夢だったけれど、〝この人に一生を捧げる〟と決めた人は、私を選ばなかったようだから、…………もう、疲れちゃったんです》


 洋子は涙を拭い、溜め息をついてから笑う。


《今頃、紗栄子も同じような動画を見ていると思います。そんな二人の前途を祝福して、私からもお祝いを用意しました》


 動画の中の洋子は立ちあがり、テーブルの上から何かの紙片を取りだすと、カサカサと紙音を立てて広げ、それをカメラに近づけた。


「…………なんだ?」


 その紙には、何とも言えないモノが描かれてあった。


 お札のように見えたが、神社でもらう物よりずっと禍々しい物に思える。


 紙の中央には俺の名前が書かれ、至る所に〝死〟〝呪〟という字もある。


 文字を書いている赤黒い塗料は、どうやら血らしかった。


 直後、動画がブツンと切れた。






 静寂を取り戻したリビングで、俺はゾッと全身に鳥肌を立たせ、冷や汗を掻く。


 ドッドッドッ……と鼓動が高鳴り、周囲の空気が何度か下がったように感じる。


 フワッと背後に〝何か〟の気配を感じた時、肩を何者かに掴まれる感覚があった。


「――――っ!!」


 ゾクッとした俺の耳元に、間違えもしない、洋子の声が届いた。




「呪わせてね」





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