表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無属性の落ちこぼれと笑われた俺は、独りきりの古代遺跡で"本物の魔法"に目覚める ~世界の魔法は、最初から間違っていた~  作者: kariya


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/16

第4話「果ての地」

乗合馬車に揺られて、十日。

 東へ進むほど、景色から色が抜けていった。豊かな麦畑は痩せた荒れ地に変わり、すれ違う旅人も、相乗りの客も、一人また一人と減っていく。最後の三日は、御者と僕の二人きりだった。

「旦那、本当にフェルローズまで行くのかい」

道中、御者は何度もそう訊いた。

「あんな所、好きこのんで行くのは、訳ありか、行き場のない奴だけだ」

 僕は、どちらでもありますと答えそうになって、やめた。


 フェルローズは、灰色の空の下にあった。

 低い石垣に囲まれた、小さな集落。家々の屋根は半分朽ち、畑は石だらけで、痩せた家畜が数頭。東には黒々とした森が広がり、その向こうに、荒涼とした岩山が霞んでいる。風が、ひゅうと冷たく鳴いていた。

 ——ここが、僕の"所領"。

 話に聞いていた以上だった。これは領地ではない。世界に見捨てられた、ただの吹き溜まりだ。


 集落の奥に、ひときわ大きな——とはいえ、半ば廃墟の石造りの館があった。それが、アークライト家の名ばかりの所領館だという。割れた窓。蔦に覆われた壁。扉は片方が外れかかっている。

 その館の前で、僕を待っていたのは、一人の男だった。


 ボルツ。

 フェルローズの代官を、もう二十年も務めているという、岩のような男だった。陽に焼けた顔に、深い皺。片腕には、古い火傷の痕。魔物と渡り合ってきた者の体つきだった。

 彼は、父からの書状を受け取り、無言で読んだ。そして——低く、短く、笑った。嘲りではない。もっと乾いた、諦めに近い笑いだった。

「『所領の視察と管理を任せる』、ね」

書状を畳みながら、ボルツは僕を上から下まで眺めた。

「坊主。本当のところを言ってやろうか。お前さんは、捨てられたんだ。体面のいい言葉でくるんでな」

 わかっています、と言う前に、ボルツは続けた。

「だが、ここじゃそれは珍しくもねえ。フェルローズに来る奴は、みんな何かから逃げてきたか、何かに捨てられた奴らだ。だから一つだけ、ここの掟を教えとく」

 彼は、節くれだった指を一本立てた。

「働かん者は、食えん。貴族だろうが、子供だろうが、関係ねえ。この土地は、傅く余裕なんざ一滴も持っちゃいない。明日からどう食っていくかは、お前さんが自分で考えろ」


 冷たい、と思った。

 でも、不思議と、腹は立たなかった。

 ボルツの言葉には、屋敷の連中のような侮蔑がなかった。彼は僕を見下しているのではない。ただ、この土地で生き延びるための、たった一つの真実を告げているだけだった。魔法が使えるかどうかではなく、生きる気があるかどうか。それだけを問う目だった。

 ——ここでは、無属性ですら、ただの個人差にすぎないのか。

 その事実は、奇妙に、僕の胸を軽くした。


 その夜。

 僕は、誰もいない廃館の床に、薄い毛布を敷いて座っていた。暖炉はあるが、薪をくべる術を、僕は持たない。火属性なら指先一つで——という考えが浮かんで、苦く消えた。寒さに震えながら、冷えたパンをかじる。

 窓の隙間から、東の森が見えた。

 夕食を運んできてくれた村の女が、去り際に言っていた。「夜は、東の森に近づいちゃいけないよ。魔物が出る。……それに、あの森の奥にゃ、ずうっと昔の遺跡があるって話でね。入った者は、誰も帰ってこないのさ」

 遺跡。

 誰も帰ってこない、森の奥。

 普通なら、近づいてはいけない場所だ。


 なのに——どうしてだろう。

 その言葉を聞いた瞬間、ずっと冷えきっていた胸の奥で、ほんの小さな火が、ちりっと灯った気がした。

 怖い。寒い。明日の食べ物さえ、まだわからない。

 それでも僕は、荷物の中から、あの落書き帳を取り出していた。最後の白紙のページを開き、かじかむ指で、一行だけ書きつける。


 『東の森の奥に、古代の遺跡。誰も帰らない。——なぜ?』


 ペンを置く。

 窓の外、黒い森が、風にざわめいていた。まるで、何かが僕を呼んでいるみたいに。

 本当の絶望が待つ場所——それはきっと、あの森だ。

 そして同時に、僕の何かが始まる場所も、たぶん、あそこなのだと。

 この時はまだ、ぼんやりと、そんな予感がしただけだった。

面白いと思っていただけたら、ブックマーク・評価・感想をいただけると、今後の執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ